〈1〉 エストロゲンによる肥満制御機構の解明
  Estrogen and obesity in women; hormonal regulation of
  energy metabolism

上田 和孝

東京大学医学部附属病院循環器内科

 <研究目的> 女性において、肥満や糖尿病などの代謝異常の発症頻度は閉経後に急激に増加するが、この現象の主要な原因の一つとしてエストロゲンの枯渇に伴うエストロゲンシグナルの変化が考えられている。我々は多彩なエストロゲンシグナルの中で、近年新たに見出された"rapid non-genomicシグナル経路"のみを特異的にブロックした遺伝子改変マウスを樹立した。本研究では、このマウスを用いてエストロゲンによるエネルギー代謝制御のメカニズムを解明することを目的とする。 <研究方法・結果> エストロゲン受容体 (ER) αのrapid non-genomicシグナル経路を特異的にブロックした遺伝子改変マウス (KRRKIマウス) において、顕著な体重増加と耐糖能異常が認められた。本マウスにおいては野生型マウスに比べ食餌量に違いを認めなかったが、代謝チャンバーを用いた検討で、エネルギー代謝と自発的活動性が低下していることが明らかとなった。さらに本マウスでは室温下での体温が低下しており、寒冷環境での熱産生能も大きく低下していた。 若年時や寒冷刺激時には、本来エネルギー貯蓄の役割を持つ白色脂肪において、エネルギーを消費し熱産生を促す褐色脂肪様の性質を持つ成分が出現することが知られており、白色脂肪の褐色化 (browning) と呼ばれる。KRRKIマウスにおいては内臓白色脂肪においてbrowningのマーカー遺伝子の発現が顕著に低下していた。さらに、白色脂肪組織においては、交感神経からの刺激で増加するリン酸化CREBの発現が低下しており、browningを制御する主要な経路である交感神経からの入力が低下していることが示唆された。 哺乳類の熱産生能や自発的活動性の制御には脳視床下部が深く関わっている。今回我々は、リン酸化キナーゼアレイを用いたプロファイリングで、本マウスの視床下部組織において複数のキナーゼのリン酸化が増加しており、中でも、エネルギー代謝異常と深く関わるAMPKやAktのリン酸化が増加していることを見出した。さらに本マウスにおいては、主要なホスファターゼであるPP2Aの活性が低下していることが分かった。PP2Aの活性化剤 (FTY720) を本マウスに脳室内投与すると、視床下部におけるAktやAMPKのリン酸化が抑制され、エネルギー代謝が改善し肥満と耐糖能異常が著明に改善した。 <考察と結論> 本研究から、エストロゲンによるエネルギー代謝機構として、視床下部におけるERαのrapid non-genomicシグナル経路が重要な役割を果たしており、その中でもrapidシグナルによって活性化されるPP2AがAMPKやAktのリン酸化を抑制することでエネルギー代謝を制御している可能性が示された。本研究によって明らかになった結果をもとに、閉経後女性における、より効果的でより副作用の少ない肥満改善薬の開発に繋がることが期待される。

参考文献
1. Kazutaka Ueda, et al. Non-nuclear Estrogen Receptor Signaling Mediates Metabolic Homeostasis via Central Activation of Protein Phosphatase 2A. 投稿準備中
略歴
2001.3 千葉大学医学部医学科 卒業
2004.4 千葉大学大学院循環病態医科学 大学院生
2010.1 米国タフツ大学Molecular Cardiology Research Institute ポスドク
2011.4 同上 日本学術振興会海外特別研究員
2015.4 東京大学医学部附属病院循環器内科 特任臨床医
2015.7 同上 特任助教
  現在に至る。

〈2〉 閉経後代謝異常がもたらす骨芽細胞の多様性分化機構
   Multidfferentiation of osteoblasts in the postmenopausal
   metabolic dysregulation
   

楠山 譲二

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻発生発達成育学講座口腔生化学分野

 骨芽細胞分化中期に一過性に発現するリン酸化糖タンパク質であるオステオポンチン (OPN) は、活性型T細胞等の免疫細胞にも発現し、サイトカイン様の働きにて炎症反応を誘導する。近年、閉経モデルマウスの骨においてOPNが高発現しており、病態の進行に深く関わっていることが報告されている。我々は、石灰化誘導型の一般的な骨芽細胞分化とは異なり、OPNを多量に発現するタイプの骨芽細胞分化形式が存在することを見出した。閉経によってOPN型骨芽細胞の分布や数が上昇するとすれば、骨芽細胞の通常の生理的応答性が攪乱されてる可能性がある。そこで、OPN型骨芽細胞の閉経後骨代謝異常に対する関与を、様々な種類の生理的刺激に対する骨芽細胞の応答性の点から検討した。OPNを高発現した骨芽細胞はLIPUS(低出力超音波)によるメカニカルストレスへの応答が減弱しており、特にfocal adhesion kinase (FAK) の活性化をブロックしていることが分かった。同様の作用は骨芽細胞にリコンビナントOPNタンパク質を施した場合も見られた。また、OPN-siRNAやOPN中和抗体はOPN型骨芽細胞のLIPUS応答性を有意に上昇させた。また、OPNは骨芽細胞のFAK活性化作用を持つHGF、PDGFによる刺激についても抑制性作用を示した。このメカニズムとして、OPNはFAKの脱リン酸化酵素であるlow molecular-weight protein tyrosine phosphatase (LMW-PTP) の発現を上昇させており、骨芽細胞分化によるOPNの発現とLMW-PTPの発現は協調的であることが分かった。更に、細胞内のLMW-PTPの発現は、OPN受容体の中でもCD44に特異的に誘導されることが分かった。このようにOPN型骨芽細胞は、通常の骨芽細胞とは異なった応答性を示すことによって、骨代謝シグナルに対して影響を及ぼしている可能性がある。

