私の透析体験談
このコーナーでは、仕事や趣味などを通じて充実した毎日を過ごされている透析患者さんにご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

私の透析体験談 Vol.5
透析導入後の人生は「ボーナスステージ」、
楽しまなければもったいない。
第二の人生で新しい仕事にもチャレンジ!

峯木 良広(みねき よしひろ)さん(46)血液透析歴2年2カ月 写真
峯木良広さんが透析を導入されたのは約2年前。大好きなゲームにたとえると、透析導入後の人生は「ボーナスステージ」。毎日を「楽しまなければもったいない」という気持ちで過ごされていらっしゃるそうです。
食事療法や運動療法もゲーム感覚で無理なくクリアし、体力を回復させて臨んだ就職活動を経て、憧れだった大手ゲーム開発メーカーへの入社も決まった峯木さんに、透析導入からの2年間を振り返っていただき、透析を無理なく続けていくためのアドバイスをいただきました。

峯木 良広(みねき よしひろ)さん(46)
血液透析歴 2年2カ月

峯木良広さんが透析を導入されたのは約2年前。大好きなゲームにたとえると、透析導入後の人生は「ボーナスステージ」。毎日を「楽しまなければもったいない」という気持ちで過ごされていらっしゃるそうです。
食事療法や運動療法もゲーム感覚で無理なくクリアし、体力を回復させて臨んだ就職活動を経て、憧れだった大手ゲーム開発メーカーへの入社も決まった峯木さんに、透析導入からの2年間を振り返っていただき、透析を無理なく続けていくためのアドバイスをいただきました。
急性腎不全による透析導入時のショックを乗り越えて・・・・
峯木 良広(みねき よしひろ)さん(46)血液透析歴2年2カ月 写真1

――
透析を導入されたのは、いつ頃のことですか?
2年前です。ある朝、目覚めたら急に体が動かなくなっていたんです。「これは大変だ」と思ってすぐに病院を受診したところ、急性腎不全であることが分かりました。医師によると腎臓がほとんど動いていなかったそうで、そのまま入院して透析導入となりました。
――
その前から腎臓が悪かったのでしょうか。
いいえ。健康診断は2~3年受けていなかったのですが、腎臓が悪いと言われたことはありませんでした。それに、入院する前日まで普通に働いていたので、腎不全と指摘された時は誰かのカルテと間違っているのでは・・・?と疑ったほどでした。
――
急なことで大変なショックを受けられたのではないでしょうか。
そうですね。とにかく急だったので・・・、入院しますよ、手術しますよ、こういう治療をしますよという話を聞かされても頭の中は真っ白でした。それに、透析のこともショックでしたが、これをきっかけに職を失ってしまったことも辛かったですね。

当時、私は母親と2人暮らしだったのですが、その母も障害を抱えていましたので、これからどうやって生活していけばいいのか・・・、考えようとしても何も頭に浮かんでこない状態でした。友人や知人がたびたびお見舞いに来てくれたことだけが救いでした。一時は、透析で助けていただいた命に何の意味があるのか、自分の存在意義が分からなくなった時もありました。

けれども、透析を始めてから1~2カ月経った頃から、こうした考え方が少しずつ変わってきたんです。
――
どのような心境の変化だったのでしょうか。
まず、「母を残して先に逝くわけにはいかない」と強く思ったんですね。そんな親不孝はできないと。それに、透析という医療技術がなければ生きていられなかったことを考えると、いわば透析のおかげで、ゲームで言うと「ボーナスステージ」を得たようなものだと思ったんです。せっかくの人生の第二ステージですから、自分の好きなことをして楽しまなければもったいないと思うようになりました。
食事療法もゲーム感覚で無理なく続けています
〇〇〇〇〇〇〇〇
――
考え方が変わって生活も変化しましたか?
まず、頭に浮かんだのは仕事のことです。でも、長い入院生活でほとんど体を動かさなかったためか、まっすぐ立っていられないくらい体力が落ちてしまいました。駅の階段も一気に上れず、杖をついたお年寄りに追い抜かれて情けなく思ったこともあります。こんな状態ではとても仕事はできませんし、せっかく再就職しても続けられなければ自分で自分を許せないと思いまして、まずは体力づくりを第一に考えました。
そこで、「今は自分の体を治すゲームをしているんだ」と思うことにしました。体に良いものを食べたり、運動をするとボーナスタイムが増える。逆に、体に悪いことをしたらポイントが減り、それが重なればゲームオーバーと。そう考えたら少し気が楽になりました。

