このコーナーでは、透析患者さんには欠かせない食事管理について、「1から料理を作る」のではなく、
スーパーやコンビニで入手できるものや外食時に活用できる手軽な食事管理のコツをご紹介します。
【執筆】株式会社日立製作所 ひたちなか総合病院 栄養室 腎臓病病態栄養専門管理栄養士 中山 真由美 先生
【監修】茨城キリスト教大学生活科学部食物健康科学科 教授 石川 祐一 先生
これだけは知っておきたい食事管理のポイント
透析療法を始めたら、今までのように自由な食事はできない・・・とがっかりしていませんか? そんなことはありません。
水分や塩分、カリウム、リンなどの摂りすぎに気をつけ、エネルギー源や栄養素をうまく補給するといった食事療法のポイントさえ守っていれば、食事を楽しむことができます。
ここでは食事療法のポイントをまとめてみました。
ポイント1 栄養状態を良好に保ちましょう(やせないようにしましょう)
透析患者さんの予後を良好に保つためには、栄養状態を保つことが重要であることがわかっています。からだがどんどんやせてしまう・・・という方がいたら『栄養状態が悪くなっている』 『食事量が足りていない』可能性があります。
(1)1日の適正なエネルギー摂取量はどれくらい?
- 【例】
- 身長160cmの方の場合
標準体重:1.6m×1.6m×22=56.3kg
必要なエネルギー量:56.3kg×30~35(kcal)=1,689~1,971kcal≒1,700~2,000kcal
となります。
(2)1日の適正なたんぱく質量は?
- 【例】
- 身長160cmの方の場合
標準体重:1.6m×1.6m×22=56.3kg
56.3kg×0.9~1.2g=50.7~67.6g≒50g~70g
となります。
十分な栄養(食事)を摂り、適度な運動を行うことが重要です!
運動は、筋肉量、筋力、身体機能の低下(サルコペニアと呼びます)や、運動処理能力や認知機能、日常生活の活動性などの低下(フレイルと呼びます)の予防につながります。
「どうしても食欲が出ない」そんな時のチェックリスト
ポイント2 食塩の摂りすぎに注意し、水分摂取量を守りましょう
(1)1日に摂取する食塩量
(2)食塩の摂りすぎは、なぜいけないの?
食塩を過剰に摂取すると、のどが渇き、水分の過剰摂取につながります。その結果、体内に余分な水分がたまり、血液透析の除水量が増加すると、透析中の血圧が下がり、体調が悪くなることがあります。また、血液中の水分量が増えることから、高血圧を引き起こす原因にもなります。
腹膜透析患者さんの場合、除水量を増やすために透析液の濃度を高くします。その結果、腹膜への負担が大きくなります。
快適に透析を行うためには、塩分を摂りすぎないことが大切です。
(3)減塩の工夫は?
・レモンやゆず、酢などの酸味や、からしなどの香辛料を上手に使いましょう。
・汁物や漬物、加工食品には食塩が多く含まれているため、控えましょう。
・減塩しょうゆは食塩を効果的に抑えることができます。
(塩分量は通常のしょうゆの約半分です)
・とくに外食は塩分が多いです。麺類や丼物よりは定食を選ぶと良いでしょう。
(外食の楽しみ方 ~和食・洋食・中華料理~)
(4)水分摂取量の目安は?
食事から摂取する水分1,200mL+体内で代謝により生成される水分200mL+
直接口から摂取する水分(飲み水)【】mL = 【】mL・・・①
尿【】mL+便 100mL+呼吸や汗900mL = 【】mL・・・②
■からだにたまる水分量は?①【】mLー②【】mL = 【】mL/日・・・③
■血液透析患者さんの場合、透析を週3回とすると、2日または3日分の水分が、からだにたまります。③【】mL×2日 = 【】mL(g)
③【】mL×3日 = 【】mL(g)(週末)
透析患者さんの体重増加の目安量は
ドライウェイト※【】kg
中1日でドライウェイトの3% 【】kg
中2日でドライウェイトの6%※2 【】kg です。
※ドライウェイト…からだの中の余分な水分を取り除いたときの体重、透析終了時の目標体重
- 【例】
- 飲み水800mL、無尿の血液透析患者さんの場合
①2,200 mL - ②1,000 mL = ③1,200 mL /日 … 1.2㎏/日
中1日…2.4kg
中2日…3.6kg
3日間で、3.6kgの水分がからだにたまる計算になります。
- 【例】
- ドライウェイト(透析をする目標体重)55㎏の場合
中1日(3%)…1.65kg
中2日(6%)…3.3kg
3日間で3.3kg目安のところ、3.6kg増えてしまいオーバーに!!