参考文献
1. Joji Kusuyama, Kenjiro Bandow, Tomokazu Ohnishi, Mitsuhiro Hisadome, Kaori Shima, Ichiro Semba and Tetsuya Matsuguchi. Osteopontin inhibits osteoblast responsiveness through the downregulation of focal adhesion kinase mediated by the induction of low molecular weight-protein tyrosine phosphatase. Molecular Biology of the Cell, in press, 2017
略歴
2009.3 鹿児島大学歯学部 卒業
2009.4 東京医科歯科大学歯学部付属病院 臨床研修医
2012.4 日本学術振興会特別研究員(DC2)
2014.3 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科発生発達成育学講座口腔生化学分野 卒業
(博士(歯学))
2014.6 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科腫瘍学講座口腔病理解析学分野 助教
2015.12 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科健康科学専攻発生発達成育学講座口腔生化学分野 助教
現在に至る。

〈3〉 認知機能障害におけるグリア細胞女性ステロイドホルモン受容体
   および関連シグナルの病態生理的役割の解明 

   Research on the pathophysiological roles of glial estrogen
   receptors and the related signals in cognitive impairment

白川 久志

京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野

 アルツハイマー病や脳血管性認知症といった認知症はもとより、他の中枢性神経変性疾患や精神疾患においても認知機能障害の出現は医療上大きな問題となっている。心機能低下や動脈硬化を遠因とする脳血流量の緩徐な低下は、特に高齢女性における認知機能障害発症要因の一つとして認識されつつあるため、慢性的な脳低血流状態により生じる病態メカニズムの解明は、認知機能障害の治療戦略に新たな選択肢をもたらすことが期待された。そこで本研究では、両側総頸動脈に微小コイルを装着した慢性脳低血流モデルを作製して解析した結果、脳内炎症と想定されるミクログリアやアストロサイト等の脳内グリア細胞の異常活性化が観察され、それに付随して白質病変も認められた。さらにY迷路試験および新奇物体探索試験により記憶試験を行ったところ、認知機能の有意な低下が観察された。次にその病態機序について様々な検討を行ったところ、申請者らがこれまでにグリア細胞における特定のサイトカイン産生媒介作用等を報告してきたCa2+透過型カチオンチャネルであるTRPM2の遺伝子欠損により、組織学的な病変が減弱し、両試験における認知機能障害が有意に改善することを見出した。次に、慢性脳低血流が増悪因子となりグリア細胞の異常活性化が関与する中枢性神経変性疾患として、女性罹患率が高いことが知られている多発性硬化症に着目し、その病態モデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデルを用いて検討したところ、発症に伴う神経麻痺などの臨床スコアの上昇がTRPM2欠損マウスでは顕著に改善されていた。さらにTRPM2阻害作用を有する薬物を発症後に投与しても、有意な臨床スコアの改善が認められた。以上の成果より、高齢女性において多く観察される慢性脳低血流状態により惹起される認知機能障害の惹起にはグリア細胞TRPM2が重要であることが示され、TRPM2阻害が同疾患の治療戦略になり得ることが明らかとなった。

略歴
2000.3 京都大学薬学部製薬化学科 卒業
2002.3 京都大学大学院薬学研究科医療薬科学専攻 修士課程修了
2005.3 京都大学大学院薬学研究科医療薬科学専攻 博士後期課程修了・学位取得
2005.4 京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野 COE研究員
2006.1 京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野 助手
2007.4 京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野 助教
2014.4 京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野 准教授
現在に至る。

〈4〉 日本人女性におけるエストロゲン曝露による活性化プロテインC
   凝固制御系の変化と血栓性素因に関する研究
   Thrombophilias and the change of activated protein C system
   affected by estrogen in Japanese women

三好 剛一

国立循環器病研究センター周産期・婦人科部

  【目的】 近年、低用量ピル(OC)内服患者における血栓症が大きな社会問題となっている。本研究では、日本人女性におけるOC内服前後の凝固制御因子の動態を明らかにすることを目的とした。
【方法】 2014年8月~2016年10月までに登録された新規のOC内服予定の日本人女性394名を対象として、プロテインS(PS)、プロテインC(PC)、アンチトロンビン(AT)の抗原量・活性、PT、aPTT、D-dimerを測定し、全例でPS徳島変異を検索した。OC内服前と内服後15~21日目に採血し比較検討した。OCの種類(第1~4世代)による影響についても解析した。
【結果】 平均年齢29.5歳、BMI 20.4、喫煙率11.7%、O型30.0%、血栓症の家族歴2.3%であった。PS徳島変異が6例(1.5%)で同定された。PC抗原量を除き、OC内服後に有意な変化を示し、PS抗原量・活性は低下、PC活性は上昇、AT抗原量・活性は低下した。PT-INR、aPTTは低下。D-dimerは上昇し19.9%で異常値(>1.0 μg/mL)を呈し、3例で静脈血栓症が確認された。PS徳島変異陽性例では、正常例と比べ、PS活性が有意に低値であったが、その他の項目では差を認めなかった。 OCの世代による凝固制御因子の変化を、年齢・BMI・喫煙・O型・血栓症の家族歴・PS徳島変異の有無で調整して検討したところ、第3、4世代において、有意にPS抗原量・活性が低下、PC抗原量・活性が上昇したが、AT抗原量・活性は差を認めなかった。
【考察】 OCによってAPC抗凝固機構のみでなくAT抗凝固機構にも早期より抑制作用が働くことが確認された。OC関連血栓症が3周期(3ヶ月)までに発生しやすいことを裏付ける結果であった。OCの種類による影響は、エストロゲン含有量だけでなくプロゲステロンの種類(世代)も考慮する必要があると考えられた。
【結論】 OC内服1周期目の時点で既に凝固制御因子の抑制が生じており、今回の結果からも内服早期より血栓症への注意が必要と考えられた。特にPS徳島変異陽性例では、PS活性が有意に低く注意を要すると考えられた。

