〈1〉 初期卵胞発育を制御する因子の網羅的同定とその臨床応用
   Comprehensive identification of regulatory factors for early ovarian
   follicle growth and those clinical application

河村 七美

聖マリアンナ医科大学高度生殖医療技術開発講座

 我々は、PTEN阻害剤とPI3K活性化剤を用いた休眠原始卵胞の人為的活性化技術(IVA; in vitro activation)を開発・臨床応用し、早発卵巣不全患者が自らの卵子で妊娠できる新たな不妊治療に成功している。本法の成績向上のためには、活性化後の初期卵胞発育を促進する方法の開発が重要である。そこで本研究では、初期卵胞発育を制御する局所因子の網羅的同定を試み、その臨床応用を目指した。各発育段階のマウス初期卵胞をレーザーマイクロダイセクションにて採取した。検体をDNAマイクロアレイに供し、各発育段階の卵胞に発現している分泌シグナルをもつリガンドを第1段階スクリーニングとして抽出した。次にそれらのリガンドの受容体の発現量および発現変化をDNAマイクロアレイで比較した。さらに、リガンドまたは受容体が初期卵胞で高発現しているものを候補因子として、DNAマイクロアレイの結果をreal-time qPCRで確認した。既に報告がある初期卵胞発育に関与する因子とヒトでホモログが存在しない因子を除くと、23個の候補因子に絞り込むことができた。次にマウス卵巣組織培養系において、候補因子の初期卵胞の発育促進効果の有無について調べた。卵巣は原始卵胞と1次卵胞を含む5日齢マウス卵巣、原始卵胞と1次卵胞に加え初期2次卵胞を含む10日齢のものを用い、各候補因子を含む培養液で4−5日間培養した。培養終了後、卵巣をブアン固定して卵巣重量を測定し、組織切片を作成して卵巣内の各発育段階の卵胞分布を候補因子非添加の対照群と比較することでスクリーニングを行った。23個の候補因子のうち5個の因子で解析が終了し、3個の因子に1次卵胞/2次卵胞の発育促進効果を認めた。残りの候補因子は現在スクリーニングを継続中である。今後は、in vitroで初期卵胞発育を促進した因子を最終候補因子としてマウスに直接投与し、生体内での初期卵胞発育への効果について評価する予定である。

略歴
1999.4 秋田大学医学部附属病院 研修医
2000.4 秋田大学医学部附属病院 助教
2002.4 市立秋田総合病院 非常勤医師
2003.2 米国Stanford大学医学部産婦人科分子生物学講座 Research Fellow
2005.4 秋田大学医学部附属病院 医員
2006.4 秋田大学医学部附属病院 助教
2012.8 聖マリアンナ医科大学 高度生殖医療技術開発講座 特任講師
  現在に至る。 
   

〈2〉 新規細胞膜上、女性ステロイドホルモン受容体による個体レベルでの
   生理病態機構の解明と創薬応用
   Pathophysiological function via novel progesterone
   membrane receptor

木村 郁夫

東京農工大学大学院農学研究院応用生命化学専攻代謝機能制御学研究室

 性ステロイドホルモンは核内受容体を介して働き、性機能等の長期的な生理作用に関与することが知られてきた。しかしながら、近年、攻撃性や摂食、睡眠、そして記憶や学習といった高次生理機能に至るまで、性機能以外の様々な作用にも性ステロイドホルモンが関与することが明らかになった。これらは核内受容体による転写調節を介した作用とは異なる即時性の作用が多数を占めており、近年発見された性ステロイドホルモンの細胞膜上受容体群による関与が想定される。また、これまで卵胞ホルモンであるエストロゲンの作用が特に重要視されてきたが、黄体ホルモンであるプロゲステロンもまた、近年、細胞膜上受容体が同定されたため、即時的作用とこれらの受容体との関連が生体にとって重要な役割を果たしている可能性が示唆される。そこで我々は、これらプロゲステロン細胞膜上受容体のうちの特に中枢神経系特異的に高発現している受容体に着目し、その受容体の詳細な発現解析および強制発現系によるプロゲステロンによる細胞内シグナル伝達の検討、さらには神経細胞様細胞株を用いて、プロゲステロンによる各種活性評価とその細胞内シグナリングについて検討を行った。今後、これらの受容体の生体における役割を詳細に検討することにより、性ステロイドホルモンが関与する高次生理機能の解明、更にはこの受容体をターゲットとした不妊、生活習慣病、睡眠・リズム障害等の新規治療薬開発への新たな知見を提供するものと期待される。

略歴
2006.3 京都大学大学院 薬学研究科 遺伝子薬学分野 博士課程修了(伊藤信行 教授)
2006.4 千葉科学大学 薬学部 応用薬理学教室 助手・助教(藤本正文 教授)
2008.4 京都大学大学院 薬学研究科 薬理ゲノミクス分野 助教(辻本豪三 教授)
2011.9-2012.7 米国カリフォルニア大学 サンディエゴ校 医学部 生殖神経内分泌教室
  客員研究員(Pamela Mellon 教授)
2012.4 京都大学大学院 薬学研究科 薬理ゲノミクス・ゲノム創薬科学分野 助教
2013.12 東京農工大学大学院 農学研究院 応用生命化学専攻 代謝機能制御学研究室
   テニュアトラック特任准教授
  現在に至る。

