ANCA関連血管炎を考える
ANCA関連血管炎の治療

ANCA関連血管炎の治療

治療の目標

ANCA(アンカ)関連血管炎は治療が可能な病気です。しかしながら、現在の医学では「完治」を目指すのはむずかしく、血管の炎症を消失させる「寛解:かんかい」の達成と、その維持(「寛解維持:かんかいいじ」)が治療の目標となります。

完治とは

病気が完全に治ること。症状やその原因となっている異常がなくなり、病気になる前の状態にもどること。

治療の方法

ANCA関連血管炎の治療は、お薬での治療が中心となります。
ANCA関連血管炎の要因となっているANCAは、免疫の役割を果たす“仲間”であるはずの好中球を標的にしてしまう異常な抗体(自己抗体)です。ANCAに標的とされた好中球は血管を攻撃してしまうようになり、血管炎の症状が起こります。このように、ANCA関連血管炎には、免疫機能の異常が大きくかかわっています。そのため、免疫機能の異常な活性化を抑える作用のあるお薬を用いて症状をおさめます。

免疫とは

体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する、人間の体に備わっている防御機能のこと。好中球や抗体は、免疫において重要な役割を果たす。

好中球とは

免疫の役割を果たす白血球の一種。白血球の中で一番多く、侵入した異物をいち早く攻撃する役割がある。

抗体とは

免疫の役割を果たすタンパク質で、「免疫グロブリン」とも呼ばれる。抗体はそれぞれ標的とする異物が決まっており、特定の異物の目印(抗原)にのみに結合し、体から排除するように働く。

ANCA関連血管炎と診断されると、最初の数カ月間は、血管の炎症を抑える治療を行います(寛解導入療法)。その後、血管の炎症がほとんどない状態(寛解)になったら、再び炎症が現れること(再燃)を防ぎ、落ち着いた状態を保つ治療を続けます(寛解維持療法)。

寛解導入療法

寛解導入療法の方法は、症状の程度に合わせて決定しますが、多くの場合、入院して治療することになります。お薬は、おもにステロイド薬と免疫抑制薬が用いられます。

<ステロイド薬(副腎皮質ステロイド)>

ほとんどの患者さんの治療で使われるお薬です。免疫機能を抑える作用や炎症を抑える作用があります。副作用としては、感染症、糖尿病、骨粗しょう症などがあります。

<免疫抑制薬>

免疫機能を抑える作用があり、ステロイド薬といっしょに使われることの多いお薬です。飲み薬や注射のお薬があり、副作用としては、感染症などがあります。

<静注用ヒト免疫グロブリン製剤>

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう)※で、手足のしびれや痛みなどの神経障がいが改善されない場合に、点滴で使用します。

<選択的C5a受容体拮抗薬>

顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん)※、および、多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう)※の治療で用いられる飲み薬です。

※ANCA関連血管炎には、顕微鏡的多発血管炎多発血管炎性肉芽腫症好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の3種類があります。

顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。日本では3種類の中では最も患者数が多く、腎臓、肺、神経の症状が現れやすいとされる。

多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:GPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。①目・鼻・耳・のど ②肺 ③腎臓 に症状が現れることが多く、鞍鼻(あんび)という特徴的な症状が現れることもある。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:EGPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。気管支喘息や難治性の鼻炎・副鼻腔炎を有する患者さんで、好酸球が増加したあとに続いて起こることが多く、神経や皮膚、消化器、心臓、肺に症状が現れやすいとされる。

寛解維持療法

寛解導入療法によって血管の炎症がほとんど無い状態(寛解)になると、寛解維持療法に切り替えられます。寛解維持療法では、少ない量のステロイド薬や免疫抑制薬の飲み薬が用いられます。 顕微鏡的多発血管炎、および、多発血管炎性肉芽腫症では選択的C5a受容体拮抗薬も飲み薬として用いられることがあります。

※病気の種類や重要度により治療内容は変わります。

治療に伴う注意点

自己判断による服薬中断は絶対にやめましょう

ANCA関連血管炎は、きちんと治療を続けることが大切です。症状がなくなっても、自己判断で服薬を中断するのは絶対にやめましょう。再び血管炎の症状が現れて(再燃)、寛解導入療法がもう一度必要になることもありますし、ステロイド薬の急な中断によって体調を大きく崩すこともあります。
また、お薬が体に合わないと思った場合も、自己判断で中断せず、必ず医師・薬剤師に相談しましょう。

血管炎とは

血管に炎症が起こっている状態。血管が破れたり、つまったりする。

感染予防を心がけましょう

ANCA関連血管炎の患者さんは、治療薬の影響により、感染症にかかりやすく、また、重症化しやすくなる場合があります。
そのため、十分な感染症対策を行うことが大切です。手洗い・うがい、人混みでのマスク着用などをつねに心がけましょう。また、医師の指示に従って、感染症予防薬の服用・吸入やワクチン接種を行いましょう。

また、寛解維持には、ストレスをためず、規則正しい生活を送り、適度な運動を行うなどして、つねに心と体を良い状態に保つことも大切です。

医療費助成制度について

厚生労働省により、ANCA関連血管炎は指定難病とされており、ある一定以上の症状がある患者さんは、医療費助成制度の対象となります。
医療費の助成が認められた場合、ANCA関連血管炎の診療にかかる医療費の自己負担額に上限が設けられます。上限額は、患者さんの世帯収入などによって月額0 ~ 30,000円の間で定められます(2022年5月現在)。
医療費助成を申請する場合は、主治医に相談の上、お住まいの都道府県・指定都市の窓口に問い合わせてみてください。

指定難病とは

「難病の患者に対する医療等に関する法律」に定められる基準(原因不明で治療方法が確立していない、患者数が少ない、長期の療養を必要とする など)に基づいて国が指定した病気。指定難病は、医療費助成制度の対象とされる。

医療費助成制度とは

指定難病に含まれる疾患と診断され、病状が一定程度以上で、医療費の自己負担が定められた上限額を超えている場合、超過分を公的に支給する制度。

詳細は、難病情報センターホームページ内の「医療費助成制度」をご確認ください。