私の透析体験談
このコーナーでは、仕事や趣味などを通じて充実した毎日を過ごされている透析患者さんにご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

私の透析体験談 Vol.6
透析しながら料理も食事も楽しみたい!
自分に合った食事の摂り方で、毎日の食事を楽しんでいます。

朝倉 めぐみ(あさくら めぐみ)さん(56)血液透析歴  13年 写真
イラストレーターとして国内外で活躍される朝倉めぐみさんは、食べることが大好きでレシピ本を書かれるほどのグルメ。
30代半ばで医師から透析の可能性を告げられてからは、食事療法の本を何冊も読み、栄養士の指導も受けて、試行錯誤の上でご自身に合った食事の摂り方を見つけられました。
朝倉さんは「食べる量を減らして全体の栄養バランスに気をつければ、食べたいものは何でも食べて大丈夫」と話します。そんな朝倉さんに、「食」を楽しみながら透析療法を長く続けられる秘訣をうかがいました。

朝倉 めぐみ(あさくら めぐみ)さん(56)
血液透析歴 13年

イラストレーターとして国内外で活躍される朝倉めぐみさんは、食べることが大好きでレシピ本を書かれるほどのグルメ。
30代半ばで医師から透析の可能性を告げられてからは、食事療法の本を何冊も読み、栄養士の指導も受けて、試行錯誤の上でご自身に合った食事の摂り方を見つけられました。
朝倉さんは「食べる量を減らして全体の栄養バランスに気をつければ、食べたいものは何でも食べて大丈夫」と話します。そんな朝倉さんに、「食」を楽しみながら透析療法を長く続けられる秘訣をうかがいました。
透析開始前は毎日3食、食事内容を書き出す日々
朝倉 めぐみ(あさくら めぐみ)さん(56)血液透析歴  13年 写真1

――
透析を始められたのはいつ頃のことですか?
透析は42、3歳の頃に始めましたが、腎臓は子どもの頃からもともと悪くて、20代の頃にはネフローゼ症候群と診断されていました。
――
では、お若い時から食事には気をつけていらしたのでしょうか。
いいえ、全然。私はとにかく食べることが大好きで、特にイラストレーターの仕事をするようになってからは食べ過ぎたり、お酒を飲み過ぎたりしてしまうこともしばしばありました。仕事もハードで30代の半ばに体調を崩して数カ月間入院しまして、その時にこのままでは透析を始めないといけないと告げられました。食事に気をつけるようになったのはその時からです。
――
食事ではどのようなことに気をつけていらしたのでしょうか。
透析になったら美味しいものが食べられなくなると思って、できるだけ透析を遅らせたくて食事療法の本を何冊も読んで私なりに勉強しました。栄養士さんにもいろいろ教えていただきましたが、担当の栄養士さんが「まずは自分が食べているものを知るべき」と食事のカロリーや塩分、たんぱく質を計算して書き出してくださったのを見て、私も同じことをするようになりました。
毎日3食を詳しく記録したノート
毎日3食を詳しく記録したノート

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食べたものを細かく記録されるのは大変な作業だったのではないでしょうか。
その時は毎日3食、全部記録していましたね。料理する前に食材の重さを計って、食べ終わったらカロリーや塩分、たんぱく質、カリウムなどを計算してノートに記録して。でもこの作業がとても大変で・・・、1回分の食事で2~3時間、1日にすると9時間くらいかかりました!外食する時も秤を持参して、食べる前と後でお皿ごと秤に載せて重さを計ったりもしました。

1年ほど頑張ったのですが、全部書きとめるのはとても大変でストレスになってしまい、作業はやめてしまいました。けれども、そのお陰で今では料理や食品のカロリーがどのくらいで、塩分やたんぱく質がどのくらい含まれているかが大体分かるようになりました。透析を始めることになった時はとてもショックでしたが、その時には「私はこれだけ頑張ったのだから、もういいかな」と思えました。
――
透析を始められた後、身体に変化はありましたか。
透析を始めてから身体はとても楽になりましたが、それでも食事に気を配らなければならないことには変わりません。実は透析している今も、月2回の検査の結果が悪かった時は自分への反省も込めて食べた物を書き出しているんです。ノートはもう何十冊にもなりました。

検査の数値にはやっぱり食べたものがダイレクトに反映されてしまうのです。だから、数値が悪かった時は食べているものを書き出して、「これだけ食べているから数値が上がるのは当然かな」と反省することもあります。