〈3〉 胎盤早期剥離および前置胎盤の出血の予知に関する研究 
    Prediction for placental abruption and bleeding from
    placenta previa

長谷川 潤一

昭和大学医学部産婦人科学講座

 胎盤早期剥離(早剥)の発症メカニズム
非早剥、陣発前、陣発後の早剥群における、各臨床背景の頻度は、20週未満の母体貧血 (Hb.11g/dl未満) 4.8%、17.6%*、20.7%*、妊娠高血圧症候群 (PIH) 10.1%、23.7%*、6.2%、Small for gestational age (SGA) 15.9%、28.9%*、31.2%*、早産期の子宮収縮15.9%、31.6%*、0%、オキシトシン使用 15.4%、N/A、34.4%* (*: p<0.05 vs 非早剥)であった。多変量解析による陣発前の早剥リスク(調整オッズ比)は、PIH (3.37)、SGA (5.39)、早産期の子宮収縮 (5.96)、陣発後のそれは、母体貧血(4.05)、SGA (5.20)であった。陣発前、陣発後の早剥胎盤の病理診断で、Blanc分類II度以上の絨毛膜羊膜炎が18.4%、18.8%、臍帯炎II度以上が5.3%、9.4%、胎盤梗塞が26.3%、25.0%認められた (ns)。PIHが関連した早剥の多くは、陣発前に発症していた。病理学的に絨毛膜羊膜炎や胎盤梗塞が存在するが陣発後に早剥を発症している症例も多く、絨毛膜羊膜炎や妊娠初期からの螺旋動脈の形成不全などに伴った脱落膜の病態変化がベースにあり、その上に子宮収縮が起こることが早剥のトリガーのひとつになる可能性が考えられた。
前置胎盤の出血メカニズム 
前置胎盤例の頸管長、子宮下節を前方視的に妊娠25週以前の下節開大例を早期開大例とし、妊娠中の出血、術中多量出血との関係を99例(早期開大44例)で解析した。警告出血55例、非出血44例での早期開大例は49%、64% (p=0.148)であった。出血による緊急帝切35例、予定帝切64例での早期開大例は40%、64% (p=0.021)であったが、帝切直前の頸管長は差がなかった帝切時出血2500ml以上、未満での早期開大例は31%、60% (p=0.033)であった。子宮下節の早期開大例は、脱落膜と胎盤のずれを生じやすく、出血による緊急帝切と関連が深かった。また、長期間の下節の伸展のため、帝切時の弛緩出血の頻度が多くなり多量出血の傾向にあると考えられた。

参考文献
1. Hasegawa J, Nakamura M, Hamada S, Ichizuka K, Matsuoka R, Sekizawa A, Okai T. Capable of identifying risk factors for placental abruption. J Matern Fetal Neonatal Med. 27: 52-56, 2014
略歴
1998.3 昭和大学医学部医学科 卒業
1998.4 昭和大学医学部大学院外科系産婦人科学専攻 入学 昭和大学産婦人科 入局
2002.3 同大学院 卒業 医学博士取得
2007.8 昭和大学医学部産婦人科学教室 助教
2009.10 ボローニャ大学(イタリア)周産期部門 留学
2011.1 昭和大学医学部産婦人科学教室 助教
2013.8 昭和大学医学部産婦人科学教室 講師
   現在に至る。
    

〈4〉 妊娠合併症の成因に関わるアディポサイトカインと
   自然炎症因子動態のゲノムワイド解析
   Genome-wide analysis of homeostatic inflammatory
   factors and adipocytokines in the pathophysiology of
   complicated pregnancy

成瀬 勝彦

奈良県立医科大学産婦人科学教室

  研究代表者はこれまで世界に先駆けて、脂肪細胞から分泌されるサイトカイン(アディポサイトカイン)と生理的炎症(自然炎症)の破綻が妊娠高血圧症候群と妊娠糖尿病に関与する可能性を提唱してきた。今回、脂肪組織レベルでのアディポサイトカインおよび自然炎症因子のゲノムワイドな動態に注目した研究を行った。
 同意を得た重症妊娠高血圧腎症患者5名と、妊娠週数をマッチさせた正常妊婦5名から採血を行い、血清を分離した。同様に、再生産年齢女性の婦人科手術時に得られた大網組織を内臓脂肪組織として用いて実験に供した。脂肪組織全体を培養するための新たな実験系として99.5%含水ペプチドゲルを使用した手法を開発し、上清中に妊婦血清を添加して24時間の培養を行った。組織を回収し、Total RNAを抽出して、炎症関連遺伝子についてターゲット遺伝子群を定めたアレイPCRを行うことで、妊娠高血圧腎症における脂肪組織動態を遺伝子レベルで解析した。
 結果は現在なお解析中であるが、これまでに得られた結果として、妊娠高血圧腎症患者の血清を加えることにより約30の遺伝子において発現の統計学的に有意な変化が認められた。これらの遺伝子群は免疫反応に関するもの、酸化ストレスに関するもの、インスリン抵抗性に関するもの、さらに脂肪生成に関するものまで多岐に渡っていたが、主に炎症系に関与する遺伝子が上昇していた一方、T細胞に関連して炎症を抑制する遺伝子の上昇も認められた。
 これらの新たな実験系を用いた先進的な研究から、妊娠高血圧腎症患者では内臓脂肪組織が、炎症や脂肪生成などの活動を惹起されながらも、炎症に対し抑制的にも作用していることが世界で初めて示されたと言え、とくに早発型・重症型妊娠高血圧腎症の病因と考えられている胎児や絨毛由来の炎症性因子を緩衝する役割が示唆された。

