気をつけるべき合併症とは?

透析療法を安全に長く続けるためには、合併症を起こさないように気をつけることが大切です。

透析患者さんが気をつけるべき合併症には、
(1)透析そのものが原因となって、透析にからだが慣れていないために起こる合併症(短期的合併症)と、
(2)透析を長く続けていることが原因で起こる合併症(長期的合併症)
の2種類があります。

ここでは、患者さんやそのご家族が注意すべき、代表的な合併症について説明します。

気をつけるべき合併症とは?

短期的合併症

透析不均衡症候群

おもに血液透析に伴う合併症で、からだが透析にまだ慣れていない透析導入期によくみられます。
透析により、体内の血液中の水分や老廃物は急激に除去されますが、脳の中や細胞内の老廃物は除去されにくく、血液と脳など細胞の中との間に濃度差が生じます。この細胞の外と中の濃度が同じでない(不均衡である)ことが原因でさまざまな症状が起こります。これらの症状をまとめて「不均衡症候群」と呼んでいます。

おもな症状は、頭痛や吐き気、嘔吐、脱力感、透析中の血圧低下や足のつり(筋肉のけいれん)などさまざまです。

頭痛や吐き気などはからだが透析に慣れていけば、徐々に起こりにくくなりますが、血圧低下や筋肉のけいれんは透析を維持する時期になっても起こりやすく、注意が必要です。

不均衡症候群を予防するポイントは、水分や塩分、たんぱく質などをとりすぎないようにし、ゆっくりと時間をかけて、緩やかで無理のない透析を行うことなどが挙げられます。

長期的合併症

透析療法は腎臓の機能を完全に代行することができません。そのため、透析療法を長期間続けていると、さまざまな合併症が起こることがあります。

透析患者さんの死亡原因をみると、その1~3位を「心不全」、「感染症」、「悪性腫瘍」が占めています(図)。一般人では「悪性腫瘍」が第1位ですから、透析患者さんでは心臓・血管病と感染症にとくに注意が必要になります。

透析患者さんの死亡原因(2015年)

透析患者さんの死亡原因(2015年)
〔参考文献〕
日本透析医学会 統計調査委員会「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015年12月31日現在)」
http://docs.jsdt.or.jp/overview/index.html

心臓の機能の低下、脳卒中・心筋梗塞などの心血管イベント

透析患者さんは尿が出ないため、水分や塩分がからだにたまり、それを循環させる心臓には大きな負担がかかって、働きすぎの状態になってしまいます。

働きすぎた心臓は心臓疾患の原因となり、心臓の機能が低下して、最後には心不全に至ります。
心不全はつねに透析患者さんの死因の第1位を占めています。

また、透析患者さんには高血圧や糖尿病の方が多く、血液中のリンやカルシウム濃度に異常が出ることも影響して、動脈硬化が進みやすい状態にあります。動脈硬化が進むと、脳卒中や心筋梗塞などさまざまな病気を引き起こします。

これらを予防するには、食事や水分・塩分の過剰摂取をひかえ、心臓に余分な負担をかけないように注意することと、たまった水分や塩分を透析で適切に除去することが必要です。心臓の過剰な負担を防ぐためには、透析後の適切な体重(ドライウェイト)を守ることも重要です。

また、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの病気をもっている方は服薬を欠かさずに、こうした病気を上手に治療することも大切です。

水分の摂取量に注意

高リン血症、ビタミンD不足、副甲状腺ホルモン(PTH)の増加、 骨の異常、動脈硬化

リンはたんぱく質など多くの食べ物に含まれています。腎不全ではこのリンが腎臓から排泄されなくなり、血液中にたまると「高リン血症」になります。また、腎不全ではビタミンDが不足し、腸でのカルシウムの吸収が悪くなり、血液中のカルシウムの濃度が下がります。

血液中にリンがたまり、カルシウム濃度が低下すると、リンを下げ、カルシウム濃度を上げる作用をもつ副甲状腺ホルモン(PTH)というホルモンが分泌されます。
このように腎臓が悪いことでPTHがたくさん分泌される状態を腎性(二次性)副甲状腺機能亢進症と呼びます。

