透析患者の新型コロナ手帳

新型コロナの基本情報、感染対策、についてご紹介いたします。

【監修】医療法人社団豊済会(ほうさいかい) 下落合クリニック 理事長/院長 菊地 勘 先生 

  • 医療法人社団豊済会 理事長 下落合クリニック 院長菊地 勘 先生

    感染症に詳しい透析専門医からのメッセージ 

    医療法人社団豊済会 理事長
    下落合クリニック 院長
    菊地 勘 先生

    新型コロナウィルス感染症に不安をお持ちの透析患者さん、ご家族の皆様へ

    皆様、お元気で週3回の透析に通院していますでしょうか?

    週3回の通院を行い、長時間の治療を行うことは、非常に大変なことだと思います。
    しかし、週に3回通院することで、医療従事者と会話をすること、患者さん同士での会話や交流のきっかけとなるなど、通常(透析以外)の外来とは違う楽しみがあるのではないでしょうか!

    しかし、2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響から、会話や交流は制限され、ストレスの溜まる生活を余儀なくされていることでしょう。
    早くこれまでの日常が戻るよう、日々、我々医療従事者は新型コロナウイルス感染症を含む感染対策について努力をしておりますので、皆様もご協力をよろしくお願いいたします。

    さて、本邦で透析治療が行われるようになり50年以上が経過しました。1971年より透析治療は自立支援医療(更生医療)が適用され、自己負担が低減されました。

    そして、患者さんと患者さんを支えた透析医療従事者の努力により、透析治療のレベルが非常に向上したことから、透析開始(導入)後の生命予後は非常に良くなり、1971年末の透析患者数は1,826人でしたが、2019年末には34万4,640人まで増加しています。

    現在では、週3回の治療を受ける必要があること以外、腎機能が正常な方々と大きく変わらない生活が送れるようになりました。
    患者さんが仕事や趣味を継続し、家族や友人との生活を楽しみながら長生きしていくこと、そのサポートを行っていくことが、我々透析医療従事者の使命だと考えています。

    週3回の通院をデメリットではなくメリットに変えられるように、日々、患者さんと接して気持ちを共有し、一人一人に合った最新の医療を提供していきたいと思います。

    菊地 勘 先生 略歴:
    1998年杏林大学医学部 卒業
    同年同第3内科(肝臓内科) 入局
    2001年東京女子医科大学 第四内科(腎臓内科) 入局
    2006年東京女子医科大学 血液浄化療法科 助教
    2009年医療法人社団豊済会 下落合クリニック 院長
    同年東京女子医科大学 血液浄化療法科 講師(非常勤)
    2014年〜医療法人社団豊済会(ほうさいかい) 理事長

  • 透析患者にとっての感染症とは 

    新型コロナウイルス感染症と、その予防策について解説します

    新型コロナウイルス感染症を正しく知り、
    予防策の徹底で感染を防ぐ

    世界的に猛威を振るう新型コロナウイルス感染症に、不安を感じている透析患者さんやご家族も多いのではないでしょうか。高齢の方や透析患者さんをはじめとした持病のある方は、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいと考えられています。

    また、感染症は、透析患者さんの死亡原因の第2位を占めており、透析患者さんにとって最も注意が必要な合併症の一つです(詳しくは、「透析について考える」内にある「気をつけるべき合併症とは?」をご参照ください)。

    ここでは、新型コロナウイルス感染症を正しく知るためのポイントをまとめました。
    新型コロナウイルス感染症とはどういうものなのか、その感染予防策について正しく理解し、日常生活に取り入れることで、笑顔でいきいきと、充実した毎日を送る方法を考えてみましょう。

    新型コロナウイルス感染症とは?

    コロナウイルスは、風邪のような症状を引き起こすウイルスで、人間に感染すると咳やくしゃみなどの呼吸器の症状や、下痢などの消化器の症状を起こすものがあり、これまでに6種類が分かっています。感染したときの症状があまり問題にならないものもありますが、2002~2003年に東南アジアを中心に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や、2012年から中東で蔓延している中東呼吸器症候群(MERS)では、肺炎などの深刻な状態を引き起こすことが知られています。

    今、私たちが直面している新型コロナウイルスは、2019年に中国武漢での感染が確認されて以降、数カ月の間に全世界に拡がった、とても感染力が強いウイルスです。感染しても症状が出なかったり、軽症だったりすることも多いため、感染しても気づかずにウイルス感染を広めてしまうことが、急速に広がった原因ではないかと考えられています。

    その一方で、高齢の方や、透析患者さんをはじめとした持病のある方では、肺炎が急速に悪化して、人工呼吸が必要となり、最悪な場合には亡くなってしまうこともあり得ます。新型コロナウイルスは、透析患者さんにとって、とても怖いウイルスの一つなのです。