参考文献
1. Naruse K. Adipocytokine and inflammation in preeclampsia. Hypertens Res Pregnancy 2; Suppl.: 54, 2014
2. Akasaka J, et al. Inflammatory gene expressions of addipose tissue under preeclamptic culture condition. Pregnancy Hypertens 5; 1: 101, 2015
3. Naruse K, et al. Involvement of visceral adipose tissue in immunological modulation of inflammatory cascade in preeclampsia. Mediators Inflamm. in press, 2015
略歴
1999.4 奈良県立医科大学附属病院 産婦人科医員
2000.4 大阪府松原市立松原病院 産婦人科医員
2001.4 奈良県立医科大学大学院医学研究科(臨床外科系)
奈良県立医科大学附属病院 産婦人科医員
2005.6 英国・ニューカッスル大学外科・生殖医学講座客員研究員
2007.4 奈良県立医科大学産婦人科学教室 助教
2013.4 奈良県立医科大学産婦人科学教室 産科医長
現在に至る。


〈5〉 日米データから算出する日本人の適切な妊娠中の
   食生活と体重増加量

    Optimal gestational weight gain and nutrition intake for maternal
   women. Comparison of US and Japanese women

森崎 菜穂

国立成育医療研究センター社会医学研究部ライフコース疫学研究室

 本研究は妊娠中の食生活、体重増加量と周産期予後との関係性を定量的に評価し、日本人の体格・食生活・文化に即した妊娠中の栄養管理に関する指針作成に有用なエビデンスを提供することを目的とした。

1)日米の日本人妊婦における妊娠中体重増加量と母児の予後との関係性 
2009-2012年に米国にて出生した児において、母体の妊娠中体重増加と児の出生体重を、人種別に評価した。
両親の単一の同一人種である10人種の児を計8,097,219解析したところ、日本以外の9人種においてはBMI<23の妊娠中体重増加が平均14-17kgであるのに対し、日本人においては平均12kgであった。
また、在胎週数を考慮したのちの児の出生体重は日本人が10人種中最も小さかった。特に、日本人と同じようにやせている女性が多いベトナム・中国・韓国人と比べても日本人の平均出生体重は100-150g小さかった。
多変数解析を用いて母体の教育歴・年齢・BMI・妊娠中体重増加・喫煙歴がそれぞれ日本人の出生体重に与える影響を調べたところ、日本人がほかの人種と比較し出生体重が小さい原因は母体BMIが低いこと(約-120g)および妊娠中体重増加が少ないこと(約-60g)が主な理由であり、教育歴・年齢・喫煙は人種差には影響していなかった。
2)日米における妊婦の食生活と妊娠中体重増加量の比較
日米の二つの周産期コホートにおいて、FFQ(Food Frequency Questionairre)を用いて各妊産婦の総カロリーおよび3大栄養素の摂取量を算出し、両群の妊娠中の体重増加量の相違と各栄養群摂取量の関係性を比較した。この結果、日本人は米国人と比較して体重増加(10kg vs 14kg)およびカロリー摂取(妊娠中期に 1784kcal vs 2122kcal)が少ないのみならず、タンパクの割合が少ないことが判明した(同14.1% vs 17.6%)。米国人と比べてタンパク質摂取は1日あたり約30g少なかった(同62.5g vs 92.2g)。この栄養摂取差が日米での出生体重の違い(2914g vs 3505g)に影響を与えている可能性がある。

今後は、上記データの個票データを用いて、妊娠中の栄養摂取と母児予後に関するさらなる解析を行う予定である。

略歴
2007.3 東京大学医学部医学科卒業 医師免許取得
2012.6 ハーバード大学公衆衛生大学院 公衆衛生修士号取得
2012.7 国立成育医療研究センター研究所 成育政策科学部 共同研究員
2012.12 国立成育医療研究センター研究所 成育政策科学部 研究員
2015.2 国立成育医療研究センター社会医学研究部ライフコース疫学研究室 室長
2015.3 東京大学医学系研究科 医学博士号取得
現在に至る。


〈6〉 糖の取込み及び代謝の異常による乳腺上皮細胞の癌化メカニズム
   Oncogenesis Promoted by Increased Glucose Uptake and
   Metabolism in Mammary Epithelial Cells