水やお茶などで飲む水分は、1日あたり600~700 mLに抑えましょう。
詳しい目安量は医師の指示を確認し、摂取量を守りましょう。
◆どのくらい水分を摂って良いのか、医師に確認しましょう。
◆普段飲んでいる量を把握しておきましょう。
◆体重増加量を確認しておきましょう。
◆食事中の水分も忘れずに、注意しましょう。
◆夏季は熱中症予防のため、水分の摂り方を工夫しましょう。
ポイント3 カリウムの摂取量に注意しましょう
(1)1日の摂取量の目安は?
(2)カリウムを多く含む食品は?
カリウムはほとんどの食品に含まれます。とくに注意が必要な食品には、果物(バナナ・メロン・キウイフルーツ)や野菜、イモ類などがあります。また、野菜汁や果汁100%のジュースやドライフルーツは、カリウムが濃縮されています。少量でもたくさんのカリウムを摂ってしまいますので控えましょう。
肉、魚についてはカリウムを多く含みますが、通常の食事で食べる量(肉または魚1切れ程度)であればとくに問題はありません。
可食部100gあたりに含まれるカリウム量。
〔参考文献〕文部科学省「五訂増補日本食品標準成分表」
(3)カリウムを減らすための調理の工夫は?
・野菜は茹でこぼしをすることでカリウムを減らすことができます。・野菜は細かく切って、水にさらしましょう。
・果物は缶詰を利用しましょう。
ポイント4 リンをコントロールしましょう
(1)1日の摂取量の目安
リンの摂取量を減らそうとして、たんぱく質の摂取量を過度に減らすと、栄養状態だけでなく筋肉量や筋力の低下が問題となります。十分なたんぱく質を摂取し、定期的な血液検査の結果で血清リン値を確認し、高リン血症であれば食事からの過剰なリンの摂取量を控えるようにしましょう。
また、その際には、【リン/たんぱく質比が低いもの】を摂るよう心がけましょう。
食品中のリン/たんぱく質比
リン/たんぱく質比(mg/g)
<5 | 5~10 | 10~15 | 15~25 | 25< |
---|---|---|---|---|
卵白 鶏ひき肉 |
鶏もも肉 鶏むね肉 鶏ささみ 牛もも肉 牛肩ロース 豚ロース 豚もも肉 中華めん ハンバーグ |
まぐろ(赤身) かつお 鮭 納豆 油揚げ 全卵 ウィンナー 米飯 豆乳 |
そば 木綿豆腐 魚肉ソーセージ ロースハム ヨーグルト(加糖) |
ヨーグルト(無糖) 牛乳 プロセスチーズ |
>5
卵白
鶏ひき肉
5~10
鶏もも肉
鶏むね肉
鶏ささみ
牛もも肉
牛肩ロース
豚ロース
豚もも肉
中華めん
ハンバーグ
10~15
まぐろ(赤身)
かつお
鮭
納豆
油揚げ
全卵
ウィンナー
米飯
豆乳
15~25
そば
木綿豆腐
魚肉ソーセージ
ロースハム
ヨーグルト(加糖)
25<
ヨーグルト(無糖)
牛乳
プロセスチーズ
〔参考文献〕日本腎臓学会編「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」、東京医学社、2014
(2)リンを多く含む主な食品は?
・骨ごと食べられる魚・・・ししゃも、うなぎ、しらす干しなど
・魚卵・・・たらこ、すじこ、いくらなど
・加工食品・・・ハム、ソーセージなど
医師からリン吸着薬を処方されている方は、飲み忘れがないようにすることや、服薬時間を守りましょう。
※1:日本腎臓学会編「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版」、東京医学社、2014
※2:日本透析医学会「維持血液透析ガイドライン:血液透析処方」(透析会誌2013;46(7): 587-632)