    コロナに打ち勝つには、ワクチン接種と適切な感染予防策が重要

    ウイルスは私たちの体の中で増殖し、少しずつですが変化します。新型コロナウイルスの変異株はこうした過程で発生したウイルスで、デルタ株など、2020年初頭に中国武漢で猛威を振るったウイルスに比べると感染力も病原性も強くなっているものが出現しており、予断を許さない状況が続いています。

    新型コロナウイルス感染症に打ち勝つため、現在、新型コロナウイルスの感染予防や重症化予防に効果が高いと期待されるワクチンの接種が進んでいます。ワクチンの接種は、新型コロナウイルス感染症対策の中でも最も有効な方法の一つです。

    また、ウイルスは、くしゃみや咳などによる飛沫感染や、ウイルスが付着したドアノブなどを触ることによる接触感染で広がっていきます。
    「三密」という言葉をご存知の方も多いと思います。密閉・密集・密接という3つの「密」を避けること、マスクを正しく着用し、頻繁に手指消毒することは集団感染の防止につながります。

    ※換気の悪い密閉空間・多くの人が密集している場所・互いに手を延ばしたら届く距離で密接に会話をすること

    感染予防対策のポイントをまとめました。以下の3つを心がけましょう。
    • (1)3つの密(密閉・密集・密接)を避け、できるだけ人ごみには行かないようにしましょう。 屋外でも密集・密接には注意が必要です 。
    • (2)正しいマスクの着用を徹底しましょう。家の中でも咳エチケットを心がけましょう。
    • (3)石けんによる手洗いや消毒用アルコールで手指を頻繁に消毒しましょう。

    私たちが日常生活でしっかりと感染予防を行い、賢く行動すれば、ウイルスは猛威を振るうことはできません。
    透析患者さんだけでなく、ご家族も、周囲の皆さんも、新型コロナウイルスから身を守る方法を日々考え、行動していきましょう。

    〔参考文献〕
    厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html

  • 新型コロナウィルスワクチン接種について NEW

    ワクチン接種による効果や副反応について解説します

    透析患者さんは早めのワクチン接種を。
    ワクチン接種は有効な感染予防策の一つ

    現在、新型コロナウイルス感染症対策の一つとして、感染予防や重症化予防に効果が高いと期待されるワクチンの接種が進んでいます。特に、ご高齢の方や透析患者さんなど基礎疾患のある方は、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいことから、ワクチンの優先接種の対象とされています。

    ワクチン接種は、新型コロナウイルスの感染予防策として最も有効な方法の一つです。家族内感染が増加していますので、透析患者さんだけでなく、患者さんと接する機会の多いご家族の方々も積極的にワクチンを接種しましょう。

    ワクチンに新型コロナウイルスの感染予防や重症化予防効果

    新型コロナウイルスのワクチン接種は、日本でも2021年2月から医療従事者を対象に始まり、その後、高齢者や基礎疾患を有する方、一般の方へと進んでおり、今では、12歳以上の全ての方へと広がっています。現状、私たちが接種を受けられるワクチンは、臨床試験などで新型コロナウイルスの感染予防や重症化を予防する効果が確認されています。

    接種後の副反応に十分に注意する必要はありますが、透析患者さんは高齢の方が多く、基礎疾患があるため新型コロナウイルス感染症にかかると重症化しやすいと考えられており、早期のワクチン接種が推奨されています。

    ワクチン接種後の「副反応」とは?

    ワクチンを接種すると、ワクチンから私たちのからだが免疫を獲得する過程でさまざまな反応が起こるため、接種した部位の痛みや発熱、頭痛、倦怠感、関節痛など、さまざまな「副反応」と呼ばれる症状が起こることがあります。

    副反応の多くは、接種当日から2日目までに起こることが多く、ほとんどは数日以内に回復します。1回目の接種時よりも2回目のときの方が多く、比較的若い年代で多いことが知られています。また、非常にまれですが、アナフィラキシーと呼ばれる急性のアレルギー反応が接種から15分以内に起こることがあります。そのため、接種後には15~30分の経過観察が必要とされています。

    透析患者さんがワクチン接種後に発熱したら?

    では、透析患者さんがワクチンを受けた後に熱や痛みが出たら、どうしたらよいのでしょうか?