小野寺 康仁

北海道大学大学院医学研究科生化学講座分子生物学分野

 目的:これまでの研究により、3次元培養環境下の乳腺上皮細胞において、グルコーストランスポーターの過剰発現により糖の取込みおよび代謝が異常に亢進すると、がんシグナルが活性化して悪性形質が誘導されることを明らかにしてきた。本研究では、正常乳腺上皮が糖代謝の状態に応じてグルコーストランスポーターの局在を制御し、糖の取込みおよび代謝を自ら制御してがん形質獲得を防止する機構について、分子メカニズムの解析を行った。
方法:異なる糖濃度において培養した乳腺上皮細胞における遺伝子発現について、マイクロアレイを用いて網羅的に解析し、糖濃度に応じて発現量の変化する遺伝子群を同定した。その中から生理的糖濃度における正常乳腺上皮細胞のシグナル活性やグルコーストランスポーター局在の制御を説明し得る分子の候補を幾つか選定し、それらの蛋白質発現量の変動や、機能の亢進・阻害による正常上皮細胞の表現型への影響について解析を行った。
結果:これまでの解析から、乳腺のみならず様々な上皮細胞においてがん抑制的に機能することが知られている細胞表面受容体Xの発現が、糖代謝抑制(糖飢餓)時において著しく減弱し、糖代謝(糖濃度)の回復によって亢進することを明らかにした。また、遺伝子Xの糖濃度による発現変化を説明し得る因子として転写因子Yを同定した。さらに、これらの蛋白質発現量の変化は、同一の乳腺上皮由来の癌細胞においては失われていることを見出した。
考察および展望:以上の結果から、癌細胞では、糖の取込みおよび代謝が十分であることを感知する、いわば「細胞の満腹中枢」が欠損しているために、自ら「摂生」しようとする働きが起こらないことが示唆された。より詳細なメカニズムの解析により、これを回復あるいは代替する方法を見出すことができれば、乳癌の悪性形質を抑制あるいは予防するための、新たな手法となるものと期待される。

略歴
2006.3 京都大学大学院生命科学研究科 博士後期課程修了 生命科学博士取得
2006.4 大阪バイオサイエンス研究所 第1研究部 特別研究員
2007.10 Postdoctoral Fellow, Lawrence Berkeley National Laboratory, USA
2009.10 北海道大学大学院医学研究科 生化学講座分子生物学分野 助教
2014.10 北海道大学大学院医学研究科 生化学講座分子生物学分野 講師
現在に至る。


〈7〉 子宮内膜症上皮細胞を用いた子宮内膜症発生、慢性炎症、
   癌化に関するジェネティック、エピジェネティックな遺伝子発現動態の
   網羅的解析
   The establishment of platform for genetic and epigenetic
   studies on endometriosis

平田 哲也

東京大学医学部附属病院女性外科

 子宮内膜症は子宮内膜に類似した組織が子宮以外の部位に発生する疾患である。組織学的には子宮内膜様上皮、間質、それを取り巻く線維化組織からなる。内膜症組織は増殖、浸潤し、周囲臓器と癒着を形成し、月経困難症、不妊症の原因となる。生殖年齢層の10%、不妊症患者の50%と罹患率の高い疾患にも関わらず、子宮内膜症の発生についてはこれまで子宮内膜移植説、体腔上皮化生説などの仮説が提唱されるも、その発生については解明されていない。また、子宮内膜症間質細胞を用いた検討は多数報告されているが、子宮内膜症上皮細胞の分離培養は非常に困難であり、その報告はない。
そこで、子宮内膜症上皮細胞由来の初代培養を試みた。子宮内膜症性卵巣嚢胞より内腔をscrapeし、子宮内膜症上皮細胞の分離を行った。我々の方法によると、子宮内膜症上皮細胞は非常にpurityが高く、cytokeratin陽性、PAX8陽性、ARID1A陽性、CD10陰性であった。しかしながら、これらの細胞は、2継代までしか生存できず、様々な基礎研究に用いるためには不死化遺伝子の誘導が必要であると考えた。そこで、CDK4, CyclinD1, hTERTの各遺伝子をレンチウィルスで導入した。これらの不死化細胞はいずれもCDK4,CyclinD1, hTERTをmRNA、タンパクレベルで強発現していることを確認した。これらの不死化細胞を6ライン樹立し、いずれも100日以上の継代培養が可能であった。また、これらの不死化細胞は全例cytokeratin陽性、CD10陰性、6ライン中4ラインでPAX8陽性であった。
そこで、子宮内膜症上皮細胞7検体、子宮内膜症間質細胞5検体、子宮内膜上皮細胞4検体、卵巣表層上皮細胞1検体、不死化した子宮内膜症上皮細胞6ラインより、totalRNAを回収し、RNAシーケンスに供した。子宮内膜症と子宮内膜の間質細胞でtranscriptomeでは、クラスター解析にて明らかな差は見られないが、DNAメチレーション解析にて明らかに異なるクラスターに属するとの報告もあり、これらの細胞よりDNAも抽出し、DNAメチレーション解析を行っている。
さらなる検討により、子宮内膜症上皮細胞の性質を明らかにし、ジェネティック、エピジェネティックな子宮内膜症研究の基盤の構築を目指している。

略歴 
1999.3 東京大学医学部卒業
1999.4 東京大学医学部附属病院産婦人科 入局
2002.4 東京大学医学研究科大学院生殖発達加齢医学科 入学
2006.4 東京大学医学部附属病院女性診療科助教
2009.5 アメリカNIH, National Institute on Aging にvisiting fellowとして留学
2011.7 東京大学医学部附属病院女性診療科 助教 
2014.2 東京大学医学部附属病院女性外科 講師
現在に至る