それに最近では酢豚や肉じゃが、焼きそばといった料理のカロリーや栄養素の目安がネット上で検索するとすぐ出てくるので、計算も楽になりました。大手のファストフード店などではメニューの栄養成分表にカリウムやリンが表示されることも多くなってきましたし、コンビニやお弁当、外食の料理にもこうした細かい表示が広がっていくと嬉しいです。
自宅で食事会、大皿料理をシェアなどの工夫で食べる量を調整
ベルリンにてランチを楽しむご様子
ベルリンにてランチを楽しむご様子

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食べたものを書き出して見直すことで自分に合った食事の摂り方が分かるようになるのですね。
私の場合は自宅で仕事をしていますし、運動量が少ないのでエネルギーはあまり気にせず、リンやカリウムの摂り過ぎに気をつけるようにしています。

私は、透析をしていても基本的には食べてはいけないものはないと思うんです。大好物のチーズをリンが多いからといって食べるのを諦めたくありません。そこで、何でも食べられるように一つ一つの食材や料理を少しずつ食べて、1日の全体的な栄養素のバランスをとるようにしています。

また、仕事関係で外食することも多いので、外食する時は朝の食事は極力減らし、お昼や夜に食べ過ぎてしまったら次の日の朝も減らすなどで調整しています。
――
食事の量を減らすのに何か工夫はされていますか。
自宅では主人と同じものを作って食べていますが、私が食べる分は自分用に小さく切って食卓に出しています。また、お店で料理を注文する時は、コース料理ではなく、みんなとシェアできる大皿料理を選んでいます。そうすれば自分が食べられる量だけ取り分ければいいので、みんなと同じ食事を楽しめますよ。

最近では自宅で友人たちと食事する機会も増えました。私は料理も好きなので、おつまみを作る時に少しつまむ程度にして食事中はあまり食べないんです。味も分かっているのでつまむ程度で満足なんです。外で食事を残すのは失礼ですが、自宅なら気兼ねなく少しの量だけ食べられるので、自宅で食事会をするのは私に合っているようです。
ハンブルグ透析室でのご様子
ハンブルグ透析室でのご様子

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食べたいものを我慢しない食事を長く続けるために、他に気をつけていることはありますか。
毎日、主治医の先生から処方された薬をきちんと飲むようにしています。私がこうした食生活を続けていられるのも、お薬に助けられているところが大きいです。外食などで薬を飲み忘れたりすると、その後の検査の結果はやっぱり悪い。きちんと薬を飲むことの大切さはぜひお伝えしたいです。
料理好きが高じてレシピ本も出版、仕事や趣味に邁進!
ご自身のエッセイ、レシピ本、挿絵
ご自身のエッセイ、レシピ本、挿絵

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朝倉さんはイラストレーターですが、イラストだけでなく文章もお書きになられるそうですね。
はい。料理好きが高じて透析をしていても食事を楽しむ生活を綴ったエッセイや大好きなサンドイッチのレシピをまとめた本も出版しています。挿絵では今年も「オペラ・ギャラリー50 改訂版」(石戸谷結子ほか著、学研プラス)を出しました。
ウクレレを弾いているご様子
ウクレレを弾いているご様子

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繊細なタッチのイラストですが、手描きですか。
私の絵は切り絵なんですよ。手描きした線に色紙を貼って描くことが多いです。左利きなのでシャントは右手に作っていただいていますが、最近は動かさないせいか右手がしびれることもあって・・・。そんな中、ひょんなことから1年前にウクレレを習い始めたのですが、ウクレレを弾くことで右手を動かすことが多くなりました。それがリフレッシュとなっているのか、身体にも精神的にも良い影響となっているようで、最近では右手の痛みが少し軽くなってきたように感じています。
――
透析治療とお仕事や趣味との両立は大変ではないでしょうか。
私は自宅で夜遅くまで仕事をすることも多いので、週3日の透析治療の時間は睡眠や休憩に充てることで両立できています。ただ、例えば土日で旅行に行こうとなっても、透析があるので急にはなかなか無理で、気軽には行けないといった制限はありますね。特に海外旅行では透析施設を回れるように事前に決めたルート以外はなかなか冒険できないといったところもありますが、治療することで旅行までできることに感謝しています。
まずは自分が「どう食べたいか」を知ることが大切
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最後に、透析療法をこれから始められる患者さんに何かアドバイスをいただけますか。
これから透析療法を始められる方が一番不安に感じられるのは、たぶん食事のことではないでしょうか。私は透析を始めたら友人が食事に誘ってくれなくなるのではないかと不安でした。でも、親しい友人は私の病気を理解して、自由に食べたりお酒を飲んだりできないことも知ったうえで、以前と変わらず食事に誘ってくださいますし、先ほど申し上げたような好きなものを食べ続ける工夫も見つけることができました。

