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Vol.21 痛みはどこで生じるか

うちの娘は痛がり屋で、あそこが痛い、ここが痛いとすぐ言う。痛いとはすなわち異常があることであり、その異常とはなにか。それが知りたいらしい。痛いから異常とは限らない。痛みは障害の警報である。生まれつき痛みのない人がある。長生きしない。警報がないから、どうしても無理をする。第一、怪我が止まらない。

脳には、痛みを感じる部位がある。この部位は、当然からだの部位と対応している。それでなければ、いかに脳という秀才でも、どこが痛いのか、わからないではないか。別な言い方をすれば、手の親指なら、手の親指に相当する部分が脳にあって、そこが刺激されれば、本人は「手の親指が痛い」と言う。これで大切なことがわかる。痛いのは手の親指ではない、ということである。脳である。

もちろん、神経は手の親指から、脳のその場所まで、順次連結している。ゆえに、その連絡のどこを切断しても、手の親指は痛くなくなる。ただし、たとえ親指が痛くなくても、脳のその場所を刺激すれば、本人は「手の親指が痛い」と言う。

これがわかっていれば、誤解はなくなる。「痛い」というのは「ことば」であり、ことばは脳から出る。痛みは脳のものだから、脳から出ることばで言えるのである。親指は脳ではない。だから、親指のことは、本当は脳は知らない。そこで、親指がなんともなくても親指が痛むことが生じる。その痛みは脳で生じるのである。

養老先生の医学エッセイ

  1. 肝臓が悪い
  2. 死体で見る世相
  3. 舌はなぜ伸びるか
  4. 軟骨と骨はどう違うか
  5. 男と女はどちらが先か
  6. 肛門はあるか
  7. 病気と健康と
  8. 骨を折る
  9. 死んだ人の毛は伸びるか
  10. ことばと音楽
  11. ツバはなんのために出るか
  12. 眼はいくつあるか
  13. 男女の生みわけ
  14. 細胞の大きさ
  15. 手と足はどう違う
  16. ヒトと動物の違い
  17. 運動神経はあるか
  18. 悲しいとなぜ涙が出るか
  19. 卵管と精管は同じものか
  20. 骨はいくつあるか
  21. 痛みはどこで生じるか
  22. 心臓の痛み
  23. 大腸と小腸
  24. 五臓六腑
  25. 肺はなぜ黒い
  26. なくていいもの
  27. 怒る、泣く、笑う
  28. 病は気から
  29. 代理母
  30. かゆみ
  31. 奇妙な名前
  32. 大血管の左右
  33. ヒトはなぜ汗をかくか
  34. 運動とはなにか
  35. 腸の長さ
  36. 機械とからだ
  37. 脳死
  38. 脳のはたらき
  39. 色とはなにか
  40. よくできている
  41. いるもの、いらないもの
  42. 余分なもの
  43. 心臓を大切に
  44. 心臓がない
  45. ラセンとからだ
  46. 丸いもの
  47. 硬いもの
  48. 臓器の色
  49. おおう
  50. 詰める
  51. 滑る
  52. 食べて、たまる
  53. 古くなる
  54. 寿命が来る
  55. 噛む
  56. 減る
  57. はずれる
  58. 凝る
  59. 手の実物
  60. 身体とは何か
  61. 意識はどこからきたか
  62. 自分の脳
  63. 頭の毛
  64. 三位一体
  65. 脳のシワ
  66. 性格と血液型
  67. 美人
  68. 極端な特徴
  69. ネズミとヒト
  70. 首とはなにか
  71. 脳のシワ
  72. 脳の大きさと知能
  73. 脳が変わる
  74. 壊れた脳
  75. 色つきの図譜
  76. 心と心臓
  77. 人体標本
  78. 標本と模型
  79. 指はなぜ五本か
  80. 人中
  81. 生きている 死んでいる
  82. 簡単な生物
  83. どこまで遺伝子か
  84. 気が滅入る
  85. 生物の複雑さ(最終回)

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