教えて!おしっこに関するQ&A

患者さんのおしっこに関するお悩みに専門家がお答えします。

【執筆・監修】谷口 珠実 先生

(山梨大学大学院総合研究部医学域 健康・生活支援看護学講座 大学院排泄看護学教授)

外出に関するQ&A

海外旅行に行きたいのですが、トイレが近いので慣れない環境や⾧時間の移動に不安があります。海外旅行に行く前に行える対策や、飛行機の中など移動中に気を付けることはありますか?

海外旅行は楽しみですが、トイレが近いと、慣れない観光地ですぐにトイレが見つかるのか、また、電車やバス、飛行機での長時間移動中のトイレ事情も気になりますね。

トイレが気になると水分を摂ることを我慢しがちになりますが、飛行機内での水分制限はエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症など)につながることもありますので、適度な水分摂取を心がけてください。飛行機に乗る前や機内での離陸後・着陸前のトイレに行ける時間帯には、早めにトイレを利用して気持ちの余裕を持つのがよいでしょう。

急に強い尿意を感じることがある(尿意切迫感)、1日に8回以上トイレへ行くなど、日ごろからおしっこの悩みを感じている方は、海外旅行に行くまでに内科や泌尿器科を受診して、原因と対策を確認しておくとよいでしょう。原因によっては、治療やトレーニングなどで症状が改善できることもあります。受診した際に、先生に海外旅行に行くことを伝えて、気をつけることや工夫など、どんな対策があるのか尋ねてみてもよいでしょう。

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海外旅行の前に準備できる対策は?

せっかくの海外旅行を、トイレのことばかりが気になって楽しめなくなるのはとても残念です。旅行に行く前に、できる限りの準備をしてのぞめるとよいでしょう。次に挙げるような対策を参考にしてみてください。

  1. ・日ごろからおしっこの悩みを抱えている方は、早めに内科や泌尿器科を受診して原因と対応を確認してもらいましょう。その際、先生に海外旅行に行くことを伝え、どんな対策ができるのか医師に尋ねてみましょう。
  2. ・お薬を服用している方は、英語で書かれた薬の説明書を準備しておくとよいでしょう。
  3. ・現地の言葉で、「トイレ」の表記を確認しておきましょう。ガイドブックなどでトイレ事情を調べておくのもよいでしょう。
  4. ・念のため、尿漏れパットや着替えなどを携帯すると安心です。

機内では適度な水分摂取を心がけましょう

長時間の移動がある場合、トイレが不安な方はつい水分を摂ることを我慢しがちになります。しかし、飛行機など長時間じっとしている状況で水分を摂らないと、血行不良などでエコノミークラス症候群(深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症など)につながる可能性もありますので、適度な水分補給を心がけましょう。その際、アルコールや利尿作用のあるコーヒーなどは控えるよう気を付けてください。

機内での過ごし方ですが、締め付けの少ないゆったりとした服装をして、足首の運動(図 足首を回す、足首を伸ばす曲げるの運動)や、ふくらはぎ全体のマッサージなどを行うことがお勧めです。気兼ねなくトイレに行けるように、機内ではトイレに近い通路側の席を確保しておくとよいでしょう。

おしっこの悩みがある方は医療機関を受診してみましょう

尿意切迫感や頻尿など、日ごろからおしっこの悩みを感じている方は、旅行前に一度、内科や泌尿器科を受診して、医師に相談してみましょう。おしっこの悩みとその原因は様々ですが、過活動膀胱前立腺肥大症など、お悩みの症状の原因が分かれば、薬による治療やトレーニングなどで症状を改善できることもあります。

受診する前に、おしっこをした時間や量、排尿に関係する日常生活の事柄などを記録する排尿日誌を付けておくと、よりスムーズにおしっこの状態を医師に伝えられます。治療に関するQ&A(排尿日誌)をご参照ください。

家族で旅行に行きたいのですが、トイレが不安で困っています。何かよい方法はありませんか?

