ANCA関連血管炎を考える
ANCA関連血管炎の予後(治療経過)

ANCA関連血管炎の予後(治療経過)

多くの場合、炎症を落ち着かせることが可能

ANCA(アンカ)関連血管炎は、現在の医学では完全に治すことがむずかしく、治療が行われないと生命に危険がおよぶ病気です。しかし、早期に適切な治療を行えば、多くの場合、血管の炎症が落ち着いた状態(寛解:かんかい)にすることができます。ある調査では、およそ9割の患者さんが治療開始から約半年(200日)以内に寛解に至っていました。

〔参考〕
厚生労働科学研究費補助金・難治性疾患政策研究事業
難治性血管炎の医療水準・QOLに資する研究
「血管炎について ~ANCA関連血管炎を中心に~」

ただし、治療開始が遅れたり、治療が効きにくかったりした場合などは、以下のような障がいが残ることもあります。

腎臓の機能障がい

腎臓の機能が低下すると、尿として排泄されるはずの余分な水分や老廃物が体の中に溜まりやすくなります。機能が低下していくと、むくみや高血圧、頭痛、吐き気、疲労感などが現れ、重度の機能障がいの場合、透析治療※などが必要になる場合もあります。

※ 低下した腎臓の機能を補うため、人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除き、血液をきれいにする治療法です。週2~3回程度通院し、1回あたり4〜5時間程度の治療を行う「血液透析」と、患者さん自身でお腹の中に入れた透析液を1日4回程度交換して行う「腹膜透析」の二つの方法があります。

肺の機能障がい

肺の機能が低下すると、日常動作で息切れや頭痛がしたり、ひどいときは意識がもうろうとしたりします。自宅での酸素吸入が必要になる場合もあります。

手足の神経障がい

手足にピリピリする痛みや、ジンジンするしびれが残る場合があります。痛みや力が十分入らないことで歩行に支障をきたすこともあります。

視力障がい

視力が低下したままもどらない場合があります。

鞍鼻(あんび)

ANCA関連血管炎のうち、多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう)※では、「鞍鼻」といって、鼻すじの途中がくぼんだように変形したまま元にもどらない場合があります。

※ANCA関連血管炎には、顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん)、多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう)の3種類があります。

顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。日本では3種類の中では最も患者数が多く、腎臓、肺、神経の症状が現れやすいとされる。

多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:GPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。①目・鼻・耳・のど ②肺 ③腎臓 に症状が現れることが多く、鞍鼻(あんび)という特徴的な症状が現れることもある。

好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:EGPA)とは

3種類あるANCA関連血管炎のうちの一つ。気管支喘息や難治性の鼻炎・副鼻腔炎を有する患者さんで、好酸球が増加したあとに続いて起こることが多く、神経や皮膚、消化器、心臓、肺に症状が現れやすいとされる。

ANCA関連血管炎は、治療開始時期によって、その後の治療経過も大きく変わります。そのため、早めに受診して、専門医による診断を受け、早い段階で治療を開始することがとても重要です。
もし、ANCA関連血管炎でみられる症状があり、その症状の原因がよく分かっていないようであれば、一度主治医にANCA関連血管炎の可能性について相談することをお勧めします。

寛解に至った後も、一般的には治療を続ける必要がある

血管炎の症状が落ち着いていても、ANCA関連血管炎自体が治ったわけではありません。症状がおさまったからといって治療をやめてしまうと、再び血管炎の症状が現れる(再燃:さいねん)ようになります。そのため、多くの場合は、再燃を防ぐために治療薬の服用を続ける必要があります。

血管炎とは

血管に炎症が起こっている状態。血管が破れたり、つまったりする。

ただし、治療薬の服用を続けていても再燃してしまう場合もあります。再燃したときは、効果の強いお薬を使うなどして血管の炎症を落ち着かせますが、再燃を繰り返していると、腎臓、肺、神経などの障がいが進んでしまう場合もあります。

2015年に発表された日本の論文では、ANCA関連血管炎の2年生存率について以下のように報告されています。

  • 顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA):81%
  • 多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:GPA):94%

〔参考〕
Sada K, et al, Arthritis Res Ther. 2015 Nov 2;17:305.

また、海外の複数の調査結果をまとめた2008年の論文では、ANCA関連血管炎の5年生存率について以下のように報告されています。

  • 顕微鏡的多発血管炎(けんびきょうてきたはつけっかんえん:MPA):45~76%
  • 多発血管炎性肉芽腫症(たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:GPA):69~91%
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(こうさんきゅうせいたはつけっかんえんせいにくげしゅしょう:EGPA):60~97%

〔参考〕
Mukhtyar C, et al, Ann Rheum Dis 2008;67:1004-1010.

ただし、ANCA関連血管炎の生存率は、これまでも新しい治療薬の開発などによって時代とともに改善されてきた背景があり、今後もさらなる改善が期待されています。

病気とうまく付き合っていくために

ANCA関連血管炎の治療を始めたら、血管の炎症が落ち着いた状態(寛解)をできるだけ長く保つことが大切です。まずは、定期的に通院し、しっかりと服薬することを心がけましょう。お薬が体に合わないと感じたら、自己判断で服薬を中止せず、必ず医師・薬剤師に相談しましょう。

ステロイド薬を長期間服用することが多いので、ステロイド薬の副作用のチェックと予防についても、医師に相談しましょう。

ステロイド薬(副腎皮質ステロイド)とは

体内(副腎)でつくられるステロイドというホルモンを、人工的に合成してつくった薬。炎症や免疫機能を抑える作用があり、さまざまな病気の治療に用いられる。飲み薬、注射薬、軟膏などがあり、作用の強さや作用の持続時間などが異なるさまざまな種類がある。

また、ANCA関連血管炎の治療は免疫機能を抑えるため、感染症にかかりやすくなる場合があります。手洗い・うがい、マスクの着用、ワクチン接種などの基本的な感染症対策が有効です。

免疫とは

体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する、人間の体に備わっている防御機能のこと。好中球や抗体は、免疫において重要な役割を果たす。

医学は日々進歩しています。ANCA関連血管炎についても、近年は多くのことが分かってきており、治療法も大きく進歩してきています。皆さん一人ひとりが、正しく病気を知り、病気と上手につきあうことで寛解維持できれば、健康な人とほとんど変わらない生活を送ることも可能です。
まずは病気についての正しい知識をもち、前向きに治療に取り組みましょう。