ANCA関連血管炎を考える
ANCA関連血管炎の診断

ANCA関連血管炎の診断

ANCA(アンカ)関連血管炎は、早期診断がとても重要です。病気の早い段階で診断され、治療を開始することがその後の経過にもかかわるためです。しかし、ANCA関連血管炎を早期診断することは簡単ではありません。

ANCA関連血管炎は、まれな病気で、症状もさまざま

ANCA関連血管炎の患者さんは、確認されているだけで国内に約20,000人(6,000~7,000人に1人)いるとされています。同じように免疫の異常によって起こる関節リウマチの患者さんは、国内に約80万人いるといわれています。比べてみると、ANCA関連血管炎はとても患者さんの数が少ない、まれな病気であることが分かります。

免疫とは

体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する、人間の体に備わっている防御機能のこと。好中球や抗体は、免疫において重要な役割を果たす。

関節リウマチとは

免疫の異常により、関節に炎症が起こり、痛みや腫れが生じる病気。進行すると、関節が変形したり、うまく動かなくなったりする。

〔参考〕
難病情報センターホームページ(2023年4月現在)「令和3年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数」から引用
Nakajima A, Sakai R, Inoue E, Harigai M, et al. Int J Rheum Dis. 2020;23:1676-1684.

また、ANCA関連血管炎にはさまざまな症状があり、人によって現れる症状が異なります。その上、それらの症状は、風邪などの感染症や、関節リウマチ、他の血管炎などの症状とも似ています。

このように、まれな病気であることに加え、症状からも病気を特定しにくいため、ANCA関連血管炎を早い段階で見つけ、診断することは大変むずかしいとされています。実際、ある調査の結果では、ANCA関連血管炎の患者さんの約半数は、診断が確定するまでに3カ所以上の病院を受診していました。

〔参考〕
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)
難治性血管炎に関する調査研究班 有村義宏、難治性腎疾患に関する調査研究班 丸山彰一、
びまん性肺疾患に関する調査研究班 本間栄
「ANCA関連血管炎診療ガイドライン2017」、35、診断と治療社、2017年

ただし、近年は、血液中のANCAを測定することで、ANCA関連血管炎を早い段階で診断できるようになってきました。ANCAは、白血球の一種である好中球に結合する、この病気に特徴的な自己抗体です。ANCA関連血管炎であれば、多くの場合、血液検査でANCAが陽性になります。

ANCAとは

もともと体内にある自分自身の好中球を標的にしてしまう「抗好中球細胞質抗体」という異常な抗体。

好中球とは

免疫の役割を果たす白血球の一種。白血球の中で一番多く、侵入した異物をいち早く攻撃する役割がある。

自己抗体とは

自分の体の特定の細胞や組織に結合し、免疫反応を誘導する異常な抗体。自己抗体には多くの種類があり、自己免疫疾患の診断や病気の勢いの評価にも活用される。

ANCA関連血管炎には、顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA)、多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:GPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:EGPA)の3種類があります。ANCAにもいくつかの種類があり、検査ではMPO-ANCAとPR3-ANCAという2種類について調べます。この2つのどちらが陽性かによって、ANCA関連血管炎の種類を推測することができます。

顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。日本では3種類の中では最も患者数が多く、腎臓、肺、神経の症状が現れやすいとされる。

多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:GPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。①目・鼻・耳・のど ②肺 ③腎臓 に症状が現れることが多く、鞍鼻(あんび)という特徴的な症状が現れることもある。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:EGPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。気管支喘息や難治性の鼻炎・副鼻腔炎を有する患者さんで、好酸球が増加したあとに続いて起こることが多く、神経や皮膚、消化器、心臓、肺に症状が現れやすいとされる。

MPO-ANCA MPA、EGPAで陽性になることが多い
PR3-ANCA GPAで陽性になることが多い

ANCA関連血管炎の主な症状があり、他の病気と診断されていない場合は、一度主治医にANCAの測定について相談してみることをお勧めします。

検査結果や症状を総合的に判断して診断

ANCAの測定は、ANCA関連血管炎を診断するために必ず行いますが、それだけで診断が確定できるものではありません。MPO-ANCAやPR3-ANCAが陰性でも、症状やその他の検査結果などからANCA関連血管炎とわかる場合もありますし、逆にANCAが陽性となる他の病気もあります。
そのため、ANCA関連血管炎の診断は、症状や検査結果を総合的に判断して行われます。
ANCA関連血管炎の診断のためには、主に以下のような検査を行います。

血液検査

ANCA以外に、次のような項目も調べます。

白血球数(WBC) ANCA関連血管炎では、多くの場合で値が高くなります

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)では、白血球の一種である好酸球が著しく増加します
C反応性蛋白(CRP) 体の中に炎症がある場合、値が高くなります
血中尿素窒素(BUN)
血清クレアチニン(Cr)
腎臓の機能が低下していると、これらの値が高くなります

※検査項目(一部)

尿検査

腎臓は、血液から余分な水分や老廃物をろ過して尿をつくる臓器です。ANCA関連血管炎によって腎臓が傷つけられると、正常時には尿中に出てこない血液中の成分が尿に漏れ出すことがあります。そのため、尿検査によって腎臓の障がいの有無を調べます。

尿潜血 尿の中に赤血球が漏れ出していないか調べます
尿蛋白 尿の中に血液中のタンパク質が漏れ出していないか調べます
尿沈渣 尿中の沈殿物を顕微鏡で確認します

※検査項目(一部)

画像検査

ANCA関連血管炎では、眼や鼻、耳、肺などにも症状が現れることがあります。X線検査やCT検査などで、その症状が起きている部位や、検査値異常の原因となっている部位の状態をくわしく調べます。

生検

生検とは、腎臓、皮膚、肺、神経、筋肉などの異常がみられる部位の一部を針などで採取して、顕微鏡でくわしく調べる検査のことで、画像検査と組み合わせることで正確に病気を診断することができます。
生検は、ANCA関連血管炎の診断を確定するためには大変重要な検査です。

これら以外にも、心電図などで心臓の機能を調べたり、神経の機能を調べたりなど、症状に応じてさまざまな検査が行われます。