略歴
2003.3 広島大学医学部医学科 卒業
2003.4 広島大学附属病院産婦人科 初期研修開始
2004.7 県立広島病院産婦人科
2006.4 市立三次中央病院産婦人科
2008.4 広島大学附属病院産婦人科
2009.4 JA広島総合病院産婦人科
2010.4 JA尾道総合病院産婦人科
2011.4 国立循環器病研究センター周産期・婦人科
現在に至る。


〈5〉 iPS技術を応用した婦人科癌の癌幹細胞における機能獲得機序の解明
    Study on properties of gynecologic cancer stem cells using iPS
    technology

足立 克之

東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座生殖腫瘍学分野

 【目的】 癌幹細胞 (CSC) は治療抵抗性に関与すると言われる。子宮頸癌の癌幹細胞に着目し、そのモデルの樹立、薬剤耐性などの特徴についての検索を目的とした。
【方法】 子宮頸癌はヒトパピローマウイルス (HPV) が扁平上皮-円柱上皮移行帯 (SC-junction) に感染して癌化に至る。[1] SC-junctionにある組織幹細胞、リザーブ細胞に注目し、iPS細胞からリザーブ細胞を樹立することを試みた。[2] HPV16, 18陽性の子宮頸癌細胞株 (SiHa、Caski、HeLa) を非接着性プレートで3D培養し、CSCを作成した。CSCのapoptosis耐性の個別化をみるため、抗癌剤、apoptosis誘導剤添加でCSCへストレスを与え、apoptosis誘導能を評価した。CSCと通常の癌細胞 (CC) の比較からCSCに特異な性質を同定した。
【結果】 [1]iPS細胞からSCJに存在するリザーブ細胞モデルを作成した。iPS細胞由来リザーブ細胞はHLA-Gを強発現しており、免疫エスケープ能を示した。[2] SiHa、Caski、HeLaの3種類のCSCは形態学的に異なり、球形形成能はCaskiが最も高くCSCへの脱分化能が強かった。SiHaのCSCはストレス誘導剤tunicamycin添加でER stressを与えてもapoptosisに至らなかったが、ER stress経路阻害剤の併用でapoptosisに至った。またシスプラチン添加で、CCと比較してCSCはapoptosis耐性であったが、シスプラチンとER stress経路阻害剤の併用でapoptosisに導いた。CSCを個別化した上で、ER stress経路が亢進しているCSCには有効な治療と考えた。CSCとCCの遺伝子発現プロファイルをcDNA マイクロアレイで比較するとGremlin1がCSCに特異的な発現を認めた。Gremlin1発現を患者由来の臨床検体で調べると、高発現で無増悪生存期間が有意に短かった。CaskiにGremlin1を加えるとCSCへの脱分化が進みCSCの誘導能と予後不良が関連した。
【結語】 CSCはapoptosis耐性など治療抵抗性を獲得した特異な細胞集団だが、さらに “CSCの個別化” とそれに対応した治療戦略が重要である。

参考文献
1. Sato M, Adachi K. et al. Regeneration of cervical reserve cell-like cells from human induced pluripotent stem cells (iPSCs): A new approach to finding targets for cervical cancer stem cell treatment. Oncotarget. in press, 2017
2. Sato M, Adachi K. et al. Spheroid cancer stem cells display reprogrammed metabolism and obtain energy by actively running the tricarboxylic acid (TCA) cycle. Oncotarget 31; 7(22): 33297-305, 2016
3. Sato M, Adachi K, et al. Clinical significance of Gremlin 1 in cervical cancer and its effects on cancer stem cell maintenance. Oncol Rep. 35(1): 391-7, 2016
4. Fujimoto A, Adachi K. et al. Inhibition of endoplasmic reticulum (ER) stress sensors sensitizes cancer stem-like cells to ER stress-mediated apoptosis. Oncotarget 7(32): 51854-51864, 2016
5. Sato M, Adachi K. et al. Targeting glutamine metabolism and the focal adhesion kinase additively inhibits the mammalian target of the rapamycin pathway in spheroid cancer stem-like properties of ovarian clear cell carcinoma in vitro. Int J Oncol., Epub ahead of print, 2017
略歴
2001.3 東北大学医学部 卒業
2001.5 東京大学医学部附属病院 産科婦人科研修医
2007.4 東京大学大学院医学博士課程生殖・発達・加齢医学専攻 入学
2011.3 同 修了
2011.12 ミズーリ大学Missouri Center for Reproductive Medicine and Fertility 博士研究員
2013.12 同 帰国
2013.12 東京大学医学部産科婦人科学教室 助教
2017.2 埼玉県立がんセンター 出向中
現在に至る。


〈6〉 卵巣癌進展における腹腔内マクロファージの重要性と
   新たな標的分子の同定

   The significant involvement of peritoneal macrophages in
   ovarian cancer progression

