透析について考える

このコーナーでは、透析患者さんの治療や暮らしを支える医療従事者の方にご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

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透析サポーター インタビュー Vol.5
透析看護師として幅広い業務を担う傍ら、
透析ヨガで患者さんを心身両面からサポート

平松 英樹 さん

透析看護師は、血液透析開始前から終了後までの多くの行程に関わるだけでなく、患者さん一人ひとりの日常生活にも目を配り、適切な療養・生活指導をしてくれる、患者さんにとって身近な存在の一人です。そのような中、佐野靖子さんはヨガセラピストの資格を生かして、2021年から透析患者さん向けのヨガ(透析ヨガ)をスタート。ヨガを通した心身両面からのサポートもしています。佐野さんに具体的な業務内容をお聞きしました。

医療法人社団 仁勝和会 みしま勝和クリニック看護師 
一般社団法人 ヨガセラピスト協会所属/ヨガセラピスト
佐野 靖子 さん

透析看護師は、血液透析開始前から終了後までの多くの行程に関わるだけでなく、患者さん一人ひとりの日常生活にも目を配り、適切な療養・生活指導をしてくれる、患者さんにとって身近な存在の一人です。そのような中、佐野靖子さんはヨガセラピストの資格を生かして、2021年から透析患者さん向けのヨガ(透析ヨガ)をスタート。ヨガを通した心身両面からのサポートもしています。佐野さんに具体的な業務内容をお聞きしました。

気になる患者さんがいれば、スタッフ全員で改善案を話し合う
――
現在は透析施設に勤務されているそうですが、看護師のキャリアとしては何年になりますか。
およそ17年です。もともと母親が病気がちだったことと、高校生の時に自分の存在価値が見出せず、「自分とは何か?」について悩んだ時期があって、人から必要とされたい、人の役に立ちたいという思いがあり看護師を目指しました。
――
普段の業務内容はどのようなものですか?
まず、来院した透析患者さんの出迎えと案内に始まり、ベッドの準備、血圧などのバイタルの測定をします。その後、穿刺や固定を行い、透析中はフロアを回って安全に透析が行われているかを確認しながら、臨床工学技士とともに透析システムの管理を行います。また、医師の回診の際には介助のほか、注射の準備や実施、検査などを行います。栄養指導が必要な時は、管理栄養士と一緒に行うこともあります。
――
幅広い業務を行う中で、患者さんに最も近い存在として、さまざまな職種と連携をとりながらケアしているのですね。

近年は独居の高齢患者さんが増えているので、来院時だけでなく、家庭環境のサポートを行う機会も増えています。気になる患者さんがいれば、院内のカンファレンスの議題に挙げ、臨床工学技士や管理栄養士、看護助手、事務など全職種で改善案を話し合い、患者さんのご家族や他の医療介護施設などと連絡を取り合います。例えば、通院が困難になった方がいれば、自宅でも車椅子が必要か、介護タクシーを利用すべきかなどを皆で話し合い、ソーシャルワーカーに連絡をします。
――
院内カンファレンスには、全ての職種のスタッフが参加するのですね。
小さなクリニックですので、みんなで話し合うようにしています。看護師は患者さんに近い存在ではありますが、他の職種だからこそ気付けることもあって、助けられています。
――
ケアをする上で心がけていることはありますか。
透析歴や透析導入までの経緯といった治療に関わる基本的な情報のほか、患者さんの透析治療に対する理解度や受容度、ライフステージや社会的役割も把握した上で接するようにしています。
特に高齢患者さんについては家族構成も重要で、誰がキーパーソンかを把握するようにしています。伝達しなければいけないことは必要に応じてノートなどの連絡ツールも使って、キーパーソンに伝えています。
やはり、患者さんそれぞれで病態や背景、パーソナリティが違いますので、会話やコミュニケーションも含めて、その人に合ったケアができるように努めています。
透析ヨガを始めて、患者さんとの距離感が縮まった
――
最近、こちらのクリニックではヨガを導入されたそうですね。