食事療法の進め方は、その基本さえしっかりと押さえていれば人それぞれ違っていいと思います。「リンやカリウムが多く含まれている食べ物は食べない」と決めてしまったほうが楽な場合もあるでしょう。でも、もし私みたいに食べることを楽しみたい人は「あれはダメ、これはダメ」と食べてはいけないものを決めてしまわずに、それぞれの食べ物に含まれる塩分やカリウム、リンなどの量を知ったうえで、ほんの少しだけ食べて楽しむという方法もあると思います。

まずは自分が必要な食事や栄養素の量と自分がどう食べたいか、どう楽しみたいかを知ることが大切です。そのためには栄養士さんに積極的に相談するのもよいでしょう。思い切って「私はこれが食べたいんですが」と相談してみるといいと思います。
朝倉 めぐみ(あさくら めぐみ)さんのプロフィール
出版社勤務を経て、ロンドンに留学後、イラストレーターとして装画・挿絵のほか、絵本や版画制作にも取り組む。

「ブリジット・ジョーンズの日記」(ヘレン・フィールディング著、ソニー・マガジンズ、1998年)、「イタリアン・カプチーノをどうぞ~幸せが天から降ってくる国~」(内田洋子著、PHP文庫、1998年)などの挿絵が好評を得て、数々の作品を手がける。
最近ではイラストだけでなく自身のエッセイやレシピ本「何を食べても大丈夫! 透析しながら食道楽」(飛鳥新社、現在絶版)、「スプレッドが決め手のサンドイッチ」(世界文化社)を出版している。
その他にも海外で透析をしながらのスケッチ旅行がベースになった「グリム童話で旅するドイツ・メルヘン街道」(沖島博美共著、地球の歩き方GEM STONE)などがある。
監修医からのアドバイス
昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門 客員教授 秋澤 忠男 先生

昭和大学医学部内科学講座 腎臓内科学部門
客員教授
秋澤 忠男 先生

朝倉さんは、透析に入られる前から食事に気をつけ、食べたものを全て書き出して、食事内容をチェックされていたそうです。その作業には大変なご苦労があったことでしょうが、こうした努力をされたことで、ご自身の生き方に合った食事の摂り方を見つけることができたのは大変すばらしいことだと思います。

透析患者さんの食事の摂り方は難しいと思われがちですが、朝倉さんがおっしゃるように、透析患者さんだからといって食べてはいけないものは特にはありません。バランスの良い食事を心掛けることが大切です。透析患者さんは塩分やリン、カリウムなどの摂りすぎに注意が必要ですが、調理方法や食べ方によってそれらの量を減らすことができます。

あれは食べてはいけない、これも食べてはダメと食べるものを制限してしまうと、食事を楽しむことができませんし、また過度な食事制限は長続きしません。食べる量さえ気をつければ、透析患者さんでも美味しいもの、好きなものを食べることができます。

食事療法を食事制限と捉えるとそれを実行するのはつらいでしょうが、自分の体に合った食事を摂ることと思えば、気持ちが楽になるでしょう。食事療法を無理なく進めるには、ご自身の生活や好みに合った食事の摂り方をみつけて、それを実行することが大切です。食事療法の基本を守りながらも無理のない食べ方で、毎日の食事を楽しんでください。
朝倉さんは、透析に入られる前から食事に気をつけ、食べたものを全て書き出して、食事内容をチェックされていたそうです。その作業には大変なご苦労があったことでしょうが、こうした努力をされたことで、ご自身の生き方に合った食事の摂り方を見つけることができたのは大変すばらしいことだと思います。

透析患者さんの食事の摂り方は難しいと思われがちですが、朝倉さんがおっしゃるように、透析患者さんだからといって食べてはいけないものは特にはありません。バランスの良い食事を心掛けることが大切です。透析患者さんは塩分やリン、カリウムなどの摂りすぎに注意が必要ですが、調理方法や食べ方によってそれらの量を減らすことができます。

あれは食べてはいけない、これも食べてはダメと食べるものを制限してしまうと、食事を楽しむことができませんし、また過度な食事制限は長続きしません。食べる量さえ気をつければ、透析患者さんでも美味しいもの、好きなものを食べることができます。

食事療法を食事制限と捉えるとそれを実行するのはつらいでしょうが、自分の体に合った食事を摂ることと思えば、気持ちが楽になるでしょう。食事療法を無理なく進めるには、ご自身の生活や好みに合った食事の摂り方をみつけて、それを実行することが大切です。食事療法の基本を守りながらも無理のない食べ方で、毎日の食事を楽しんでください。

取材実施日:2017年10月25日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです

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