菰原 義弘

熊本大学大学院生命科学研究部細胞病理学分野

 進行卵巣がん患者では、腹腔内にがん細胞が播種し腹水が貯留する。腹水が貯留した状態になると治療抵抗性になり、患者の予後も悪い。腹水中にはがん細胞のみならずマクロファージやリンパ球が多数存在していることは以前から知られていたが、特にマクロファージが治療抵抗性に関わることが近年の研究から示唆されている。私たちは以前から進行卵巣がん患者におけるマクロファージの役割に注目した研究を行ってきた。一連の研究のなかで、CD163を発現するマクロファージはがん細胞の活性化を誘導することを明らかにしてきた。これまでCD163をマーカーとして注目してきたが、我々はCD163に重要な機能があることを示唆する実験結果を得ることが出来た。CD163遺伝子欠損マウスを用いてヒトと同様に腹水が貯留する卵巣がんモデルを作製したところ、野生型では卵巣がんが形成されたが、CD163遺伝子欠損マウスにおいては卵巣がんの形成がおこらなかった。また、CD163遺伝子欠損マウスに卵巣癌細胞を移植する際に、CD163陽性マクロファージも同時に腹腔内移植することにより、卵巣癌腹水が貯留した。このことからCD163がマクロファージにおける好腫瘍性の活性化を誘導していることが明らかとなった。更にそのメカニズムを解析しているが、CD163はマクロファージからのIL-6産生に関わることが明らかとなりつつある。今後、CD163関連シグナルについて詳細な検討を加えていく予定である。

略歴
2000.3 熊本大学医学部医学科 卒業
2005.3 熊本大学大学院医学研究科(病理専攻) 卒業(医学博士)
2005.4 久留米大学先端癌治療研究センターがんワクチン部門 研究員
2007.3 熊本大学大学院生命科学研究部細胞病理学 助教
2011.11 同 講師
2014.6 同 准教授
現在に至る。


〈7〉 新規マイクロアレイによる妊娠高血圧腎症におけるmicroRNA発現変化
   Identification of changing miRNA in preeclampsia by
   novel microarray panel

高橋 宏典

自治医科大学産科婦人科

緒言:妊娠高血圧腎症 (Preeclampsia: PE) は全妊娠の3-5%に発症する。発症原因は特定されていないが、分娩後軽快することから胎盤に原因があると推察されている。microRNA (miRNA) はターゲットmessenger RNA発現を抑制するnon-coding RNAである。胎盤から産生されるmiRNAが絨毛浸潤に関係することが示され、さらに、そのようなmiRNAが母体血中に放出されることが分かってきた。PEでは胎盤絨毛の浸潤異常があるので、ある種のmiRNAはPE (+) ではPE (-) に比して、その母体血中発現量が変化している可能性がある。母体血液中miRNA発現を既知のヒトmiRNAをほとんど網羅した新規のマイクロアレイで比較した。
方法:早発型妊娠高血圧腎症 (PE) 妊婦5人とコントロール妊婦(満期分娩、PE発症 (-) )5人の血漿 (27-29週に採取) からRNAを抽出した。3D-GeneR chip(東レ)を使用してヒトmiRNA 2565種類の発現を解析した。PE (+) vs. (-) で発現差 (p<0.05) を示すmiRNAを抽出した。miRNA標準化はglobal normalizationを用い、各数値を比較して算出した。発現差 (+) のmiRNAはreal-time PCRを用い、発現解析した。
結果:全ての症例(10症例)で検出可能なmiRNAは418種類だった。PE (+) 血漿中miRNA発現はPE (-) に比し、52種類 (miR-6895-5p, 3918, 4792, 30c-1-3p, 4435, 4459など) で上昇し、8種類 (miR-451a, 8059, 4258, 4634, 4638-3p, 342-5p, 6787-5p, 4708-3p) で低下していた。発現差 (+) のmiRNAはreal-time PCRでも差が認められた。発現差 (+) の60種類のmiRNA中26種類は未報告のmiRNAだった。
結語:PEの病態形成に新規miRNAが関与し、PEバイオマーカーとなりうるものが含まれている可能性がある。

参考文献
1. Hironori Takahashi. Change in microRNA expression in preeclamptic maternal blood: Sixty microRNA detected by microarray analysis (3D-Gene chip) with global normalization. 日本産科婦人科学雑誌 69巻2号: 611, 2017
略歴 
2000.3 防衛医科大学校医学科 卒業
2006.8 国立成育医療センター周産期診療部 レジデント、産科医師
2008.11 フィラデルフィア小児病院胎児診断治療部 リサーチフェロー
2009.2 国立成育医療センター周産期診療部 産科医師
2010.4 自治医科大学大学院 入学(医学博士課程:甲種)
2014.4 自治医科大学産科婦人科 助教、学内講師
2016.4 佐野厚生総合病院 産婦人科 部長


〈8〉 妊娠高血圧症候群におけるオートファジー経路を介した
   新たなる病因解明、 および新規治療戦略の開発に向けた研究

    New strategy for clarifying and treating preeclampsia through
    the autophagy pathway