幸い、入院中に食事の管理方法をいろいろ教わったので、自分で料理して体に良いものを食べるように心がけました。また、私はインドア派で運動はほとんどしていなかったのですが、できるだけ散歩をするようにしました。体力が回復した今も、当時と同じように「食事と運動ゲーム」を続けています。
――
普段の食事ではどのようなことに気をつけていますか。
私はもともと薄味が好きだったので、減塩にはそれほど苦労しませんでした。入院中にいろいろな食材を食べてリンやカリウムの値が変化するかを検査してもらったのですが、私の場合は今までの食生活をそれほど大きく変える必要はないと言われました。退院後も食べる量や水分には気をつけていますが、特に問題はないようです。
――
透析患者さんが食事療法で気をつけるポイントは、お一人お一人で違うのですね。
そうだと思います。私は食べることやお酒が大好きなのですが、そんな私でも無理なく食事療法を続けられています。一概には言えないかもしれませんが、食事療法といっても身構えなくてもいいのかなと思います。普段の食事に気をつけていれば、たまには「友人と外食」というボーナスがもらえるんだと思えば、食事療法もそれほどきつく感じません。友人とお酒を飲みに行く時は「後でお楽しみがあるから」と思って朝からできるだけ水分を摂らないようにしたりしています。
――
これから暑くなりますが水分制限は大変ではないでしょうか。
夏場は氷を口に含むと喉の渇きが癒されて、水分を多く摂らずに済むんですよ。逆に冬場は寒くて氷を口に入れていられないので、どちらかというと、私は寒い時期の方が水分管理は大変だなと思っています。
奮起した就職活動で憧れの会社に入社
――
近く、再就職されるそうですね。
おかげさまで再就職できました。体力も回復してなんとか働けるようになったと思ったので、ハローワークや就職情報誌などを利用して就職活動を始めました。けれども、なかなか良い就職先がみつかりませんでした。そんな中、インターネットでいろいろと情報を探していたところ、今回、再就職させていただく会社(某大手ゲーム開発メーカー)が障がい者を採用していることを知りました。

働かせていただけるかどうかは分かりませんでしたが、とにかく話だけでも伺いたいと思って人材紹介会社の説明会に参加したところ、私と同年齢の透析患者も働いていて、透析を受けるために仕事を早退できることや、体調が悪い時は「休みなさい」と言っていただけることなどを知りました。
〇〇〇〇〇〇〇〇
――
透析患者さんに理解のある会社ですね。
そう思います。この会社なら自分も働ける、ぜひ働きたいと奮起して応募したところ、運良く採用されました。実は、ゲーム好きの私にとってこの会社は憧れの会社なんです。

