私の透析体験談
このコーナーでは、仕事や趣味などを通じて充実した毎日を過ごされている透析患者さんにご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

私の透析体験談 Vol.3
透析は社会復帰のための手段
「無理なく、病気に甘えず」をモットーに、夢の実現を目指します。

宿野部 武志(しゅくのべ たけし)さん(49)血液透析歴30年 写真
宿野部武志さんが血液透析を始められたのは18歳のときのこと。
以来、透析を受けながら大学を卒業し、大手電気メーカーに就職。
その後、患者としての体験を生かして多くの患者をサポートしたいという思いから社会福祉士の資格を取得し、腎臓病や透析の患者さんを支援する会社を起業されました。

「仕事が楽しくてしょうがない」とおっしゃる宿野部さんに、ご自身の長い透析生活の経験を踏まえて、透析を受けながらも充実した生活を送るためのアドバイスをいただきました。

宿野部 武志(しゅくのべ たけし)さん(49)
血液透析歴 30年

宿野部武志さんが血液透析を始められたのは18歳のときのこと。
以来、透析を受けながら大学を卒業し、大手電気メーカーに就職。
その後、患者としての体験を生かして多くの患者をサポートしたいという思いから社会福祉士の資格を取得し、腎臓病や透析の患者さんを支援する会社を起業されました。

「仕事が楽しくてしょうがない」とおっしゃる宿野部さんに、ご自身の長い透析生活の経験を踏まえて、透析を受けながらも充実した生活を送るためのアドバイスをいただきました。
透析は夢の実現に必要な社会復帰のための手段
宿野部 武志(しゅくのべ たけし)さん(49)血液透析歴30年 写真1