〈8〉 卵巣ガン治療への応用を目指したマクロファージ活性化制御作用を
   有する天然物由来低分子化合物の既知抗ガン剤との併用効果の検討

   Study on the combination effect of low molecular natural compounds
   regulating macrophage activation with anticancer drug for ovary
   cancer therapy

藤原 章雄

熊本大学大学院生命科学研究部細胞病理学分野

 マクロファージは正常ヒト腹腔内に常在し、腹腔内における免疫機能の中心的役割を担っている。マクロファージは、その活性化状態によって、抗腫瘍活性を示すM1マクロファージと腫瘍増殖を促進するM2マクロファージに大別されるが、その分化は腹腔内環境に影響を受けることが報告されている。多量の腹水貯留と腹腔内播種をきたす進行卵巣癌においては、腹水中でマクロファージが増加していることが知られており、そのマクロファージは主にM2タイプであり増殖因子を分泌することでガンの進展に関わっていることが知られている。我々はこれまでに、保有する天然物由来低分子化合物ライブラリーの中からONAがin vitroにおいてSTAT3の活性化を阻害することでマクロファージのM2分化を抑制し、卵巣癌細胞の増殖を抑制することを明らかにした。そこで、本研究ではマウス腫瘍モデルにおけるONAの抗腫瘍効果について検討した。方法としては、マウス卵巣癌細胞MOVを卵巣もしくは皮下に移植したマウス卵巣癌モデルならびに皮下腫瘍モデルを作成し、ONA単独およびcisplatin(CDDP)との併用効果を腫瘍重量の比較により評価した。その結果、卵巣癌モデルにおいてONA経口投与は腫瘍重量を有意に低下させた。さらに、皮下腫瘍モデルでは、ONAおよびCDDP単独では効果が認められない投与量にて両者を併用すると腫瘍重量は有意に低下した。また、腫瘍組織中のpSTAT3陽性細胞数はONA投与により有意に減少した。以上より、ONAは癌細胞とマクロファージが共存するマウス生体内においても抗腫瘍効果を示したことから、ONAと既知抗癌剤の併用は卵巣癌に対する新しい治療手段のひとつになりうると考えられた。

略歴
2007.3 熊本大学大学院医学薬学研究部(薬学系)博士後期課程 修了
2007.3 博士(薬学)取得
2007.4 熊本大学大学院医学薬学研究部(医学系)細胞病理学分野 助教
2010.1 熊本大学大学院生命科学研究部(医学系)細胞病理学分野 助教(改組)
2015.1 熊本大学大学院生命科学研究部(医学系)細胞病理学分野 講師
  現在に至る。
   



〈9〉 閉経後代謝異常における、アドレノメデュリン
   ― RAMP2システムの病態生理学的意義
   Pathophysiological roles of adrenomedullin-RAMP2
   system in postmenopausal metabolic disorder

神吉 昭子

信州大学大学院医学系研究科疾患予防医科学系専攻循環病態学講座

 様々な生体内液性生理活性因子は、心血管系および代謝系制御の双方において重要な意義を有している。アドレノメデュリン(AM)は、心血管系をはじめ、全身の組織で広く産生される多彩な生理活性を有するペプチドである。AMの受容体CLRには、受容体活性調節タンパクRAMPが結合し、受容体機能を制御している。我々はこれまで、RAMPの中でもRAMP2が、心血管系におけるAMの機能調節に中心的役割を果たすことを報告してきた。一方、AMおよびRAMP2は脂肪組織においても高発現を認めるが、その代謝制御における意義は不明である。
RAMP2ホモノックアウトマウスは胎生致死のため、本研究では成体の得られるRAMP2ヘテロノックアウト(RAMP2+/-)雌マウスを用いて、卵巣摘出による閉経モデルを作成して高脂肪食負荷を行い、閉経後代謝障害におけるAM-RAMP2系の役割を検討した。10週齢雌マウスの卵巣摘出を行い、10週間の高脂肪食負荷を行ったところ、RAMP2+/-では、野生型と比較して体重増加がみられた。RAMP2+/-では、血清インスリンとレプチン値が高く、アディポネクチン値は低下し、インスリン抵抗性が見られた。また、白色脂肪の重量増加、脂肪組織のマクロファージ浸潤、炎症性サイトカインの発現亢進を認め、肝臓では脂肪肝や線維化が亢進した。
次に脂肪組織におけるRAMP2の役割を検討するため、脂肪細胞特異的RAMP2ホモノックアウトマウス(A-RAMP2-/-)を樹立した。通常食下において、A-RAMP2-/-は野生型と比較して体重が増加し、白色脂肪組織の重量増加と線維化が見られた。
以上の結果から、AM-RAMP2系は心血管系機能制御のみならず、閉経後代謝障害においても重要な役割を持つことが明らかとなった。

参考文献
1. 神吉昭子, 桜井敬之, 新藤隆行他. アドレノメデュリン−RAMP2システムによる、白色脂肪、褐色脂肪の脂質、エネルギー代謝制御. 血 管 37: 135-139, 2014
2. Yamauchi A, Kamiyoshi A, et al. Functional differentiation of RAMP2 and RAMP3 in their regulation of vascular system. J Mol Cell Cardiol. 77: 73-85, 2014
3. Igarashi K, Kamiyosi A, et al. Pathophysiological roles of adrenomedullin-RAMP2 system in acute and chronic cerebral ischemia. Peptides. 62: 21-31, 2014
4. Toriyama Y, Kamiyoshi A, et al. Pathophysiological function of endogenous calcitonin gene-related peptide in ocular vascular diseases. Am. J. Pathol. in press
5. Yang L, Kamiyoshi A, et al. Endogenous CGRP protects against neointimal hyperplasia following wire-induced vascular injury. J Mol Cell Cardiol. 59: 55-66, 2013
 