PTHは骨を壊して、骨からカルシウムを血液中に放出してカルシウム濃度を増加させる働きがありますが、結果的に骨や関節が壊され、骨がもろくなって骨折しやすくなります。ビタミンDの不足も骨がもろくなる原因となります。

また、血液中のリン濃度が高まると、血液にリンが溶けにくくなり、カルシウムと結合して血管の壁や心臓の弁などにくっついて、これらを石のように硬くしてしまいます(これを「石灰化」と呼びます)。この血管や心臓弁の石灰化によって動脈硬化が進んだり、心臓弁膜症を起こすことがあります。

高リン血症や二次性副甲状腺機能亢進症の予防には、リンを制限する食事療法や、高リン血症、ビタミンD不足、PTH増加を防ぐ薬物療法などが必要となります。

腎性貧血

腎臓は、赤血球をつくる働きをもつホルモン(エリスロポエチン)もつくっています。エリスロポエチンが不足すると、貧血になります。
貧血になると、疲労感や動悸、息切れ、食欲不振など多くの症状が現れます。
腎性貧血は薬で治療できますが、ホルモン不足が完全に解消するわけではありません。

透析アミロイド症

透析療法を長く続けるにしたがい、透析では十分に除去できないβ2-ミクログロブリンと呼ばれる尿毒素が体内にたまっていきます。大量にたまったβ2-ミクログロブリンはアミロイドという物質をつくり、このアミロイドが腱や骨、関節に蓄積して、さまざまな障害を引き起こします。

症状には、手のつけ根のしびれや痛み、肩・膝などの関節痛、首、腰、四肢などの運動障害、バネ指(スムーズな指の曲げ伸ばしができなくなります)などがあります。

高性能のダイアライザーや効率の高い透析療法を用いて十分に透析を行うことで、透析アミロイド症の発症を遅らせることができます。治療は、おもに痛みを和らげる対症療法(薬物療法や理学療法、手術など)が行われます。

免疫低下・感染症

透析患者さんでは、体内に蓄積した尿毒素の作用や栄養不足、貧血など、さまざまな要因によって免疫力が低下し、感染症にかかりやすく、また治りにくくなっています。
透析患者さんの死因として2番目に多いのが、この感染症です。

皮膚やからだを清潔に保ち、十分な透析と栄養摂取を心がけ、予防注射を積極的に行い、外出後には手洗い・うがい、皮膚の傷にも気をつけることなどが、感染症の予防につながります。

かゆみ

かゆみの症状は、透析に入る前の腎不全の時期からみられる場合もあります。
透析を始めると汗腺が萎縮して汗が出にくくなるため、皮膚が乾燥して外からの刺激に敏感になり、かゆみが起こりやすくなります。

とくに頑固で強いかゆみは日常生活に支障をきたし、夜間のかゆみは睡眠を妨げます。いつもかゆくてイライラし、皮膚をかくとかいた跡が刺激になってかゆみがひどくなる、という悪循環にも陥ります。

予防には、まず血中のカルシウムやリン、PTHが増えないよう、服薬を守り、十分な透析を行うことが大切です。日常生活では規則的に入浴し、からだの洗いすぎやタオルで強くこすらないよう注意し、スキンケアを毎日行い、皮膚の保湿を心がけましょう。かゆみに有効な薬剤も使用できるようになりました。

これらの合併症に対する対策は、主治医や看護師などの医療スタッフの指導と助言をきちんと守って、忘れずに行ってください。
また、からだに何か異変を感じたら、主治医や医療スタッフに早めに伝えることが大切です。

かゆみ
〔参考文献〕
日本透析医学会 統計調査委員会「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015年12月31日現在)」
秋澤忠男編「やさしい透析患者の自己管理 改訂4版」、医薬ジャーナル社、2013年
秋澤忠男著「腎臓病と最新透析療法-より快適な透析ライフを送るために-」、ゆまに書房、2008年