――
透析を導入されたのは18歳のときだったとお伺いしていますが、導入時には心の準備はできていたのでしょうか。
私は3歳のときに慢性腎炎と診断され、小さい頃から「将来、透析が必要になるかもしれない」と知らされていました。けれども、18歳で透析を始めるまで病気のことは怖くて調べたりはしませんでした。点滴をするぐらいにしか思っていなかったので、実際に透析を始めてとてもショックを受けました。
――
多くの患者さんは急に透析が必要になり、最初は戸惑われるとお聞きしています。
「透析が必要と言われてしまったのですが、どうしたらいいですか」といった相談をよく受けます。「透析になったら、人生終わりだ」と考えている方も多いです。確かに、血液透析を受けるのにベッドに週3回、4~5時間拘束されるなど時間的な制約も生じますが、通院しながらでも元気に仕事や好きなことを続けられます。ですから、「透析を始めてもやりたいことを諦めることはありません。透析は夢の実現に必要な社会復帰のための手段と考えてはどうでしょうか」とお話ししています。
――
若い頃から透析を始められた患者さんにはどのようなお話をされていますか?
透析治療は患者にとって大きな重荷であることは確かです。ただ、透析をしっかりと受けていれば社会参加もできますし、やりたいことにも挑戦できるんです。
私は、透析中の時間は「誰にも邪魔されないプライベートな時間」だと考えています。読書や勉強に集中できますし、逆にリラックスして過ごす空間にもできるんです。透析をしていなかったらこんな時間は持てなかったかもしれません。けれども、1人だとこうした考えに至りにくいんですね。ですから、そこをサポートできるようになれればいいなと思っています。
趣味や自分なりの楽しみに目を向けることも大切
奥様とのご旅行で浜辺にてツーショット
奥様とのご旅行で浜辺にてツーショット
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透析導入後には気分が落ち込んでしまう方もいらっしゃるそうですね。
そうですね。透析のことが頭から離れず、透析した翌日になると「明日もまた透析か・・・」と重荷に感じてしまう方も多いようです。私は、そういった方には必ず、「透析のために生きているのではないですよ」とお伝えしています。
透析のことばかりを考えるのではなく、仕事などにやり甲斐を見出したり、趣味や自分なりのちょっとした楽しみを見つけられると、そのために「透析もちょっと頑張ってみようかな」と前向きになれる、そんな良い循環がつくれるといいと思います。
――
透析患者さんに限らず、夢や生きがいを見つけるのは人生に重要な要素ですね。
その通りです。会社を辞めて社会福祉協議会で働いているときにボランティアコーディネーターもしていたのですが、ご高齢の方から「何をしたらいいか分からない」という相談をよく受けました。
そうしたときには、その方の長い人生を振り返る「人生の棚卸」をお手伝いしていました。生まれてから今日までの経験の中には必ず「自分が喜びを感じたタイミングや幸せを感じたとき」があって、それを一緒に探っていくんです。たとえばそれが音楽だったら、歌を歌うボランティアに誘ったりします。それをきっかけに楽しみや趣味を見つけていただけることもありました。
この「人生の棚卸」は1人ではできない場合もありますから、やはりそういったところをサポートできる人がいるといいと思っていて、今の仕事にもつながっています。
職場では「困ったときはお互い様」の雰囲気づくりを心がける
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血液透析を受けながら会社勤めを14年間続けられたそうですが、治療とお仕事の両立は大変だったのではないでしょうか。
夜間透析を受けるために週2日は17時に退社しなければなりませんでした。そうはいっても、責任のある仕事や部下を持つようになるといつも17時きっかりに退社というわけにはいかず、そこは自分なりに時間をコントロールするよう努めました。同時に、他の仲間もそれぞれ事情を抱えていますから、困ったときにはお互い助け合えるように普段からコミュニケーションをとるように心がけました。幸い、上司や同僚に恵まれて治療についても理解を得られて両立できたことに感謝しています。
趣味のドライブでリフレッシュされるご様子
趣味のドライブでリフレッシュされるご様子
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周りの方々にはどのように治療や病気のことをお伝えしていましたか?
病気や透析について説明するときは、「私にはこういう配慮が必要です」と形式ばった機会をもつのではなく、お互い緊張しない場面の方が良いと思います。たとえば、飲み会で「これ食べても大丈夫?」「ビールは飲めるの?」と尋ねられたらチャンスです。「飲みすぎなければ大丈夫だし、食べ物は選んで食べるので問題ないです。透析を受けていてもできることは多いのですが、ただ時間的な制約の部分には少しだけ配慮をお願いしたいんです」と折に触れて話してきたことで、周囲の理解も深まっていったのかもしれません。
――
患者さん自身の治療に対する姿勢は周りの方々にも影響するのかもしれませんね。
そうですね。患者自身がまずは明るく前向きに捉えることが必要かもしれません。それと、仕事に取り組む姿勢も大切です。まずは病気に甘えないこと。一方で、透析のために成果が上がらないとも評価されたくありませんでした。私の後に入社してくる透析患者にも迷惑がかかりますので。そのため、休日出勤をしたこともあります。
けれども、無理をして体を壊してしまったらそれこそ元も子もありません。だから、「無理せず、病気に甘えず」の絶妙なバランスが大切で、そのことをつねに意識しながら仕事に取り組むかどうかで結果はまったく違うと思います。
つらい思いを乗り越えて楽しみを見つける喜びも
――
今は腎臓病患者さんや透析患者さんをサポートする会社を営まれておられますが、夢をあきらめずに邁進できるその頑張りはどこから生まれているのでしょうか。
当時所属していた人事部で、ご自身やご家族が病気を抱えている人や介護で休職する人など、さまざまな事情を抱える社員の相談を数多く受けているうちに、「自分で何かサポートできるのではないか?」という強い思いが仕事を超えて生まれてきました。
私自身、物心ついてからずっと病気でしたので、患者としての経験を生かしてもっと積極的に医療と関わっていくことが自分の生きる道だと確信しました。そこで最初は家族の反対もありましたが、理解も得られて38歳のときに退職を決意し、社会福祉士の資格を取得後、福祉の仕事に進みました。
その後、社会福祉協議会で働いたり、入院していた病院の看護師さんと協力して医療相談などを受ける仕事を始め、2010年には今の会社(株式会社ペイシェントフッド)を起ち上げました。講演活動や患者さんやご家族の相談を受けたり、治療や病気に関する情報提供だけでなく、素朴な患者さんの疑問や悩みに応えられる患者さん向けのウェブサイト「じんラボ」も運営しています。これらは透析患者当事者だからこそできる活動だと思っています。
――
今後はどういった点に力を入れていきたいですか。
今後は、「患者」と医療に携わる「医療者」、「製薬企業」や「医療機器メーカー」などをつなげる架け橋となる活動にも注力していきたいと考えています。製薬企業などで働く方々に患者の体験や思いをダイレクトにお伝えして、製品やサービスの向上につなげたいと思います。患者が中心にぽつんと置かれた医療の形ではなく、患者も積極的に医療に参加していく「患者協働」を進めていきたいですね。また、透析患者の就労支援もスタートしたので今まで以上に取り組んでいきます。
――
仕事に治療にと忙しい毎日でも楽しく過ごす秘訣はありますか?
自分が好きなことであれば、あまり疲れは感じないようです。自分で立ち上げた事業がいま少しずつ花開いてきたところで、今は本当に仕事が趣味ですね。何十人、ときには何百人の中で仕事をするのは大変ですが、緊張感や達成感が得られた後に少しだけ甘いものを食べるとか、ちょっとした日常的な楽しみを織り交ぜることが気持ちを保てている秘訣かもしれません。
ただ、無理した次の日は仕事にならないことがあると本末転倒ですので、そこは先ほどの「無理せず、甘えず」でうまくバランスをとるようにしています。
宿野部さんが運営する「じんラボ」のパンフレット
宿野部さんが運営する「じんラボ」のパンフレット
――
透析治療を受けている患者さん、とくに若い患者さんへのメッセージをお願いします。
青年層の患者ですと、やはり恋愛結婚が大きなテーマになります。恋愛は生きるエネルギーになると思っていますが、恋愛すらあきらめている患者仲間も多いのです。ご両親と一緒に住んでいる方でも、残念ながら両親は先に亡くなるわけです。パートナーと歩む人生もすばらしいものですし、まずは自分の魅力を磨いて、好きなことに一生懸命取り組んでいれば、きっとそこに魅力を感じてくれる人が現れるのではないかと思います。
講演中の宿野部さん
講演中の宿野部さん
世の中では病気を持たずに健康な状態が幸せという考えが一般的かもしれません。でも、私の場合はずっと病気とともに生きてきたので、苦しかったことはマイナス面と捉えることもありますが、今の仕事は患者であるからこそできるというプラスの面もあります。つらい思いを乗り越えた先に楽しみや希望というプラスの面を見出せたことが、私にとっては大きな喜びです。

