透析について考える

このコーナーでは、透析患者さんの治療や暮らしを支える医療従事者の方にご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

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透析サポーター インタビュー Vol.3
安心・安全で質の高い透析を実現するために、
機械や透析効率に細やかな目配りを。

平松 英樹 さん

透析室では、看護師と並んで接する機会の多い臨床工学技士。透析時の穿刺・返血や機器の確認以外にも、安心・安全な透析を続けるためにさまざまな業務を行っています。
そこで、30年近くにわたり透析室に勤務し、現在は技士長として透析室全体を管理する平松英樹さんに、臨床工学技士の具体的な業務内容についてお聞きしました。

特定医療法人 衆済会 増子記念病院 臨床工学課 技士長
平松 英樹 さん

透析室では、看護師と並んで接する機会の多い臨床工学技士。透析時の穿刺・返血や機器の確認以外にも、安心・安全な透析を続けるためにさまざまな業務を行っています。
そこで、30年近くにわたり透析室に勤務し、現在は技士長として透析室全体を管理する平松英樹さんに、臨床工学技士の具体的な業務内容についてお聞きしました。

透析室だけでなく、機械室の管理も重要な業務
――
増子記念病院は、腎臓病の専門病院として多くの透析患者さんの治療にあたっているそうですね。
当院には4つの外来透析室(写真)のほか、入院患者さん用の病棟透析室、病棟に透析可能な個室を備えており、現在は420〜430名の透析患者さんの治療にあたっています。
それぞれの透析室では、看護師とともに、透析の各時間帯に1〜2名の臨床工学技士が業務にあたっています。透析開始前に透析装置のセッティングを行うほか、透析開始後には全てのベッドをまわって透析装置と患者さんの安全点検を行っています。点検時には、できるだけ患者さんに声をかけてコミュニケーションを図るようにしています。
同時に、透析室だけではなく、機械室の管理というのも臨床工学技士の大切な業務の一つです。現在、日本の多くの施設では、「セントラル透析液供給システム(CDDS:Central Dialysis fluid Delivery System)」を採用しています。これは、多人数分の透析用の水と透析剤を、透析機械室で調整し、透析液として供給する装置のことをいいます。
そこで、我々臨床工学技士は、水処理装置や透析液供給装置、原液溶解装置などのいろいろな機械をチェックし、透析に使う透析液に消毒液が混ざっていないか、あるいは透析液の濃度に異常がないかどうかなどを確認しています。
オーバーナイト透析を行っている第二透析室
――
安全に透析を実施する上で、透析装置や透析液の管理に関わる臨床工学技士の役割は大きいですね。平松さんは、臨床工学課の技士長を務めているそうですが、具体的にはどのような業務を行っているのでしょうか。
私自身は、先ほど述べた透析室の1つに所属するとともに、全体統括として、全ての透析室の管理に携わっています。
また、一昨年の3月からは透析患者さんのベッドコントロールも担当していて、患者さんの入退院時の調整や他の医療機関からの受け入れにも関わっています。
普段は、個人用と透析ベッドコントローラー用の2台のPHSを持ち歩き、看護師や臨床工学技士からの要請に応じたり、医師との連絡をとったりしています。
――
看護師や臨床工学技士からの要請というのは、具体的にはどのようなものですか。
病棟、透析室からの入退院後の透析シフトの調整依頼や、透析開始前の「シャントエコー検査を実施してほしい」という要請ですね。シャントエコーは、血管の狭窄などのシャントトラブルが起きているかどうかをエコーで確認する方法ですが、当院では5〜6年前からこのシャントエコーを取り入れ、シャントトラブルの予防や穿刺が難しい患者さんの負担の軽減に活用しています。シャントエコーを扱えるスタッフは私の他に7名いますが、シフト勤務で彼らが不在の場合には私が呼ばれます。
始めよければ全てよし。穿刺のトラブルはシャントエコーで解決
――
シャントエコーは全ての患者さんに使用しているのでしょうか。
いいえ、エコーの台数には限りがあるので、エコー穿刺するのは、血管が細い方や蛇行して穿刺が難しい方など一部の患者さんに限られますが、経皮的血管形成術(PTA)を実施している患者さんに対しては、ほぼ全例エコーでシャント評価をしています。
私は、透析治療で一番神経を使うべきポイントは「穿刺」だと考えています。穿刺はやはり患者さんが透析の中で最も不安に感じる部分ですし、最初の穿刺がうまくいくかどうかで、その日の透析の良し悪しが決まるという面もあるのではないでしょうか。
よく、「終わりよければ全てよし」といいますが、透析の場合は「始め(穿刺)よければ全てよし」ですね。