中島 彰俊

富山大学大学院医学薬学研究部産科婦人科学教室

 妊娠高血圧症候群 (以下PE) は、世界中で約1000万人の妊婦が罹患し、その内7万6000人が死亡する疾患である。しかし、臨床現場ではPE治療への有効な治療法はない。我々は、ノーベル生理学医学賞で注目された“オートファジー”に注目し、胎盤におけるオートファジー抑制がPE発症につながることを報告してきた。さらに、今回の検討から、PE胎盤におけるオートファジー抑制には、オートファジーおよびリソソームの制御因子であるTranscriptional factor EB (TFEB) が低下していることを発見した(投稿中)。以前我々が樹立したオートファジー欠損細胞においても、TFEBの活性化は強く抑制されていた。さらに、その抑制機構にはmTORの活性化が関与していることが分かったが、トロホブラストのオートファジー正常細胞に、ヒトPE患者血清を添加すると欠損細胞でみられたようなmTORの活性化がおこり、その結果TFEB活性が抑制されることが分かった(投稿中)。さらに、細胞レベルで確認されたTFEB発現の低下が、今回の検討では胎盤特異的オートファジー欠損マウスにおいても認められた。それに加え、子宮血流阻害による低酸素胎盤マウスモデルを用いて、TFEB発現が低下し(PE胎盤で認められる)小胞体ストレスの増強が確認された。現在治療薬として、食品Xまたは薬剤Yを添加することで、トロフォブラストにオートファジーを活性化させる薬剤を発見した(投稿前のためX/Yとした)。現在、上記XまたはYがTFEB活性化を引き起こすか、さらにヒト胎盤組織を用いて検討中であるが、今回の結果より、新規薬剤X・食品成分YがPEの将来的治療薬になりうることが期待される。

参考文献
1. Nakashima A, Aoki A, and Saito S. Autophagy in current trends in cellular physiology and pathology. ”The role of autophagy for maintaining pregnancy.” INTECH, 2016
略歴
1999.4 富山医科薬科大学附属病院産科婦人科 入局
2002.4 富山医科薬科大学大学院 入学(内地留学:東北大学免疫学 菅村和夫教授)
2006.3 富山医科薬科大学大学院 卒業(医学博士 取得)
2007.4 富山大学大学院医学薬学研究部産科婦人科学教室 助教
2013.6 米国Brown University 留学 (Dr. Surendra Sharma)
2015.6 富山大学大学院医学薬学研究部産科婦人科学教室 助教
2016.2 富山大学附属病院 講師
現在に至る。



〈9〉 子宮頸がん発症に重要な細胞内シグナル経路の同定
   Identification of the intracellular signaling important for the onset
   of cervical cancers

西尾 美希

神戸大学大学院医学研究科生化学・分子生物学講座分子細胞生物学分野

 子宮頸部扁平上皮がんは、ヒトパピローマウイルス (HPV) の持続感染により発症し、近年若年層の罹患者数は乳がんに次いで第2位を占める。HPVはがんの発症・進展に重要な分子であるp53やRB1の発現に異常をきたすことで子宮頸部扁平上皮がんの発症に関与にすることが知られている。しかしながら、HPVによる子宮頸部の早期異形成発症はp53やRB1以外の異常の存在が示唆されていた。 近年、Hippo経路は器官サイズ、がん発症・進展を制御するシグナル経路として注目されている。MOB1A/1B はHippo経路主要構成分子の一つであり、LATS1/2キナーゼのアダプター分子としてLATSキナーゼの活性を増強する。またMOB1A/1Bの欠損はHippo経路主要構成分子のうちで最も劇的なYAP1の活性化を引き起こす。しかしながら、子宮におけるMOB1A/1BやHippo経路の働きはほとんど分かっていない。 そこで私たちは、子宮におけるHippo経路の機能を解析するために子宮特異的にMOB1A/1Bを完全に欠損するマウスを作製した。子宮特異的なMOB1A/1B欠損マウスの子宮では3週齢から子宮頸部上皮内がんの自然発症を全例で認めた。また、ヒト子宮頸部上皮内がんにおいてHippo経路分子の発現をみたところ、ヒト子宮頸部上皮内がんの全例でYAP1の活性化を認めたことからも、子宮頸部扁平上皮がんの早期異形成発症にHippo経路が重要である可能性を見出した。

略歴
2000.3 北里大学薬学部 卒業
2002.3 北里大学大学院薬学研究科 修士課程修了
2007.3 秋田大学大学院医学研究科 博士課程修了
2007.4 秋田大学医学部 研究補助員
2007.9 九州大学生体防御医学研究所 学術研究員
2008.4 日本学術振興会 特別研究員
2011.4 九州大学生体防御医学研究所 機関研究員
2012.3 九州大学生体防御医学研究所 助教
2017.5 神戸大学大学院医学研究科生化学・分子生物学講座分子細胞生物学分野 講師
現在に至る。
 


〈10〉 MRスペクトロスコピーによるチョコレート嚢胞癌化の早期診断法
    Magnetic resonance spectroscopic imaging is an accurate tool
    and correlated to total iron concentration in prediction of
    malignanttransformation of ovarian endometriosis

吉元 千陽

奈良県立医科大学産婦人科学教室

 子宮内膜症の卵巣病変であるチョコレート嚢胞は0.72%で癌化する。しかし術前における現行の癌化の診断精度は十分でなく、手術による病理組織学的検査によって初めて明らかにされる。従ってより精度の高い、低侵襲な診断方法の実用化が嘱望される。我々はこれまでに、嚢胞内容液に含まれる「鉄」が発癌に密接に関連していることを報告し、チョコレート嚢胞と内膜症関連卵巣癌における嚢胞内用液中の鉄濃度を比較した結果、卵巣癌ではチョコレート嚢胞より有意に鉄濃度が低いことを明らかにした。この差異に着目し、鉄成分を測定する新規MRIシーケンスを用いて癌化の診断ができるかを検討した。
当院で手術を施行したチョコレート嚢胞67例と内膜症関連卵巣癌15例を対象に、シーメンス社製3T-MRIのMR Spectroscopy (MRS) を用いて手術前の生体内の腫瘍内容液のMRS信号強度(以下R2値)、摘出した内容液のR2値を測定し、ICP分析法を用いて摘出した内容液の鉄濃度(以下 [Fe]ICP)を測定し、これらの相関関係を検討した。
生体内R2値と摘出後のR2値は一致し、摘出後の内容液は生体内の状態を反映すると考えられた。また、摘出後のR2値と [Fe]ICPの相関係数は0.850と、良好な相関を示した。従って、生体内R2値は [Fe]ICPを反映することが証明された。チョコレート嚢胞と内膜症関連卵巣癌の生体内R2値は、24.4 ± 9.8 vs. 8.7 ± 4.5, p < 0.001であり、内膜症関連卵巣癌は有意に低値を示した。ROC曲線を用いてカットオフ値をR2=12.1に設定した場合、感度86%、特異度94%、陽性的中率80%、陰性的中率96%で卵巣癌の診断が可能であった。
生体内のチョコレート嚢胞と内膜症関連卵巣癌の鉄濃度をMRI検査で推定でき、両者の鑑別が可能であった。R2値の低下により発癌を早期発見できる可能性が示唆された。