患者会やわたしたちの「じんラボ」などのウェブサイトでもいいのですが、他の患者が生き生きと元気に活動される姿を見ることは刺激になりますし、自分も頑張ってみようと前向きな気持ちになれるかもしれません。どんなことでもいいので、自分の人生を充実させるために自分にとっての楽しみを見つけてみてください。
宿野部 武志(しゅくのべ たけし)さんのプロフィール
社会福祉士
株式会社ペイシェントフッド 代表取締役
NPO法人 患者スピーカーバンク 副理事長
NPO法人 東京腎臓病協議会 青年部副部長
東京都世田谷区 身体障害者相談員
監修医からのアドバイス
昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門 客員教授 秋澤 忠男 先生

昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門
客員教授
秋澤 忠男 先生

30年間透析療法を受け、この経験をお仕事やボランティア活動に積極的に生かされているのは、宿野部さんの人生に対する前向きな姿勢と自己管理の賜物でしょう。

インタビューの中でも触れられたように、「透析を始めたら、人生は終わり」と考えてしまう方もいらっしゃいます。しかし週3回、1回4~5時間の透析時間は天から与えられた貴重な余暇ととらえ、それを活用することも可能です。

「透析は夢の実現に必要な社会復帰のための手段」という宿野部さんのご提言を、透析を受ける多くの皆様が受け入れて下されば、と願っています。

とはいえ、毎日を生き生きと過ごすためには、皆様の自己管理が大切です。皆様どうか宿野部さんのように、前向きな気持ちで自己管理をお続け下さい。
30年間透析療法を受け、この経験をお仕事やボランティア活動に積極的に生かされているのは、宿野部さんの人生に対する前向きな姿勢と自己管理の賜物でしょう。

インタビューの中でも触れられたように、「透析を始めたら、人生は終わり」と考えてしまう方もいらっしゃいます。しかし週3回、1回4~5時間の透析時間は天から与えられた貴重な余暇ととらえ、それを活用することも可能です。

「透析は夢の実現に必要な社会復帰のための手段」という宿野部さんのご提言を、透析を受ける多くの皆様が受け入れて下されば、と願っています。

とはいえ、毎日を生き生きと過ごすためには、皆様の自己管理が大切です。皆様どうか宿野部さんのように、前向きな気持ちで自己管理をお続け下さい。

取材実施日:2017年3月25日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです

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