略歴
2000.3 東邦大学大学院理学研究科生物分子科学専攻修士過程終了
2000.4 信州大学医学部附属動物実験施設 研究支援推進員
2005.4 信州大学大学院医学研究科 臓器発生制御医学講座 奨励研究員
2006.4 信州大学大学院医学系研究科 臓器発生制御医学講座 助教
2009.1 信州大学大学院医学系研究科 医学博士取得
2012.4 信州大学大学院医学系研究科 循環病態学講座 助教
現在に至る
 


〈10〉 閉経後骨粗鬆症におけるセマフォリン3Aの役割
    The role of Sema3A in postomenopausal osteoporosis

林  幹人

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学

 成体における骨組織は構造的な強さやミネラル代謝の恒常性を維持するため、骨リモデリングとよばれる破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成のダイナミックなバランスによって巧妙に制御されている。閉経に伴うエストロゲン欠乏による骨リモデリングの破綻によって骨粗鬆症が引き起こされるが、その具体的な分子メカニズムは様々な可能性が提唱されているものの、いまだ不明な点が多く残されている。我々は以前、神経ガイダンス因子Semaphorin 3A(Sema3A)が骨芽細胞で強く発現し、骨の恒常性の制御に必須の役割を果すことを証明し、さらにSema3Aが閉経後骨粗鬆症などの新たな治療標的となりうることを示した。その後、他のグループによって骨芽細胞特異的Sema3A欠損マウスでは、骨におけるSema3A発現量が低下しているにも関わらず椎骨の骨量には異常がみられないことや、神経細胞由来のSema3Aが感覚神経の骨への正常な発生を制御することで間接的に骨リモデリングに関わることが示されたが、我々も、骨芽細胞由来のSema3Aの役割を調べるため、骨芽前駆細胞特異的にCreを発現するOsx?Cre+マウス及び骨細胞/後期骨芽細胞特異的にCreを発現するDmp1?Cre+マウスを用いてSema3aの骨芽細胞系細胞特異的欠損マウスを作製したところ、いずれのマウスにおいても長管骨において著明な骨量の低下、及び骨吸収の亢進と骨形成の低下をみとめた。また、エストロゲン欠乏状態におけるSema3A発現量を調べたところ、顕著な低下をみとめた。以上の結果から、骨芽細胞系細胞、特に骨細胞由来のSema3Aが骨・全身の恒常性に重要な役割を果たしており、それらの発現がエストロゲンによって制御されていることが示唆された。

略歴
2010.3 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生体支持組織学系修了
2010.4 科学技術振興機構 ERATO 高柳オステオネットワークプロジェクト研究員
2013.6 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野 助教
  現在に至る。
    


 第17回 神澤医学賞受賞講演 要旨

「産婦人科領域における各種疾患の免疫学的病態生理の解明と 
それに基づく新規の予防・治療法の開発に向けた研究」

Elucidation of immunological pathophysiology of various diseases
in obstetrics and gynecology and the research for the
development of new prevention and therapeutics


川名 敬

東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 准教授

はじめに
産婦人科疾患において、病変とそれを取り巻く生体側の環境によるクロストークは常に病態生理を調節、修飾している。本研究では、産婦人科疾患に対する個々の免疫反応・炎症反応の違いに注目し、産婦人科疾患に対する免疫学的病態生理を解明することと、免疫反応を利用した新たな治療法・予防法を開発することを主眼においた研究を行った。
研究の特徴は、疾患と宿主の免疫反応をキーワードとして、リプロダクティブエイジの疾患を中心に、腫瘍学、周産期医学、生殖内分泌学、感染症学と産婦人科学全般に横断的な広がりを持っていることである。

(1) HPVと抗HPV免疫誘導に関する2つのTR研究
ライフワークとして20年近くヒトパピローマウイルス(以下HPV)と免疫に関する研究を継続している。その中で予防的・治療的HPVワクチンに関する研究は、ウイルス学、免疫学の基礎的研究に立脚し、その延長として新規ワクチンの開発、臨床試験に至った。