楽しいはずの家族旅行が、トイレのことが心配で、旅行に行く前から不安になってしまうのは残念なことですね。トイレが不安という表現には、さまざまな状況が含まれていると思いますが、今回は、「トイレが近くて不安になる」という状況を想定して回答します。

トイレが近い、つまり、トイレに頻回に行くことを「頻尿」と呼びます。この頻尿の原因の一つが「過活動膀胱」です。過活動膀胱とは、突然、強い尿意に襲われて一目散にトイレに向かいたくなる症状(尿意切迫感)がみられ、さらに、何度もトイレに行く頻尿があったり、トイレに間に合わず尿を漏らしまったりすることもある状態のことをいいます。

尿意切迫感を我慢しようとすると、おしっこが漏れてしまいそうな感覚になって、つい慌ててしまいますよね。このような症状は、尿意切迫感を和らげるお薬を使って治療する場合があります。治療が必要かどうか、医療機関を受診して内科や泌尿器科の医師に相談してみましょう。また、肛門と尿道周りの筋肉をギュッと締めて緩める運動(骨盤底筋訓練)も症状の緩和に効果があると言われています。

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過活動膀胱とは?

過活動膀胱の症状は、「過活動膀胱症状スコア(OABSS:Overactive bladder symptom score)」という質問票を用いてチェックすることができます。

※質問票の詳細は、「代表的な疾患についての解説>排尿チェックシート」をご参照ください。

過活動膀胱の治療

排尿チェックシートを用いて、朝起きてから寝るまでの排尿回数、夜寝てから朝起きるまでトイレに起きた回数、尿意切迫感や尿失禁の有無とその程度を把握し、心配であれば早めに医師に相談しましょう。

過活動膀胱の治療は、主に「薬による治療」が行われますが、それとあわせて「膀胱訓練」や「骨盤底筋訓練」などを行うと効果的です。おしっこの状態で困っていることや「旅行に行きたい」という希望など、医師とよく相談し、病気や今後の治療などについて十分に理解して治療に臨みましょう。

過活動膀胱の治療薬には、抗コリン薬、β3アドレナリン受容体作動薬という異なるタイプの薬があります。また、お薬を飲んで症状が和らいだとおっしゃる患者さんがいる一方で、副反応副作用が気になるという方もいらっしゃいます。お薬を使い始めてから何か気になる症状が現れたら、すぐに医師に相談してください。

自分の症状に合った治療法に出会って、早く症状をコントロールできるようになるとよいですね。

※過活動膀胱の治療については、「代表的な疾患についての解説>過活動膀胱(OAB)」をご参照ください。

子供の入学式を間近に控えています。寒い体育館で長時間座っていなければならず、トイレに行きたくならないか心配です。どのような対策がありますか?

寒い体育館で長時間過ごすと思うと、式典に行く前からトイレのことが心配になりますね。この場合の対策の「3ナイ」ポイントは、①体を冷やさないこと、②緊張しすぎないこと、③飲みすぎないことの3つです。しっかり対策して、安心して式典を迎えられるとよいですね。

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①身体を冷やさないために保温を

寒い時期に、寒い場所で長時間じっと座っていれば、当然、体は冷えてしまいます。寒い場所では、まず体が冷えないように保温する必要があります。体温が下がらないようにするためには、外気温の影響を受けないようにすることと、筋肉を少しでも動かして血流を増やし、熱をつくることが大切です。

外気温の影響を受けないようにするためには、肌を露出させず、皮膚が冷たい外気に直接触れないようにします。首、手首、足首を冷やさないように、マフラーを巻いたり、手袋をはめたり、靴下を履いたりしましょう。特に手足が冷えやすいので、保温カイロを靴の中に入れたり、手で握ったりすると手足の冷えの予防になります。

それから、腰回りと腹部が冷えると尿意をもよおしてしまいますので、保温効果の高い下着を着けたり、使い捨てカイロなどを当てて温めたりするとよいでしょう。

また、スカートは裾から足元の冷たい空気が入ってきますので、長めの丈にしたり、スラックスを履いたりして冷たい空気の侵入を防ぎます。暖かい下着で腰回りから臀部、太ももが冷えないように工夫します。長めのブーツを履いて足を保温するのもよいでしょう。

水筒にカフェインレスの温かい飲み物を入れて持ち歩くのもお勧めです。温かい飲み物を少し飲むだけでも体の芯から温まります。カフェインには利尿作用があります。カフェイン入り飲料の飲みすぎは逆効果になってしまうので気を付けましょう。

体温が下がらないようにするためには、体を動かすことも大切です。動かしていないと体はどんどん冷えてしまいますが、逆に筋肉を少しでも動かせば、血流が増えて体は温まります。式典中は動きづらいでしょうが、手を握ったり開いたりを繰り返したり、足首を回したりして、動かせる範囲で構いませんので、手や足首をこまめに動かしましょう。

②リラックスして緊張をほぐしましょう

「この状況でトイレに行きたくなったらどうしよう…」と不安が強いほど、緊張してトイレに行きたくなるものです。そうした悪循環を止めるためにも、式典の前にはトイレを済ませておき、「式典中の1~2時間はトイレに行かなくても大丈夫」と自分に暗示をかけましょう。

