傷あとの異常について
肥厚性瘢痕・ケロイドとは
ふつうヒトの皮膚は、傷を受けると必ずあとが残りますが、その傷あとの程度は、傷の性質や部位、傷を受けた本人の体質によって治り方(経過)が違います。軽い傷はふつう1~2週間で傷がふさがったり、赤味がかったピンクの新しい皮膚ができたりします。ほとんどの場合には、それが2~3カ月のうちに白くなり、もとの皮膚のように治りますが、ときにはこれと別な経過をたどることがあります。
新しい皮膚が赤みやピンク色を帯びたまま、元のように白く治らずに盛り上がったり、かたく引きつったりした状態のことを肥厚性瘢痕(ひこうせいはんこん)とか、場合によってはケロイドといいます。

- 肥厚性瘢痕
- 赤みや盛り上がり、つっぱり感があり、時々、痛みや痒みもありますが、傷の範囲を越えて広がることはなく、自然に治る傾向があります。
原因は、深い傷だったり、傷口が化膿したり、異物が入ったりして治りが遅れた場合や、傷を開く方向に力が加わることなどで、治り方に異常が起こる場合が多いようです。また、栄養状態がよくない人や、貧血、糖尿病、肝硬変などの病気のある人も、傷の治りが遅くなり、肥厚性瘢痕になりやすくなります。 - *瘢痕(はんこん)=傷あとのことです。
- 左写真:胸部にできた肥厚性瘢痕

- ケロイド(真性ケロイド)
- 一般にケロイドと言われているうちの多くは肥厚性瘢痕で、本当のケロイドの頻度はそれほど高くはありません。ほとんど傷などがないのに盛り上がってきたり、傷の範囲を超えて周りの正常な皮膚へ向かって次第に広がったりしていくものをケロイドと呼びます。肥厚性瘢痕と同じようにつっぱり感、痒み、痛みがあります。肥厚性瘢痕と異なる点は、だんだんと周りに広がってゆき、治療でなかなか良くならない場合が多いのが特徴です。
原因は肥厚性瘢痕とほぼ共通していますが、ケロイドの場合はこれに加え、体質、遺伝的なものや傷の部位も影響すると考えられています。 - ケガをすると、皮膚にある「線維芽細胞」がコラーゲンというたんぱく質を作ってその傷を修復します。しかし、傷口が化膿してしまったり、傷の周りの血行が悪いと修復がなかなか上手くいきません。「肥厚性瘢痕」「ケロイド」は、この修復の過程でコラーゲンが異常に産生され、組織内にあふれ出て盛り上がってしまった状態なのです。
肥厚性瘢痕が生じる条件
ケロイドや肥厚性瘢痕になる原因は、まだよくわかっていません。しかし、起こりやすい条件としては次のようなことがあげられます。
一般的には・・・
・白人には少なく、黒人に多い。
ケロイド体質と人種
ケロイド体質というものがいわれますが、ケロイドや肥厚性瘢痕ができやすい人が確かにいるようです。ケロイドは人種によってできやすさが異なり、白人には少なく、黒人に多く、黄色人種はその中間だといわれています。肌の色とケロイドに関係がありそうに見えますが、メラニン細胞やメラニン色素とケロイドの発生には関係がないという研究報告が多く出されています。日本人の中でも色白の人はケロイドができにくいのかというと、必ずしもそうではなく、単純な肌色の差の問題ではなさそうです。

・化膿した傷はなりやすい。
・動きやすいところや、皮膚の緊張の強いところにできやすい。
できやすい部位
・ 成長期でなりやすい。
・しわに平行な傷よりも、しわを横切った傷はなりやすい。
・栄養状態が悪いとなりやすい。
手術時、縫合の仕方による異常な瘢痕
・傷を縫合するときに真皮からしっかり縫わないとなりやすい。
・表面を縫う糸を強く締めすぎると縫い糸のあとが残りやすい。
・抜糸時期が遅くなったりすると糸のあとが残りやすい。

体質によっては、手術とか、けがとかいうことでなしに、突然に肩や胸のあたりに赤いふくらみを生ずることがあります。そして、これはどんどん広がる傾向を持ち、ケロイドと呼ばれています。
監修
川崎医科大学形成外科学教室 教授 森口隆彦 先生
監修者の所属及び肩書きは監修当時のものです。
作成:2004年