【次世代型予防ワクチンの開発】
 予防的HPVワクチンの研究では、感染実験モデルの確立が隘路となっていた時代に、人工的なHPV感染系を世界で初めて樹立し(1)、その系を使ってワクチンの候補の探索を行った。それにより、全てのHPVタイプの感染を阻害できる型共通性の予防ワクチンの候補を見いだした(2, 3)。
世界的に普及しているHPV予防ワクチン(2価・4価)のワクチン抗原は、L1キャプシド蛋白質である。L1は抗原性が強く、抗体誘導の優れたワクチン抗原である。しかし、その反面、同じHPV型しか感染予防ができないこと、副反応が強くなること、が問題点である。そのために、既存のHPV予防ワクチンではHPV16, 18型感染しか予防できず、かつ予期せぬ有害事象が社会的な問題となっている。これに対して、我々が見出したワクチン抗原は、L2キャプシド蛋白質である。L2は、HPVウイルス粒子が細胞内に侵入するために必須であることから、全HPV型に保存された共通アミノ酸領域がある。我々はまずこの共通アミノ酸領域の中から、キャプシド表面に露出している領域を特定した(3)。次に、我々が樹立した人工的な感染実験モデルを用いて、この表面露出共通領域に対するモノクローナル抗体・抗血清を準備し、それらの抗体が複数のHPV感染を予防できることを証明した(2, 4, 5)。
これをL2ワクチン候補領域とし、その領域の合成ペプチドワクチンを作製し、第I相自主臨床試験も実施した(6)。L2ワクチンのヒトにおける抗原性、安全性を臨床試験によって証明した。この研究は、現在日本で導入されているHPVワクチンの欠点である型特異性を克服した次世代の予防ワクチンとしての期待を抱かせるものといえる。またこの人工的なHPV感染系を用いた研究は臨床に応用されている(7, 8)。

【粘膜免疫を介したCIN治療薬としてのHPV治療ワクチン】
治療的HPVワクチンの研究では、未だに実用化された治療的HPVワクチンがない現状に鑑み、子宮頸部前癌病変(CIN2-3)が粘膜病変であることに着目し、粘膜免疫の機序を利用したワクチン開発に関する研究を行った。治療的HPVワクチン研究は、基礎研究から始まり、実地応用を視野にいれたトランスレーショナルリサーチへと発展した。HPV癌蛋白質E7を提示した乳酸菌を作製し、経口接種することによって腸管粘膜免疫を介して、子宮頸部における抗腫瘍効果を示した。
1990年代からHPVを標的とした免疫療法(HPV治療ワクチンと呼ぶ)の研究は世界中で行われ、数多くのワクチン候補の臨床試験が実施されてきた(9, 10)。しかし未だに製剤化され世に出た治療薬はない。癌腫の腫瘍内では微小免疫学的環境が崩壊していることが危惧されるため、すべての臨床試験は上皮内腫瘍であるCIN2-3を対象疾患とされてきた。先行研究はすべて筋注・皮下注であり、全身性免疫を誘導する戦略であった。標的とするHPV分子は、E7癌蛋白質であることは先行研究でも共通している。それは、E7がヒトにおける抗原性が強く、かつCIN2-3から子宮頸癌に至るまで、恒常的に発現し抗原提示されているためである。
我々は生殖器粘膜(CIN2-3が存在する組織)の免疫システムを調べなおすことから始めた。すなわち、子宮頸部のCIN病変から採取したCD3+T細胞のうち、約30%はintegrin b7+ T細胞であることを見出した(11, 12)。integrin b7は腸管粘膜下組織であるパイエル板か腸間膜リンパ節で教育されたT細胞にのみ発現するホーミングレセプターであり、これを持つT細胞は“mucosal T cell”として粘膜免疫を司っていることが知られている。そこで我々は、CIN2-3病変内に存在する細胞傷害性T細胞等のキラー細胞は腸管粘膜で教育されていると考えた。
次に、腸管粘膜にE7癌蛋白質を標的とする細胞性免疫(キラー細胞)を誘導するための戦略として、経口ワクチンを考えた。ワクチンキャリアーとして、我々は乳酸菌Lactobacillus casei株を選択した。Casei株は乳酸菌の中でもキラー細胞の誘導に優れていること、ヒトでの食経験があり安全性が担保されていることからである。我々は、子宮頸癌の約半分の起因ウイルスであるHPV16型のE7を発現させた乳酸菌GLBL101cを製剤化した。マウスでの前臨床試験(13)を経て、E7発現乳酸菌経口ワクチン(GLBL101c)のCIN3に対する第I/IIa相自主臨床試験を実施し、薬物療法によるCIN3治療の可能性を示した(14)。この独創性と創薬化への期待から、2013年から研究代表者として厚生労働省科学研究費補助金(医療技術実用化総合事業)を交付され、その研究資金のもと、同経口ワクチンのCIN2に対する第IIb相二重盲検ランダム化比較自主臨床試験を実施中である。現行の子宮頸癌やその前癌病変に対する外科的治療は、妊娠時の早産率上昇などリプロダクティブヘルスに対する問題を抱えているが、本研究で開発した2つのHPVワクチンはこれらの問題を克服した予防法や治療法になりうると期待される。