穿刺がうまくいかない原因としては、患者さんの血管の状態以外にも、医療者の技術や経験が影響している場合もあります。我々も日々、穿刺技術の向上には努めていますが、至らない部分についてはシャントエコーを用いることでかなりの部分がカバーできます。ですので、これからはシャントエコーを使いこなせるスタッフをさらに増やして、患者さんにもより安心できる治療を提供していきたいと思っています。また、現在、穿刺が難しい患者さんの情報をスタッフの間で共有することも検討していて、できるだけ、穿刺トラブルを減らすための仕組みづくりを構築できればと思っています。
――
他には、透析室でのサポート業務としてはどのようなことを行っていますか。
シャントエコー以外では、ハラスメント行為や苦情など、患者さんと医療者間のトラブルが発生した時に現場へうかがい対応をすることも少なくないですね。
患者さんの中には、当院の治療内容に対して不満を述べられる方もいらっしゃいます。ご自身も一生懸命勉強されていて、色々な情報を調べたり、他施設の治療内容を耳にして比較されたりするのだと思います。その場合は、お話をお聞きした上で、根拠となる情報とともに、現在の治療がその方にとってベストな方法であることをしっかりとお伝えするようにしています。
経過観察記録

――
客観的な情報とともに説明し、納得していただけるように努めているのですね。
当院では、臨床工学技士各々がそれぞれ約30名の患者さんを受け持っていて、毎月、検査データや透析効率をチェックしています。その際、透析内容で見直すべき点や透析効率アップの改善点があれば、カルテを通して医師に伝えるようにしています。また、患者さんにも過去のデータをまとめた「検査経過記録」をお渡ししています(写真)。
日々医療技術が進歩する中、医師はもちろん、我々スタッフも常に「患者さんに最適な透析を提供する」という想いで臨んでいます。
――
透析効率をチェックしているとのお話がありましたが、透析効率が低下する原因としては、どのようなものが考えられますか。
最も多いのは、シャントの合併症(トラブル)です。透析効率の低下が確認された患者さんに対しては、シャントエコーを用いてシャントの状態を確認しています(写真)。そこで狭窄が認められた場合は、必要に応じてPTAなどを速やかに実施します。
ただ、本来であれば、普段から定期的にシャントエコー検査を行い、異常を早期に発見するのが望ましいと思っています。将来的には、そうした検査体制も築いていきたいですね。
シャントエコー検査
――
その他、透析室での業務以外には、どのようなことを行っていますか。
月一回、医師や看護師、臨床工学技士の役職者が集まり、より安全で質の高い透析治療を行うための検討事項を話し合っています。透析医療が年々進歩する中で、最新の技術を取り入れるべく透析液の変更を提案したり、透析中のトラブル防止に向けた対策などを議論したりしています。
――
より良い透析のために、表に見えない部分でもさまざまなサポートをしているのですね。
7年ぶりの患者さんが覚えてくれていた――患者さんとの親密な関係を実感
――
臨床工学技士として30年近いキャリアとのことですが、印象に残っているエピソードはありますか。
当院で勤務してから一時期、透析治療の知識と経験を広げるために、7年間、他の医療機関で勤務したことがあったのですが、この病院に再び戻ってきたときに、多くの患者さんが私のことを覚えてくださっていたのは嬉しかったですね。
特に当時は、透析患者さんの年齢層も40〜50代が中心で、毎年、忘年会や運動会などのイベントを一緒に行うなど、スタッフとも密接な関係が築かれていました。
今は、患者さんも高齢化してきたため、そういったイベントを実施するのもなかなか難しくなりましたが…。
――
今後の抱負をお聞かせいただけますか。
当院では2020年に腎臓病総合医療センターが立ち上がり、5年前からは生体腎移植が始まり、全ての腎代替療法が可能な体制が整いました。したがって、私個人の目標としては、これまで臨床工学技士として培った知識と経験を充分に生かし、腎代替療法全体に広く関わっていきたいと思っています。
加えて医療機器だけでなく、血液検査値や、放射線画像、MRI画像、心電図についても勉強を重ね、より多くの知識で患者さんをサポートしていきたいと思っています。
――
最後に、透析患者さんへのメッセージをお願いします。
近年、透析患者さんの高齢化が進んで、日常生活で不便を感じたり、困りごとがあったりする方も多いかと思います。そんな時は、少しでも快適に過ごせるように、ぜひ訪問看護・訪問介護などのサービスを最大限に利用していただければと思います。
もちろん、病院でできることについては、我々医療チームが全面的にサポートさせていただきます。透析はもちろん、栄養や運動などさまざまな側面からフォローしますので、少しでも気になることがあれば、遠慮なく相談してください。

取材実施日:2021年1月28日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです(インターネットを利用したリモート取材)

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