参考文献
1. Chiharu Yoshimoto. Transverse Relaxation Rate of Cyst Fluid Can Predict Malingnant Transformation of Ovarian Endometriosis. Magnetic Resonance in Medical Sciences 10;16(2):137-145, 2017
略歴
2006.3 奈良県立医科大学医学部 卒業
2013.4 奈良県立医科大学産婦人科学教室 助教
現在に至る。


 第19回 神澤医学賞受賞講演 要旨

卵巣機能不全に対する新たな不妊治療「卵胞活性化療法」の開発

Development of novel therapy “ IVA: in vitro activation”
for infertile patients with ovarian dysfunction


河村 和弘

聖マリアンナ医科大学医学部産婦人科学 准教授

はじめに
 卵巣内の卵胞は加齢と共に減少するが、卵巣内の卵胞が急激に減少し、40歳未満で卵胞が発育しなくなり閉経する早発卵巣不全 (POI; primary ovarian insufficiency) という疾患が存在する。POIは全女性の100人に1人に自然発生し、排卵がおこらないため、難治性の不妊となる。これまで高齢による卵巣機能不全やPOI患者の最も有効な治療法は提供卵子を用いた体外受精胚移植であり、自らの卵子で妊娠することは非常に困難であった。このような患者が自らの卵子で妊娠することを可能とするため、卵巣内に残存する卵胞に着目し、基礎・橋渡し・臨床研究を行ってきた。その結果、卵胞活性化療法 (IVA: in vitro activation) という新たな不妊治療法を開発し、2013年に世界初のIVAによるPOI患者の妊娠・出産例を報告した。ここでは、一連の研究成果を紹介し、今後の研究展望につき考察する。

早発卵巣不全の病態
 POIは、染色体異常、自己免疫疾患、医原性(卵巣手術、抗がん剤・放射線治療)など原因は多岐にわたるが[1]、共通の主要な病態は卵巣内の残存卵胞の急激な減少である。その結果、残存している休眠原始卵胞数は閉経期のレベルまで減少し、ある限界値(約1,000個)まで到達すると月経毎の定期的な休眠原始卵胞の活性化がおこらなくなり、卵胞のリクルートが停止して発育卵胞が消失する。そのため排卵がおこらず、非常に難治性の不妊を呈する。POIは全女性の100人に1人に自然発生することから、我が国の晩婚化の傾向により、これまではPOIを発症する前に妊娠出産を済ませてきたため問題にならなかった女性達が、今後はPOIが顕在化して不妊治療を望む件数が増加することが懸念される。このようなPOI患者に対して、これまで種々のホルモン療法、排卵誘発などが行われてきたが、その効果は限定的であり、患者が自らの卵子で妊娠するためには新たな不妊治療法の開発が必要であった。

卵胞活性化療法の開発
 卵胞発育はゴナドトロピンの依存性により三つの段階に分類される。第1段階は、原始卵胞から前胞状卵胞に至るまでの期間であり、この時期はゴナドトロピン非依存性に卵胞が発育する。この時期の卵胞発育には卵巣の局所因子が重要であり、その1つとしてc-type natriuretic peptideを同定した[2]。しかし、いくらこのような因子を用いても、休眠原始卵胞の活性化が障害されている卵巣機能不全においては、根本的な解決には至らない。新たな治療法の開発には、残存卵胞の減少により体内では殆どおこらない原始卵胞の活性化を、強制的に行う方法を確立する必要があった。
 これまで原始卵胞活性化のシグナルは確定されていなかった。また、多数の休眠原始卵胞からごく一部の卵胞が選択され活性化がおこる分子基盤も不明であった。我々と他のグループは、原始卵胞活性化に関与する機構としてPI3K (Phosphoinositide 3-kinase)-Akt-Foxo3 (Forkhead box O3) 経路が重要な役割を果たしていることを見出した。Foxo3は核内で細胞周期を停止して原始卵胞が活性化することを抑制している。そこにPI3K-Aktシグナルが伝わるとFoxo3は核外に移行しその抑制機能を失う。その結果、休眠状態にあった原始卵胞が活性化するのである。このPI3K-AktのシグナルはPTEN (phosphatase with TENsin homology deleted in chromosome 10) により負に制御されており、PTENによるPI3K-Akt経路の抑制により卵胞の活性化が停止している。この状態で何らかの活性化開始シグナルが原始卵胞に作用すると、PTENによるPI3K-Akt経路の抑制が解除されるか、またはPTENによる抑制作用を上回るPI3K-Aktの活性化が生じ、Foxo3の不活性化がおきて原始卵胞が活性化して発育を開始する[3-7]。
 さらに、卵巣の断片化が初期卵胞の発育を促進することを見出した。Hippoシグナルは細胞増殖や生存を制御するシグナルであり、細胞同士の接着が障害されると不活性化する。通常はエフェクタータンパクであるYAP (Yes-associated protein) はHippoシグナルにより核移行が抑制されているが、組織・細胞が破壊されるとHippoシグナルが抑制され、YAPは核内へ移行し核内転写因子であるTEADと共役してCCN成長因子などの産生を促進し、細胞増殖がおこり組織が修復される。卵巣を断片化するとHippoシグナルが抑制され、顆粒膜細胞の核内へのYAPの移行と、引き続くCCN成長因子の急増とBIRCアポトーシス抑制因子の発現増加が認められた。CCN成長因子は卵巣組織培養において卵巣断片化と同様の2次卵胞発育促進効果を示した。従って、卵巣断片化によりHippoシグナルが抑制され、YAPによる核内転写活性が高まり、成長因子であるCCNファミリーの発現が急増して卵巣顆粒膜細胞が増殖し卵胞発育が促進されると考えられる [4-9]。
 この卵巣断片化によるHippoシグナルの抑制とPI3K-Aktシグナルの活性化を同時に行うことで、原始卵胞を活性化させつつ、2次卵胞の発育も誘導することができる。実際、マウスでは、Hippoシグナルの抑制とPI3K-Aktシグナルの活性化をそれぞれ単独で用いるよりも、同時に行った場合により多くの胞状卵胞が得られた[4-9]。