透析前のヨガの様子

2021年春に個人的にヨガセラピストの資格を取得したのですが、その話を透析部長にしたところ、「院内でやってみる?」と勧められたのがきっかけです。
その年の秋に希望者募集の張り紙をしたところ、何人かの患者さんが手を挙げてくれました。当初は私がベッドサイドに伺って、透析中のヨガをマンツーマンで実施していました。その後は、透析前にロビーに集合した患者さんを対象として、上半身の運動を指導するようになりました。
最初は自分が本当にヨガを指導していいのかなという思いもありましたが、実際に始めてみると、透析とヨガがとてもマッチすることに驚きました。最後に深呼吸で終わる時の一体感や達成感、患者さんのスッキリとした表情が印象に残り、やって良かったなと強く思います。
――
患者さんからも反響はありましたか。
皆さん、朝のロビーでのヨガを楽しみにしてくださるようになって、「家でもやっているよ」、「入院中にも呼吸法をやったよ」、「今日はヨガやらないの?」といった温かい声もいただきました。中にはヨガの体験を俳句にしてくださる方もいて、患者さんとの距離も縮まったように感じます。
これまで当院では運動療法の指導をあまりしていなかったこともあり、運動自体が敬遠されるのではと危惧していましたが、皆さん、快く体を動かしてくださいました。中には関節が思うように動かないことを自覚される方もいて、自分の体を意識する機会につなげられたのは良かったと思っています。
現在は新型コロナ感染の恐れもあるため実施できていませんが、コロナ禍が落ち着いたらぜひ再開したいです。
――
透析ヨガの内容については、佐野さんご自身がサイト内(からだいきいき 透析ヨガ)で紹介されていますね。
透析患者さん向けプログラムとしては、透析前の上半身を中心とした運動、透析中の下半身を中心とした運動、透析を行わない日の上半身・下半身の運動と、それぞれ異なるメニューがあります。食事の直後と血液透析の直後以外であれば、どんなタイミングでもできるようになっていますので、ぜひご覧ください。
また、瞑想のプログラムも用意しています。透析生活で体や心に負担を感じた時は、ストレスから解放される瞑想を試してみてください。
もちろん、動画だけ確認して終わり、でもOKです。大切なのは、自分の体調や気持ちを意識することです。やろうと思った時に試すぐらいの軽い気持ちで取り組んでいただければと思います。
――
今後、目指していきたいことはありますか。
一つは、もっと透析ヨガを広めていきたいということですね。透析中という制限された環境で手軽に行える運動はなかなかありません。もし要望があれば、他の透析施設に出張して広めていければと思っています。
さらにいえば、ヨガが医療全般に広く取り入れられるようになって欲しいなと思います。ヨガの最大の魅力は、どんな年齢の方でも、どんな病気でも、どんな状況でもできることです。慢性期の運動療法としてはもちろん、急性期の術前・術後の呼吸訓練や、回復期のリハビリにも活かせますし、終末期や産前・産後に対応できるヨガもあります。また、食事や生活習慣、精神面、予防医療でもヨガは大いに役立つと思いますので、今後は積極的に普及を目指したいです。
――
最後に、患者さんへのメッセージをお願いいたします。
透析治療を続けていく中で、検査結果が悪い時や体調が思わしくない時は、悩んだり、苦しく辛い思いをしたりすることもあると思います。そんな時、心にわずかでも余裕ができた瞬間があれば、自分自身や置かれている状況を俯瞰(客観視)してみることが大切だなと、私自身、ヨガを通じて感じています。
これは瞑想にもつながるやり方なのですが、解決策を見出そうとしたり頭であれこれと考えたりする必要はなく、ただ今の状況を見つめて、思考から離れる時間を作ってみるだけでよいのだと思います。そうすればいつの日か、気持ちの整理がついたり、気付きを得たりする時が来ると思います。
佐野 靖子 さん 写真

取材実施日:2022年11月22日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです(インターネットを利用したリモート取材)

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