気軽にできるちょい足しアレンジ

筋力を維持する食事のコツ

「サルコペニア」という言葉を聞いたことがありますか? 加齢や運動不足、栄養不良、病気などが原因で筋肉が減って、身体機能の低下を引き起こすことをサルコペニアといいます。筋肉が減ると、転倒による骨折などの危険も高まります。特に、透析患者さんは、通院・治療による時間の制約や透析後の疲れもあり、日常生活で体を動かす量が少なくなってしまう傾向があると言われています。

最近、“階段は疲れるから、エスカレーターやエレベーターを使ってしまう”ことが増えていませんか?もしかしたら筋肉が減っているサインかもしれません。

加齢に伴い筋肉が減ってしまうのをくいとめるのは難しいことですが、ここでは、「今よりも筋肉を減らさないようにする」「なるべく筋力を保つようにする」にはどうしたら良いのか考えてみましょう。

筋肉を維持するには運動のほかに「食事」も大切

筋肉をつけるには、運動※1のほかに食事の内容も意識することが大切です。

※1 運動については、かかっている病気などによって制限されている方もいますので、透析施設の医師や看護師にご確認ください。

筋肉をつくるためには、食事から摂るビタミンやミネラルも必要ですが、特に大切な栄養素が「たんぱく質」です。適切にたんぱく質を摂ることが筋肉を維持することにつながります。

筋肉を減らさず維持するのに大切な「たんぱく質」

たんぱく質はどんな食品に多く含まれているの?

たんぱく質には肉、魚、卵、乳製品などに多く含まれる「動物性たんぱく質」と、大豆などに多く含まれる「植物性たんぱく質」があります。どちらも偏りなく食べると良いでしょう。

動物性たんぱく質

植物性たんぱく質

たんぱく質はどのくらい摂れば良いの?

1日に必要なたんぱく質の量は、「標準体重1kgあたり0.9~1.2g※2」で求められます。

※2 日本腎臓学会編:慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版

例えば、身長160cmの方の場合は、

標準体重(「身長[m] ×身長[m] × 22」で計算します)は、1.6m×1.6m×22=56.3kg

56.3kg×0.9~1.2g=50.7~67.6g≒50~70g となります。

⇒1日3食と考えると、計算上、1食分のたんぱく質の量は20gくらいが目安となります。

注)たんぱく質の量はあくまで目安です。その方の体格や合併する疾患の有無によっても異なります。透析施設でたんぱく質の量を具体的に指示されている方は、施設の指示に従い、食べる量を調整してください。

たんぱく質を摂るときの注意点

(1)たんぱく質の量と食品の重さは同じではありません!

「鮭の切り身1切れ70gのたんぱく質は70gなの?」

違います!
食品に含まれるたんぱく質の含有量は食品の重さと同じではありません。 食品成分表を後述しますが、計算するときには注意が必要です。

【答え】
鮭の切り身1切70gに含まれるたんぱく質の量は「15.6g」です!

例:「鮭定食」の1食分あたりのたんぱく質量※3

鮭定食

メニュー たんぱく質(g)
ごはん(小さめの茶碗一杯) 3.8g
味噌汁(豆腐・わかめ)※4 3.9g
焼き魚(鮭) 15.6g
冷奴 6.6g
おひたし(ホウレンソウ) 3.4g

このメニューのたんぱく質量は一例です。たんぱく質量は店舗や各メーカーによって異なりますので、一つのご参考としてください。

※3:文部科学省:日本食品標準成分表2020年版(八訂)、2020年

※4:味噌汁は、塩分や水分を控えている方は摂りすぎにご注意ください。

(2)リンの多い食品にも気を付けましょう!