卵胞活性化療法の臨床応用
 これらの基礎研究の成果から、PI3K活性化剤およびPTEN抑制剤を用いて休眠原始卵胞を活性化する方法を考案し、マウス卵巣を用いた基礎研究を行い、卵巣組織の体外培養下でPI3K活性化剤およびPTEN抑制剤を作用させることで原始卵胞の人為的活性化に成功した[3-7]。その後、倫理委員会の承認と患者の同意の下、ヒト卵巣皮質に対して、PTEN抑制剤を用いた体外組織培養による橋渡し研究を実施し、ヒト原始卵胞の活性化にも成功した[3-7]。さらに、動物実験により、本法の安全性を十分確認した後、本法を卵胞活性化療法 (IVA: in vitro activation) と名付け、早発卵巣不全患者に対し臨床応用を開始した。
 始めに腹腔鏡施術により卵巣を摘出する。手術中に留意すべきことは、止血の際に卵巣自身および移植先となる卵管に熱凝固のダメージが伝わらないようにすることである。実際、POI患者の卵巣は血流が悪いため、電気凝固をほとんど要さず卵巣摘出を施行できる。卵巣機能不全患者の卵巣内に残存している可能性のある初期卵胞は卵巣皮質に局在していることから、摘出した卵巣の髄質部分を切除し、卵巣皮質のみの組織を準備する。これを1 x 1 cm2, 1-2mm厚に切離し、それぞれの卵巣皮質断片の約5-10%の組織を組織検査用に切離する。組織検査用組織はブアン液で固定し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行い、顕微鏡下に組織内の各発育段階の残存卵胞を検出する。Hippoシグナルの抑制のため、摘出卵巣皮質を1-2mm四方に小断片化する。その後、前述のPI3K活性化剤およびPTEN抑制剤を用いて48時間組織培養を気相液層界面培養法にて行い、PI3K-Aktシグナルを活性化させる。また症例によっては、卵巣組織をガラス化法にて凍結保存し、卵巣組織移植が可能となった時点で2-3片の卵巣組織断片を融解し、卵巣組織培養を行うことも可能である。
 培養後、薬剤を体内に持ち込まないよう、培養した卵巣組織を十分に洗浄し、腹腔鏡下に卵管漿膜下に移植する。卵管漿膜に小切開をおき、切開創を広げないように留意しながら、漿膜を卵管から剥離して空隙を作製する。その空隙に卵巣小断片を20-30個挿入し、漿膜を縫合またはインターシードで被包する。卵管漿膜下を移植部位に選んだ理由として、(1) 血流が抱負で血管新生に有利である、(2) 経腟超音波による卵胞発育モニターが容易である、(3)卵胞発育時の採卵が容易である、といった点が挙げられる。
 卵巣移植後は、卵胞発育障害や早期黄体化をきたす血中の高LH環境を是正した後、FSH/hMG製剤による卵巣刺激を行う。卵胞発育は血中ホルモン動態、特にエストロゲンの上昇に注目しながら、経腟超音波を併用しつつモニターし、卵胞発育を認めた場合には、通常の体外受精と同様の方法を用いてhCG投与後36時間に採卵を行う。採卵は通常の手技で行うことができる。成熟卵子が得られたら、精子所見により媒精または顕微授精を行う。受精卵はD2でガラス化法により凍結し、後日ホルモン補充周期下に解凍胚移植を行う。
 IVAの早発卵巣不全患者における臨床成績は、2報目の論文を発表した時点では、37名の早発卵巣不全患者(平均年齢37.2歳、平均無月経期間5.9年)に対しIVAを実施し、37名中20名で残存卵胞を認めた。20名中9名で卵胞発育が認められ、7名の患者から成熟卵子が得られて体外受精を行った。5名の患者に胚移植を実施し、3名が妊娠した。1名は妊娠初期に流産となったが、2名は順調に経過し、それぞれ3,254gの男児、2970gの女児を出産した[4-10]。現在、中国、スペインでIVAの追試に成功し、妊娠例が出ている[11, 12]。