それでも、もし式典中に軽い尿意を感じたら、座ったまま、肛門と尿道回りの筋肉をギュッとできるだけ長めに締めて緩める運動(骨盤底筋訓練)を繰り返すと尿意が遠のきます。少し尿意がおさまったら、大きく深呼吸をしてリラックスしましょう。

③適度な水分摂取を心がけましょう

式典が始まる2~3時間前から飲みすぎないように気を付けましょう。喉が渇いたら温かい飲み物を一口ずつ飲めるように、水筒にカフェインレスの温かい飲み物を用意しておけば安心です。

趣味のヨガ中に尿漏れしてしまいました。ヨガやスポーツは症状を悪化させるのでしょうか?

ヨガやスポーツをしているときの尿漏れは、腹圧がかかった時に尿が漏れる「腹圧性尿失禁」だと考えられます。運動すると腹圧がかかるため、尿漏れの症状が一過性に悪化するように感じることがあります。

そのため、「運動は控えたほうがよいのでは?」と考えがちですが、運動しないと筋力は落ちてしまいます。加齢に向かう中でも、体のバランスを保つためには、体を動かす筋肉が大切ですし、運動を控えると基礎代謝が落ちて体重が増えてしまうこともあります。体重が急激に増えたり、肥満になったりすると、骨盤底筋に負担がかかり腹圧性尿失禁は悪化してしまいますので注意が必要です。

全身の筋肉を保ち、体重を増やさないためにも運動は不可欠です。尿漏れ対策をしっかりと行い、運動を続けていきましょう。

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腹圧性尿失禁とは?

尿失禁にはいくつかの原因があります。一つは骨盤底筋の緩みです。運動したり、せきやくしゃみをしたりすると腹圧が上昇します。
腹圧が上がるとお腹の中で膀胱が圧迫されてしまい、膀胱の出口 にある骨盤底筋が緩んでいると、尿道の中に尿が入ってそのまま 尿が漏れてしまいます。膀胱を水の入った風船にたとえると 、出口を押さえている指の力が弱いと水が漏れてしまう現象と 同じことです。

この尿漏れは、中高年の女性に多くみられる症状ですが、若いうちでも、妊娠や出産により骨盤底筋に負荷がかかると尿失禁が生じます。出産後では、骨盤底筋訓練を行うと症状は改善します。ただ、出産後から骨盤底筋は徐々に弱くなり、これに追い打ちをかけるように、加齢に伴う肥満や便秘が加わると再び尿失禁が生じます。

腹圧性尿失禁の改善方法

腹圧性尿失禁を改善するには、まず、急に体重が増えたのであれば、減量して適正体重を維持するようにします。また、弱くなった骨盤底筋は、骨盤底筋を動かす訓練によって筋力を回復させると、腹圧がかかっても尿道の周りをギュッと意図的に締められるようになるため、尿漏れ対策として効果的です。

【簡単にできる骨盤底筋訓練】

骨盤底筋訓練とは、骨盤底筋(肛門と尿道、腟の出口をクルリと円形に取り巻く筋肉)を鍛えて、尿漏れを防ぐトレーニングです。

仰向けになり、身体の力を抜き、肛門・腟・尿道をギュッと締めます。このとき、筋肉を身体の中(お腹側)に引き上げるように意識して動かしてください。その後、骨盤底筋を緩めます。この締めたり緩めたりする動作を、早く(2秒程度)繰り返す、ゆっくり(5~10秒程度)繰り返す、各5回を1セットとして、1日に3~5セットから始めてみましょう。

テレビを見ながらでも簡単にできますので、排尿や食事の後など、運動するタイミングを決めると続けやすいでしょう。また、運動の回数や時間に厳密な決まりはありません。無理なく続けられるように、ご自分の体調やライフスタイルに合った方法を見つけてみましょう。

運動は積極的に行っていただきたいですが、尿漏れは気になるものですね。運動時の尿漏れを減らす方法として、まず、体を動かす直前に排尿して、膀胱を空にしてから運動を始めてみましょう。膀胱に尿が溜まるまでは、腹圧がかかっても尿は漏れませんから、1時間程度は尿漏れを気にせずに運動できるでしょう。

ただし、尿漏れを気にするあまり運動時の水分補給を控えてしまうと脱水になってしまいますから、運動の前に排尿したら適度な水分補給も忘れないよう気をつけてください。