私の体験談

顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。日本では3種類の中では最も患者数が多く、腎臓、肺、神経の症状が現れやすいとされる。

ステロイド薬(副腎皮質ステロイド)とは

体内(副腎)でつくられるステロイドというホルモンを、人工的に合成してつくった薬。炎症や免疫機能を抑える作用があり、さまざまな病気の治療に用いられる。飲み薬、注射薬、軟膏などがあり、作用の強さや作用の持続時間などが異なるさまざまな種類がある。

再燃とは

ANCA関連血管炎においては、一度消失した血管の炎症が再び現れることをいう。

免疫抑制薬とは

免疫機能を抑える作用がある薬の総称。自己免疫疾患の治療などに用いられる。飲み薬や注射薬があり、また、さまざまな種類があって、病気の状態などに応じて使い分けられたり、併用されたりする。

このコーナーでは、ANCA関連血管炎の患者さんの体験談を紹介しています。
発症当時の様子や治療のこと、日常生活のこと、病気や治療に対する思いなどを語っていただきました。

  • 体験談1

    佐藤さん(仮名)
    60代 男性
    病名:顕微鏡的多発血管炎

難病支援相談センターに相談し、より専門的な病院へ---思い切って転院を決意。専門的な治療で症状が緩和しました。

「風邪とは違う」。微熱とともに全身に強い痛みが

>発症したのはいつですか。

ちょうど50歳を過ぎたころでした。当時私は、大工として勤務していた工務店を退職し、独立開業に向けて準備を進めていました。妻と大学生・高校生合わせて3人の子供がおり、忙しいながらも充実した毎日を過ごしていました。
そのようなころ、37度台の微熱が出て、全身の筋肉と関節が痛くなりました。食欲も低下し、体重も一気に減りました。そこで近所の診療所を受診したところ、「風邪症状とは違う」とのことで、血液検査を受けることになりました。結果が出るまでの間、処方された鎮痛薬を飲んでいましたが、効果が切れると全身が強烈な痛みに襲われる状態で、微熱も続いていました。

>その後、どのような経緯でANCA関連血管炎の診断に至ったのですか。

2度の血液検査の後、総合病院を紹介されました。数日おきに数回受診すると、「顕微鏡的多発血管炎の疑いがある」とのことで入院することになりました。入院後すぐに、腎臓の組織を取り出す検査(腎生検)や、全身の画像検査、血液検査などを受け、1週間後に「顕微鏡的多発血管炎」と診断されました。最初に症状が現れてから約1カ月後のことです。

>体調はどのように変化していきましたか。

微熱は変わりませんでしたが、全身の痛みが日増しにひどくなり、診断がつくころには、自力で起き上がることができず、食事も摂れませんでした。鎮痛薬の効果が切れると全身に激痛が走り、眠っていても目が覚めるといった状態でした。
治療はしていたのですが、症状の悪化スピードが速く、診断から3週間経ったころから、両手で頭を抱えるほどのひどい頭痛が起こるようになり、その後も長く悩まされました。さらに1カ月経ったころから、神経障害に苦しむようになりました。最初は両足に症状が現れて、立ち上がることもできなくなりました。その2カ月後にはのどにも症状が現れ、食べ物や唾液が飲み込めなくなり、声も出せなくなりました。

>精神的にも辛かったのではないですか。

頭痛などに苦しめられて眠ることもできず、毎日ベッドの上でうずくまりながら、これ以上何か起きたらどうなってしまうのか、これからどう生活したらいいのか、などと考えていました。あのころは、痛みと不安と絶望感から途方に暮れていました。

転機となった専門的な診療を行っている病院への転院

>その後、どのようにして回復したのですか。

あまりにも症状が辛かったため、何かほかに手立てはないのかと、地域の「難病相談支援センター」※に相談したところ、ANCA関連血管炎の専門的な診療を行っている病院を紹介してくれました。家族が事前にその病院を訪問し、私の病気について相談してくれました。そして、入院から5カ月後、その病院に転院することになりました。

※難病のある人の療養生活に関する相談について、情報提供や助言などの支援を行う施設。全ての都道府県・政令指定都市に設置されている。

転院後、お薬の変更・追加があり、まず、のどの神経障害が回復して声が出るようになり、食事もできるようになりました。また、肺などの臓器の障害をそれぞれ治療していき、その後、ステロイド薬を少しずつ減らしていきました。両足の神経障害も、治療とリハビリを続けたことで、物に掴まって歩けるまでに回復しました。そして、転院してから約3カ月後に退院することができました。

>退院後の経過は順調でしたか。

最初の1~2年間は、再燃によって数週間入院することが何度かありましたが、免疫抑制薬の点滴治療を受けるようになって、症状が落ち着きました。退院後も頭痛には長い間悩まされましたが、根気強く治療を続けた結果、症状を治めることができました。そして、病気を発症してから約5年後に、ようやく安定した状態を保てるようになりました。
長い道のりでしたが、病院の先生方や難病相談支援センターの方々、支えてくれた家族には本当に感謝しています。

発症から12年、同じ病気に苦しむ人たちのために

>現在はどのような治療を受けていますか。

毎日、ステロイド薬と免疫抑制薬を服用し、4週間ごとに通院しています。また、6カ月ごとに免疫抑制薬の点滴投与を受けています。

>日常生活で気をつけていることはありますか。

リハビリを続けて自力歩行ができるようなってから、歩ける状態を維持できるように心がけています。まだ神経障害が残っており、以前のように活発に動き回ることはできませんが、適度にからだを動かすようにしています。
また、食事は塩分を摂り過ぎないように注意し、量は少なめでも必要な栄養をきちんと摂るように気をつけています。

>体調が改善した現在の生活で、楽しみにしていることや、やりがいを感じていることは何ですか。

病気になってから二人乗りの車を購入したのですが、私の運転で妻と一緒に近くの観光道路をよくドライブしています。今年の2月には、沖縄旅行にも行きました。主治医の先生も、旅行できるまでに状態が回復したことをとても喜んでくださいました。

また、難病情報支援センターの研修を受けて「難病ピア・サポーター」に登録し、同じ病気に苦しむ人たちを支援する活動も行っています。私自身の経験を活かして、患者さんの気持ちを理解し、共感して寄り添っていきたいと思っています。

>最後に、ANCA関連血管炎と診断され、これから治療を始める方や現在治療中の方に、メッセージをお願いします。

この病気を発症してから12年が経ちますが、振り返ると、やはり早期から専門的に診療を行っている病院を受診することが大切だと感じます。現在は治療薬も増え、治療の選択肢も増えていると思うので、専門の医師のもとで、適切な診断・治療を受けていただきたいです。
また、困ったことがあれば、難病相談支援センターへ相談することをお勧めします。センターでは、病気のこと以外にも、日常生活や就労支援などさまざまな相談に乗ってくれます。ぜひ、お住まいの地域のセンターに相談してみてください。

※各都道府県・指定都市の難病相談支援センターについては、「難病情報センター」サイトの「都道府県・指定都市関係機関」からお調べください。