今後の展望
 現行のIVAには次のような改善点がある。1) 残存卵胞の有無は摘出卵巣の組織学的検査以外の方法で判定できない、2) 腹腔鏡の手術を2回実施する必要があり侵襲性が比較的高い、3) 移植後の卵巣正着率が不十分、4) 卵子の質は改善できない、5) 残存卵胞がない患者は治療対象外となる。それぞれの改善点に関し、現在精力的に研究を行っており、解決法が見つかったものもあり、臨床応用にむけて準備をしている。今後も、増加している卵巣機能不全患者の治療法の確立に向けさらなる研究を展開していきたい。

参考文献
1. Takae S, Kawamura K, Sato Y, Nishijima C, Yoshioka Y, Sugishita Y, Horage Y, Tanaka M, Ishizuka, B, Suzuki N: Analysis of late-onset ovarian insufficiency after ovarian surgery: retrospective study with 75 patients of post-surgical ovarian insufficiency, PLoS One, 23: e98174, 2014
2. Sato Y, Cheng Y, Kawamura K, Takae S, Hsueh AJW: C-type natriuretic peptide stimulates ovarian follicle development, Mol Endocrinol, 26: 1158-1166, 2012
3. Li J, Kawamura K, Cheng Y, Liu S, Klein C Liu S, Duan EK, Hsueh AJW: Activation of dormant ovarian follicles to generate mature eggs, Proc Natl Acad Sci USA, 107: 10280-10284, 2010
4. Kawamura K: A novel infertility treatment based on the technology of follicle activation: IVA; in vitro Activation, J Mammal Ova Res, 31: 102-106, 2014
5. Hsueh AJ, Kawamura K, Cheng Y, Fauser BC: Intraovarian control of early folliculogenesis, Endocr Rev, 36: 1-24, 2015
6. Kawamura K, Kawamura N, Hsueh AJ: Activation of dormant follicles: a new treatment for premature ovarian failure? Curr Opin Obstet Gynecol, 28, 217-222, 2016
7. Kawamura K, Kawashima I: Disorganization of the germ cell pool leads primary ovarian insufficiency. Reproduction, in press.
8. Kawamura K, Cheng Y, Suzuki N, Deguchi M, Sato Y, Takae S, Ho CH, Kawamura N, Tamura M, Hashimoto S, Sugishita Y, Morimoto Y, Hosoi Y, Yoshioka N, Ishizuka B, Hsueh AJW: Hippo signaling disruption and Akt stimulation of ovarian follicles for infertility treatment, Proc Natl Acad Sci USA, 110: 17474-17479, 2013
9. Cheng Y, Feng Y, Jansson L, Sato Y, Deguchi M, Kawamura K, Hsueh AJ: Actin polymerization-enhancing drugs promote ovarian follicle growth mediated by the Hippo signaling effector YAP, FASEB J, 29, 2423-2430, 2015
10. Suzuki N, Yoshioka N, Takae S, Sugishita Y, Tamura M, Hashimoto S, Morimoto Y, Kawamura K: Successful fertility preservation following ovarian tissue vitrification in patients with primary ovarian insufficiency, Hum Reprod, 30, 608-615, 2015
11. Kawamura K, Cheng Y, Sun YP, Zhai J, Diaz-Garcia C, Simon C, Pellicer A, Hsueh AJ: Ovary transplantation: to activate or not to activate. Hum Reprod, 30, 2457-2460, 2015
12. Zhai J, Yao G, Dong F, Bu Z, Cheng Y, Sato Y, Hu L, Zhang Y, Wang J, Dai S, Li J, Sun J, Hsueh AJ, Kawamura K, Sun Y: In vitro activation of follicles and fresh tissue auto-transplantation in primary ovarian insufficiency patients. J Clin Endocrinol Metab, 101, 4405-4412, 2016
   
略歴
1996年3月 秋田大学医学部 卒業
1996年5月 秋田大学医学部附属病院 医員(研修医)
1997年4月 秋田大学医学部大学院医学系研究科 入学
2001年3月 秋田大学医学部大学院医学系研究科 修了、医学博士号取得
2002年7月 秋田大学医学部産婦人科学講座 助手
2003年2月 米国Stanford大学医学部産婦人科 Research Fellow
2005年4月 秋田大学医学部産婦人科学講座 助手
2007年10月 米国Stanford大学医学部産婦人科 Visiting Professor
2009年4月 秋田大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座 講師
2012年3月 聖マリアンナ医科大学医学部産婦人科学 准教授
2018年4月 国際医療福祉大学医学部産婦人科 教授就任予定

受賞など  
2002年 第43回日本哺乳動物卵子学会 学術奨励賞
第13回秋田医学会 学術奨励賞
2004年 第49回日本不妊学会 学術奨励賞金
Stanford University Dean’s postdoctoral fellowship
2005年 第10回日本生殖内分泌学会 学術奨励賞
第50回日本不妊学会 優秀演題賞
2006年 第17回山下太郎顕彰育英会 学術研究奨励賞
第24回日本受精着床学会 世界体外受精会議記念賞
2008年 第20回秋田医学会 医学会賞
第60回日本産婦人科学会 学術奨励賞
2009年 International Ovarian Conference 2009, Poster Award
2011年 第6回日本生殖再生医学会 学術奨励賞
秋田大学先進医療プロジェクトコンペ 優秀賞
2012年 第64回日本産婦人科学会 優秀演題賞
2013年 アステラス病態代謝研究会 最優秀理事長賞
2014年 第55回日本卵子学会 学術奨励賞
第32回 日本受精着床学会 世界体外受精会議記念賞
2015年 第7回 聖マリアンナ医科大学 前田賞
2016年 第10回 日本生殖再生医学会 学術奨励賞受賞
第56回 日本卵子学会 学術奨励賞受賞
2017年 平成28年度(第19回)(公財)神澤医学研究振興財団 神澤医学賞