私はゲーム好きが高じてゲームセンターに勤めていたこともあるほどで、また何らかの形でこの業界に携わりたいと思っていました。今回、この会社に入社できたことに透析が結んでくれた不思議な縁を感じます。長年の夢がかなってとても幸運でした。
――
採用される際にはどういったことを聞かれましたか?
面接では「どんな仕事がしたいですか」と尋ねられましたが、「体力が低下しているし、透析を週3日受けなければならないので、今の時点ではしたい仕事は特にありません。まずは、仕事内容にはこだわらずにどんな仕事でも良いこと、その仕事がこなせるようになったら、少しずつ段階を追って仕事の範囲を広げていきたいという希望をお伝えしたところ、ご理解していただけたようです。
――
具体的には、どのようなお仕事をされる予定ですか。
事務系の仕事です。透析導入はいわば私の第二の人生のスタート。ですから、今回の再就職は社会人1年生のようなもので、今はとてもワクワクしています。仕事に慣れれば、新しい業務も与えていただけるかなと思って、焦らず無理のない範囲で頑張るつもりです。
以前と同じ日常を取り戻せた安堵感も
――
ゲームの世界に戻られて充実した日々になりそうですね。周囲の方も喜ばれたのではないでしょうか。
はい。友人たちも私が再就職できたことを喜んでくれています。ある友人から「やっと元の世界に帰ってこられたね」と言われましたが、実際その通りで、週3回の透析を受けてはいるものの、仕事も決まり、以前とほぼ同じような日常を取り戻すことができて、ホッとしています。
――
透析を導入されてから以前のような日常を取り戻すまでの2年間を振り返って、どのように感じられていますか。
透析を始めた当初は体もつらく、一時は絶望もしましたが、考え方を変えることで自分に合った透析生活を見つけることができました。自分で料理する、体力作りのために散歩をする、ゲームやネットサーフィンなどやることはたくさんあったので、今振り返ってみると、あっという間の2年間だったように思います。

つらいこともありましたが、そんな時はゲームやインターネットで気分転換したことで乗り越えられたかもしれません。こうした趣味のおかげで透析生活を送る上で有用な情報も得られ、結果的に就職もできたので、「オタクでよかった」と思っています。
峯木 良広(みねき よしひろ)さんのプロフィール
印刷会社、ゲームセンターなどを経て、透析導入後は大手ゲーム開発メーカーに勤務。
ゲームセンター時代には店長としてゲーム大会を多数開催。多くのプロゲーマーを知人に持ち、ゲーム業界では知る人ぞ知る存在。
44歳で透析を導入。
監修医からのアドバイス
昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門 客員教授 秋澤 忠男 先生

昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門
客員教授
秋澤 忠男 先生

何の予告もなく突然腎不全を発症され、入院、透析導入、ご不自由なお母様をかかえての失職など、大変つらい経験をされた峯木さんですが、気持ちを切り替え、新しい人生に立ち向かっておられることに感銘を受けました。

「友人と外食」というボーナスがもらえるから、朝からできるだけ水分を摂らないようにしたり、「夏場は氷を口に含むと喉の渇きが癒され、水分を多く摂らずに済む」など、さまざまな工夫をなさり、無理なく食事療法を続けるコツも会得されたようです。

これから新しいお仕事に就かれ、社会生活と透析生活の両立に悩まれることもあるでしょうが、解決にはさまざまな情報を得ることが大切です。インターネットサーフィンや患者さん同士の情報交換も役に立ちます。ただし、その内容が正しいかどうか、医師や看護師などの医療スタッフにも尋ねてみてください。

また、透析患者さんには、透析に要する医療費の公的助成制度や障害年金の受給など、さまざまな社会福祉制度があります。そうした社会資源の活用についても、医療機関やお住まいの市区町村に相談されるとよいでしょう。
何の予告もなく突然腎不全を発症され、入院、透析導入、ご不自由なお母様をかかえての失職など、大変つらい経験をされた峯木さんですが、気持ちを切り替え、新しい人生に立ち向かっておられることに感銘を受けました。

「友人と外食」というボーナスがもらえるから、朝からできるだけ水分を摂らないようにしたり、「夏場は氷を口に含むと喉の渇きが癒され、水分を多く摂らずに済む」など、さまざまな工夫をなさり、無理なく食事療法を続けるコツも会得されたようです。

これから新しいお仕事に就かれ、社会生活と透析生活の両立に悩まれることもあるでしょうが、解決にはさまざまな情報を得ることが大切です。インターネットサーフィンや患者さん同士の情報交換も役に立ちます。ただし、その内容が正しいかどうか、医師や看護師などの医療スタッフにも尋ねてみてください。

また、透析患者さんには、透析に要する医療費の公的助成制度や障害年金の受給など、さまざまな社会福祉制度があります。そうした社会資源の活用についても、医療機関やお住まいの市区町村に相談されるとよいでしょう。

取材実施日:2017年5月26日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです

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