専門家に聞く

蛋白尿(たんぱくにょう)とは

腎臓の血管が傷つき、血液中のタンパク質が尿中に漏れ出す状態。尿の見た目は変わらないため、尿検査によって見つかる。

血尿とは

腎臓の血管などが傷つき、尿に血が混じる状態。初期の段階では尿の見た目は変わらないため、尿検査によって見つかる。出血量が多い場合は、尿が赤っぽくなる。

透析とは

低下した腎臓の機能を補うため、人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除き、血液をきれいにする治療法。週2~3回程度通院し、1回あたり4〜5時間程度の治療を行う「血液透析」と、患者さん自身でお腹の中に入れた透析液を1日4回程度交換して行う「腹膜透析」の二つの方法がある。

ANCA(アンカ)とは

「抗好中球細胞質抗体」という異常な抗体。英語の“Anti-Neutrophil Cytoplasmic Antibody”を略して「ANCA(アンカ)」とよばれる。正常な抗体は、体内に侵入した異物を標的として排除するように働くが、ANCAは、もともと体内にある自分自身の好中球を標的にしてしまう。ANCA関連血管炎であれば、多くの場合、血液検査でANCAが陽性になる。

クレアチニン(CRE、Cre、Cr)とは

筋肉を動かすエネルギーを使うと体内に発生する物質。通常、腎臓でろ過されて尿として排出されるため、血液中のクレアチニン値が高いときは、腎臓の働きが悪くなっている可能性がある。正常値は、男性1.2mg/dl以下、女性1.0mg/dl以下(施設により多少の違いあり)。

血管炎とは

血管に炎症が起こっている状態。血管がふくらんだり、狭まったりする。ときには破れたり、つまったりすることもある。発熱や疲労などの全身症状や、一つあるいは複数の臓器に障がいが起こり、それらに応じた症状がみられることがある。

専門家インタビュー Vol.1 後編 腎臓専門医に聞く「ANCA関連血管炎」 病気を早く見つけるためにできること

専門家インタビューVol.1 前編に続き、長年ANCA関連血管炎の診療に携わり、多くの患者さんを診てこられた廣村桂樹先生に、病気を早い段階で見つけるためのポイントについてお聞きしました。

廣村 桂樹 先生

群馬大学大学院医学系研究科 内科学講座
腎臓・リウマチ内科学分野 教授
群馬大学医学部附属病院 内科診療センター長

ANCAを測定すれば大半は診断可能

ANCA関連血管炎は、どのようなきっかけから見つかるのでしょうか。

当科は腎臓の病気が専門なので、腎臓の症状がきっかけで紹介されて診断に至る場合が多いです。健診などで蛋白尿(たんぱくにょう)や血尿が指摘され、近隣の病院に通院しているうちに、急速に腎臓の機能が悪くなり、普通の病気ではないということで当科に紹介されたりします。その間、他にはほとんど症状がないこともありますが、発熱や倦怠感といった風邪と同じような症状が続く場合もあります。また、中耳炎がなかなか治らなかったり、咳や息切れが続いたりといったことがきっかけで、調べていくうちにANCA関連血管炎であることが分かる場合もあります。

ANCA関連血管炎を早い段階で見つけることは、その後の治療に影響しますか。

ANCA関連血管炎の治療では、血管炎が起きている臓器の機能を維持することが重要です。臓器障害が進む前の早い段階でANCA関連血管炎であると診断し、治療を開始することが大切です。腎臓に関していえば、将来透析の必要がないレベルの機能を保つことが目標であり、早く診断をつけて適切な治療を行うことで、腎機能低下を防ぐことができます。
また、診断がついて症状の原因が分かることで、多くの患者さんは不安が軽減され、治療に前向きに取り組めるようになります。そのような意味でも、早期診断は大切です。

どうしたら早い段階で診断できるのでしょうか。

ANCA関連血管炎は、多くの場合、血液中のANCAを測定すると陽性になります。よって、できるだけ早い段階で血液中のANCAを測定することが早期診断につながります。ただし、一般の血液検査でANCAが測定されることはなく、ANCA関連血管炎が疑われたときに、初めてANCAの測定が行われます。

どのようなときにANCA関連血管炎が疑われるのでしょうか。

ANCA関連血管炎は、全身の細い血管が傷つけられるため、さまざまな症状が出現し、血管炎のタイプによっても現れる症状は異なります。また、風邪などの他の病気と症状が似ている上に、非常にまれな病気であるため、初期段階でANCA関連血管炎を疑うことは、簡単ではありません。通常の風邪であれば1週間以内に改善しますが、長引く場合は、考えるべき疾患の1つとなります。特に蛋白尿や血尿を伴って風邪の症状が持続する場合には注意が必要です。さらに数週から数カ月で腎機能が低下する場合は強く疑われます。

腎臓の症状をチェックしよう

腎臓の症状とは、具体的にどのようなものでしょうか。

蛋白尿や血尿、血清クレアチニンの上昇といったものがあります。ただし、これらの症状は、基本的に検査によって分かるものなので、定期的な健診が重要となります。また、検査値に異常があった場合には、こまめに検査をして悪化の速度を確認する必要があります。
腎臓の状態は、血液検査で分かるeGFRという指標で確認すると良いです。eGFRは、腎臓がどのくらいの量の血液をろ過しているのかを示す数値で、血液検査で測定する血清クレアチニンの値と年齢、性別から算出されます。健康な若い人は100 mL/分/1.73m²前後で、腎臓が悪くなるにしたがって低下していきます。検査結果にeGFRが書かれていない場合は、血清クレアチニン値などを入力すれば自動計算してくれるウェブサイトもたくさんあるので、ご自身で算出してみると良いでしょう。eGFRが数カ月続けて低下している場合は、医師にANCAの測定を相談してみても良いかもしれません。
eGFRの低下傾向がなくても、60mL/分/1.73m²未満の状態が続く場合は、慢性腎臓病の診断となります。かかりつけの医師に相談したり、腎臓内科を受診したりすることをお勧めします。

eGFRの急激な低下が、ANCA関連血管炎を疑う一つの目安になるのですね。

そうですね。加えて、血液検査のCRPや白血球数の数値が高い場合は、ANCA関連血管炎の疑いが強まります。eGFRは腎炎などの他の病気でも低下しますが、CRPや白血球数は血管炎などの炎症があるときに高くなり、腎炎では通常高くなりません。eGFRの低下傾向があって、かつ、CRPや白血球数が高く、炎症の原因となる他の病気(感染症など)がない場合は、ANCAの測定、もしくは腎臓内科への紹介を医師に相談しても良いと思います。

取材実施日:2022年10月13日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです
(インターネットを利用したリモート取材)