(2) 周産期異常に対する新しい分子・生理活性物質の関与
周産期学の分野では、習慣性流産の原因である抗リン脂質症候群の病態の1つとして、リン脂質を抗原提示するCD1dに注目し、母体NKT細胞と絨毛CD1dの相互作用による炎症反応が、母体抗リン脂質抗体によって惹起されることを見いだした(15, 16)。CD1dはextravillous trophoblastに高発現しており母体血を接触することを見出した(15)。またCD1dはPhosphatidylserine(PS)を抗原提示し、そのPSはb2-GP1と生体内で結合している。抗リン脂質抗体の代表である抗b2-GP1抗体が母体血中に存在すると、PSを介してCD1dが活性化され、サイトカイン細胞内シグナルが作動し、炎症反応が惹起されることを示した(16)。これが習慣性流産につながると考えている。
次に、抗炎症作用を有するω3脂肪酸(EPA等)が炎症誘発型(LPS誘導型)早産を予防できることをトランスジェニックマウス実験によって示した(17)。Fat-1マウスは、アラキドン酸等のω6脂肪酸をω3脂肪酸に変換できる酵素であり、fat-1トランスジェニックマウスがLPS誘導型早産を抑えることを発見した。次に、fat-1マウスの胎盤のメタボローム解析によって、fat-1マウスではEPAの代謝産物である18-HEPEが上昇し、PGE2, PGF2aが低下していた。そこで、18-HEPEの最終活性代謝産物であるレゾルビン(RV)E3を正常マウスに投与すると、LPS誘導型早産が予防できた(17)。RVE3は数年前に発見されたEPA代謝産物であり、強い抗炎症作用を有することが知られている。本研究では、これらのω3脂肪酸代謝産物が早産治療薬になりうることを示した。さらに、必須脂肪酸が経口摂取によってのみ体内に貯蓄する栄養素であることから、早産リスクのある妊婦に対するω3脂肪酸を豊富に含む食事が早産予防の食事療法になることも期待される。

(3)生殖内分泌と感染症における免疫学的病態の解明
生殖内分泌学の分野では、性ホルモンによる生殖粘膜の免疫調節機序の1つを探求した。T-betというタイプ1細胞性免疫(Th1細胞)を司る転写因子について、生殖器粘膜上皮におけるエストロゲン、プロゲステロン、プロラクチンによる発現調節メカニズムを解明し(18, 19)、また生殖器粘膜上皮の部位別の免疫反応の違いを自然免疫の免疫分子CD1dについて発現と反応性を調べ、子宮頸部上皮ではCD1dの発現が弱く、NKT細胞をはじめとする自然免疫の活性化しにくいことを示唆している(20)。このことは、リプロダクティブエイジの女性において最も問題となる性感染症の病原体にとって、子宮頸部が標的組織になっていることにつながる。さらに、クラミジア感染とHPV感染について、その感染部位となる子宮頸部粘膜上皮のCD1dが病原体の蛋白質によって消化されていることを見出した。これらの病原体による新たな免疫エスケープ機構と考えられた(21, 22)。
子宮内膜症が慢性炎症性疾患であることに注目し、トランスジェニックマウス実験等から、ω3脂肪酸の抗炎症作用によって子宮内膜症が制御されることを見いだした(23)。炎症誘導型のω6脂肪酸(アラキドン酸等)の摂取機会が増えている昨今、子宮内膜症発生・進展の予防法としてω3脂肪酸摂取の重要性を示唆した。


今後の展望
婦人科疾患と宿主のクロストークは、病態の解明に大きな役割を果たしている。我々の研究は、細胞内の生物学だけでなく、細胞―細胞間の微小環境を紐解く研究に移行してきた(24)。特に、癌研究においては、癌遺伝子の細胞内の機能を見る時代から、癌細胞とその周辺の環境のクロストークがこれからの研究の柱の一つとなっている。そして、そのクロストークを解明することが、癌腫を越えた普遍的な治療法の開発につながると信じている。
個々の遺伝子異常に合わせて分子標的治療薬を次々と併用する「個の治療」ではなく、癌腫を越えた、または疾患カテゴリーを越えた、普遍的な“疾患と宿主の悪循環”を断ち切るチェックポイント分子を標的とした分子標的治療剤を探索していきたい。

参考文献
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3. Kawana K, Matsumoto K, Yoshikawa H, Taketani Y, Kawana T, Yoshiike K, Kanda T.: A surface immunodeterminant of human papillomavirus type 16 minor capsid protein L2. Virology 245(2): 353-359, 1998
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略歴
1993年3月 東北大学医学部医学科 卒業
1995年7月 東京大学医学部附属病院 産科婦人科 医員
1996年4月 厚生労働省ヒューマンサイエンス振興財団リサーチフェロー
1998年7月 東京大学医学部附属病院 産科婦人科 医員
1998年10月 東京大学医学部附属病院 産科婦人科 助手
2003年9月 米国Harvard大学 Brigham and Women’s Hospitalリサーチフェロー
2007年4月 東京大学医学部附属病院 産科婦人科 助教
2011年10月 東京大学医学部附属病院 産科婦人科 講師 (女性外科 病棟医長)
2013年1月 東京大学大学院医学系研究科生殖発達加齢医学専攻産婦人科学講座生殖内分泌分野 准教授,東京大学医学部附属病院 女性外科 副科長
現在に至る
受賞など
2002年 第54回日本産科婦人科学会シンポジウム「子宮頸癌の発生と進展」シンポジスト
2004年 米国生殖医学会(ASRM) 免疫部門優秀賞
2005年 米国産婦人科学会 基礎系(SGI) 学会長賞
2008年 第137回日本医学会シンポジウム「抗体療法の新しい展開」シンポジスト
2009年 第137回日本医学会シンポジウム「抗体療法の新しい展開」シンポジスト
2010年 日本産科婦人科学会 グッドプレゼンテーション賞
2011年 日本癌治療学会 優秀演題賞
2012年 日本医師会医学研究奨励賞
2014年 JOGR Best Reviewer’s Award
2015年 神澤医学研究振興財団 神澤医学賞