    発熱でからだがつらいときや頭が痛いときには主治医に相談の上、解熱鎮痛剤を服用するなどして、しばらく様子をみましょう。透析患者さんは服用を避けるべき薬や、注意して服用する必要がある薬がありますので、自己判断での市販薬の服用は避け、副反応が出た際の対応については、ワクチンを接種する前に主治医に相談しておくとよいでしょう。

    透析患者さんは発熱したら、ご自分が通っている透析施設に電話で連絡をしてください。その後は、透析施設から受けた指示通りに通院してください。

    また、ワクチン接種後には、注射をした部位に腫れや痛みが生じることもありますので、透析患者さんは、シャントのある腕を避けて接種するのがお勧めです。なお、2回とも同じ側の腕に接種しても大丈夫です。

    新型コロナウイルス感染症について正しい知識を知り、ワクチンを早めに接種して感染予防・重症化予防をすることで、ご自分も周りのご家族も守ることができます。もし分からないことや疑問などがあれば、かかっている透析施設の医師や看護師に相談してください。

    〔参考文献〕
    厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」
    https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0011.html
    https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0002.html
    https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0006.html

  • 日常生活の中でできる感染予防策 NEW

    透析患者さんにとっての感染予防策や気を付けたいポイントを解説します

    感染リスクが高い透析患者さんだからこそ、
    日常生活の中でできる感染予防策の徹底を

    透析患者さんは、さまざまな要因で免疫力が低下しているため、感染症にかかりやすい状態となっています。そのため、新型コロナウイルスの感染予防策を正しく理解し、しっかりと対策していくことが大切です。

    ここでは、透析患者さんやご家族が、日常生活でできる新型コロナウイルス対策についてまとめました。笑顔でいきいきと毎日を過ごせるよう、しっかりと感染予防策を行っていきましょう。

    予防策の基本は「3つの密を避ける」「マスク着用」「手洗い・消毒」

    まず、感染予防策の基本である、以下の3つのポイントを守りましょう。

    • (1)3つの密(密閉・密集・密接)を避け、できるだけ人ごみには行かないようにしましょう。
      屋外でも密集・密接には注意が必要です
    • (2)正しいマスクの着用を徹底しましょう。家の中でも咳エチケットを心がけましょう
    • (3)石けんによる手洗いや消毒用アルコールで手指を頻繁に消毒しましょう

    ウイルスは、くしゃみや咳などによる飛沫感染や、ウイルスが付着したドアノブなどを触ることによる接触感染で広がっていきます。感染予防策は、密閉・密集・密接という3つの「密」を避けること、マスクを正しく着用し、頻繁に手指消毒することが基本となります。

    ※換気の悪い密閉空間・多くの人が密集している場所・互いに手を延ばしたら届く距離で密接に会話をすること

    室内にいるときは、こまめに換気をすること、人との間隔はできるだけ2メートルは空けること、人ごみを避けることで密閉・密集・密接は避けることができます。

    また、マスクを正しく着用すれば、飛沫距離や飛沫量を抑えられることが分かっています。特に室内で会話をするとき、また、屋外でも人との距離が確保できないときは、マスクを正しく着用するよう気をつけましょう。

    手指に付いたウイルスを石けんと流水で洗い流すことも、感染予防策として重要ですので、こまめに手洗いをしましょう。すぐに手を洗えないときにはアルコール消毒液で消毒することも有効とされています。

    これらのポイントは、新型コロナウイルスだけでなく、インフルエンザなどさまざまな感染症の対策にもなります。透析患者さんご本人だけでなく、ご家族や周囲の皆さん全員で感染対策を徹底しましょう。

    透析患者さんが感染対策で特に気をつけたいポイントは?

    透析患者さんは、免疫力が低下しているだけでなく、透析施設に週2~3回通院が必要であること、多くの患者さんが同じフロアで長時間治療を受けること、更衣室や待合室などの共有スペースを使う機会が多く、通院などで人と接触することも多くなってしまいがちなことなど、さまざまな理由で感染リスクが高まると考えられています。

    新型コロナウイルス対策として、基本の3ポイントに加えて、次の透析患者さんの心得5カ条についても頭においておきましょう。

    • (1)体温は毎日測り、不要不急の外出は控えましょう 。
    • (2)発熱や咳などの風邪症状がある方は、通院する前に必ず透析施設に電話で連絡をして、透析治療をどのように受けたらよいのか相談してください
    • (3)透析施設に来院する手段は透析施設と相談し、指示された時間に来院してください。新型コロナウイルス感染が疑われる場合、公共交通機関は使用しないことが望まれます
    • (4)待合室などでは、患者さん同士の適切な距離間を保ち、マスク無しで会話したり、長時間滞在したりするのは控えましょう 。
    • (5)食事をするとマスクを外す必要がありますので、病院内での飲食は控えましょう 。

    感染症の対処法については、「より良い透析ライフのためのチェックリスト」内にある「『風邪にかかった』そんな時に備えておきたいチェックリスト」 をご覧ください。コロナ対策など、風邪以外の感染症にも有効です。

    透析治療をきちんと受け続けていくためにも、感染症対策は重要です。透析施設の医療従事者も感染対策には細心の注意を払い、徹底して対策を行っています。患者さんもこれらのポイントに気をつけることで、より感染リスクを下げることができます。

    もし分からないことや聞きたいことがあれば、透析施設の医師や医療スタッフに相談してください。

    〔参考文献〕
    厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html