たんぱく質の多い食品にはリンも多く含まれるため、一つの食品に偏らず、いろいろな食品から摂ると良いでしょう。

リンの摂り方については「これだけは知っておきたい食事管理のポイント」をご参照ください。

(3)欠食するのを避けましょう

いつも1日に2食だったり、「体重の増えが気になるから1食ぐらい食べなくてもいいや」と欠食したりしてしまうと、必要な栄養が不足し、体重が減ってしまいます。 つまり、体が瘦せて筋肉の量が減り、筋力も低下してしまうおそれがあります。
少しずつでもいいので、朝・昼・夕と1日3食は必ず食べるように心がけましょう。

(4)「主食だけ」の食事に注意しましょう

かけうどんやかけそば、おにぎりや食パンは手軽で「昼食にさっと食べる」のにも便利です。
欠食するよりは少しでも食べたほうが良いのですが、このような食べ方を続けてしまうと、筋肉のもととなる「たんぱく質」のほか、「ビタミン」などの栄養素も不足するおそれがあります。

これらを食べるときは、ちょっとした工夫で手軽にたんぱく質の量を増やすことができます。次のレシピを参考に試してみましょう!

<手軽にちょい足し!たんぱく質アップレシピ>

(例)かけうどんの場合

かけうどん

<ワンポイントメモ>

    サラダチキン

  • 鶏のささみは、ほぐし身として販売されているものもあります。また、スーパーやコンビニで売られている「サラダチキン(鶏むね肉を蒸して味付けしたもの)」はそのまま食べられますので、代用しても良いでしょう。サラダチキンはしっかりと味付けしてありますので、サラダチキンを具材として使う場合にはつゆの量を調整するなど、他の食材での減塩を心がけましょう。
  • 油揚げは刻んだ状態で販売されているものもあります。時間がない場合や適度なサイズに切るのが手間な場合は、刻んだものを利用するのも良いでしょう。
    味付きのものもありますが、味付けしていないものを選びましょう。

(例)おにぎりの場合

おにぎり

<ワンポイントメモ>

  • おにぎりの具によってもたんぱく質の量は異なります。
    梅や昆布より、鮭やツナマヨのほうが良質なたんぱく質が多く含まれています。
  • 上の例のように、おにぎりと一緒におかずを食べると、栄養バランスが良くなります。

(例)食パンの場合

食パン

<ワンポイントメモ>

  • ツナマヨは、汁気を切ったツナ缶とマヨネーズをあえたものです。ツナの代わりにゆで卵とマヨネーズをあえたものを挟んだり、トースト(6枚切り1枚)に乗せたりしても良いでしょう。
  • 塩分が多くなるため、ツナマヨに塩は入れないようにしましょう。辛味が好きな方は、パンにマスタードを少し塗るのも風味が増すためお勧めです。
  • 千切りキャベツなどを挟んだり、乗せたりしても良いでしょう。
  • ツナマヨはチューブ状のものがジャムコーナーなどで販売されています。手軽に利用できますが、ツナ缶よりもたんぱく質の量は少なくなります。また、塩分の過剰摂取にならないよう使う量に注意しましょう。

(注意!)ここで紹介した食品の分量や成分は、販売店や製造販売メーカーにより異なる場合がありますので、あくまで参考値の一つとしてご参照ください。

(5)たんぱく質だけでなく、食事バランスも考慮しましょう

せっかくたんぱく質を心がけて摂取しても、「主食を食べずにおかずだけ」のような食べ方をしていると、エネルギーが不足して筋肉のたんぱく質が分解され、筋肉が減ってしまいます。
食事バランスの詳細については「コンビニ食の選び方」をご参照ください。

最後に…

「この食事で栄養は足りているのかな?」と思った方、食品に含まれるたんぱく質の量を詳しく知りたい方は、日常的によく使う食品の100gあたりの成分が記載されている「食品成分表」を参考にしてください。
たんぱく質の量を手軽に計算できるサイトやアプリなどもありますので参考にするのもよいでしょう。
また、各々の透析施設の管理栄養士にもご相談ください。

近頃は、プロテインパウダーやサプリメントなど、たんぱく質を強化したさまざまな食品が販売されています。これらを使用する際には、必ず、透析施設の医師や管理栄養士、看護師にご相談の上ご利用ください。基本的には肉や魚などの食品から摂取することをお勧めします。

毎日完璧な食事内容を目指すのは難しいことです。
食事は継続することが大切なので、できるところから試していきましょう。

食事の「量」だけでなくその「中身」も考え、筋肉を減らさず維持し、快適な透析生活が送れるよう心がけてみましょう。