毎日透析治療をされている皆さまだからこそ知っておいていただきたい「透析治療」について専門医が解説します。
腎臓の働き~透析療法とは?
透析療法を始める際に、主治医の先生や看護師などから透析療法の基本的な知識についてお話があったと思いますが、ここでは復習の意味で、腎臓の働きから簡単にご説明します。
腎臓の働きとは?
腎臓に「尿をつくる(老廃物を排泄する)」働きがあることはよく知られていますが、その他にも、
- 「水分や電解質(ナトリウム、カリウム、リン他)などの、からだの中でのバランスを整える」
- 「血圧を調節する」
- 「からだで働けるビタミンDをつくり(活性化)、骨を丈夫に保つ」
- 「赤血球をつくる働きを助ける」
など、目に見えないさまざまな働きをしています。
腎臓は、わたしたちのからだを正常に保つために、とても重要な臓器です。
腎臓の働きが悪くなると・・・
こうした多彩な作用をもつ腎臓の働きが悪くなると、からだがむくんだり、血圧上昇、貧血、夜間多尿・・・といったさまざまな症状が現れ、やがて心臓の働きが悪くなったり、意識障害や呼吸困難などの尿毒症となり、放置すると死に至ることになります。
腎臓の働きが慢性的に低下した状態を「慢性腎不全」と呼びます。
慢性腎不全になると腎機能の回復は見込めず、食事療法や投薬によってその進行を止めたり、遅らせる治療を行います。
<<腎臓の働きはどうやって判断するの?>>
腎臓の働きがどの程度低下しているのかは、腎臓が1分あたりどのくらいの量の血液をろ過し、尿をつくれるかで推測することができます。
この指標を「推算糸球体ろ過量(eGFR)」といいます。
eGFRは、年齢や性別、血清クレアチニン(血液中の老廃物の一種です)の値から算出します。
eGFRは正常では90 mL/分/1.73m²以上です。
蛋白尿などの腎臓の障害、eGFRが60mL/分/1.73m²未満の腎機能低下のいずれか、または両方が3カ月以上持続した状態になると、「慢性腎臓病(CKD)」と診断されます。
慢性腎不全はCKDが進行した状態です。
eGFRが15mL/分/1.73m²未満のCKDステージ「G5」は『末期腎不全』と呼ばれ、この段階になると透析療法や腎移植が必要となります。
eGFR値と腎機能の程度
GFR区分 | G1 | G2 | G3a | G3b | G4 | G5 |
---|---|---|---|---|---|---|
eGFR値 (mL/分/1.73m²) |
90以上 | 60~89 | 45~59 | 30~44 | 15~29 | 15未満 |
腎臓の働きの程度 | 正常または高値 | 正常または 軽度低下 | 軽度~中等度低下 | 中等度~高度低下 | 高度低下 | 末期腎不全 |
尿毒症の症状が現れ始める | 透析などの腎代替療法の準備 |
GFR区分
eGFR値(mL/分/1.73m²)
腎臓の働きの程度
GFR区分
eGFR値(mL/分/1.73m²)
腎臓の働きの程度
GFR区分
eGFR値(mL/分/1.73m²)
腎臓の働きの程度
GFR区分
eGFR値(mL/分/1.73m²)
腎臓の働きの程度
GFR区分
eGFR値(mL/分/1.73m²)
腎臓の働きの程度
高度低下
尿毒症の症状が現れ始める
GFR区分
eGFR値(mL/分/1.73m²)
腎臓の働きの程度
末期腎不全
透析などの腎代替療法の準備
※腎臓病の重症度は、腎臓の働きの程度だけでなく、糖尿病や高血圧、腎炎などの腎臓病の元となる病気やたんぱく尿の状態を合わせて評価します。
〔参考文献〕
日本腎臓学会編「CKD診療ガイド2012」、東京医学社
http://www.jsn.or.jp/guideline/ckd2012.php
「透析療法」を始めるタイミングは?
治療や管理を行っても腎機能の低下が進行して「末期腎不全」の状態になり、自分の腎臓で生命を保てなくなると、腎臓の働きを補うために透析療法や腎移植といった腎代替療法が必要となります。
透析療法の開始時期は、年齢や原因疾患のほか、臨床症状、日常生活の支障度など、さまざまな情報をもとに総合的に判断します。
とくに、「尿毒症」という症状が出始めたら注意が必要です。
全身のむくみや呼吸困難、食欲不振や吐き気などの消化器症状や、重篤になるとけいれんや意識障害などが現れることがあります。
注意が必要な症状
- からだに水分がたまる(全身のむくみ、腹水・胸水など)
- 呼吸困難(心不全や肺水腫など)
- 吐き気や食欲不振、下痢などの消化器症状
- 重度の高血圧
- 頭痛、重篤になるとけいれんや意識障害
- 手足のしびれ、むずむず、灼熱感などの神経症状
- 貧血による倦怠感や出血傾向
- 視力障害
「透析療法」はどうして必要なのでしょうか?
透析療法とは、人工的に血液中の余分な水分や老廃物を取り除き、血液をきれいにする働きを腎臓に代わって行う治療法です。
透析療法には、機械に血液を通してきれいにする「血液透析」と、患者さんご自身のお腹の膜(腹膜)を利用して血液をきれいにする「腹膜透析」の2つに大きく分けられます。
注意が必要なのは、これらはいずれも腎臓の働きの一部を補うもので、完全に代行できるものではないことです。
透析療法では補えない部分は、患者さんご自身で食事管理や服薬を守ることが必要です。
血液透析(HD)のしくみ
血液透析では、血液を血管からからだの外に取り出し、ダイアライザーと呼ばれる透析器(人工膜)を介して余分な水分や老廃物を取り除き、必要な物質を補充して、きれいになった血液を再び体内に戻します。
通院は週2~3回で、治療時間は1回あたり4〜5時間程度です。
動脈と静脈を皮下でつなぎ合わせて(内シャント)太い血管をつくり、血管に血液がたくさん流れるようにして血液を取り出します。
この内シャントなどの血液の通り路(バスキュラーアクセス)を長持ちさせる管理も大切になります。
血液透析は数十年間、長く続けられる治療法ですが、食事や水分摂取制限などを患者さん自身でしっかりと管理する必要があります。
シャント(バスキュラーアクセス)とは?
血液透析を行うには、速いスピードで血液を血管から取り出す必要があります。そのため、通常は手首近くの血管を手術し、十分な血液流量を得るために新しい“血液の通り路”をつくります。
この血液をいったん体外に出し、ダイアライザーを通過させて再び体内に戻す血管の出入り口を「バスキュラー(血管)アクセス」と呼びます。
維持透析患者さんのバスキュラーアクセスは、ほとんどが自己血管による「内シャント」と呼ばれるものです。この内シャントでは、腕の動脈と静脈を皮下で直接つなげて静脈に多くの血液が流れるようにして血管を太くし、太くなった血管に針を刺して血液を取り出したり、体内に戻します。
患者さん自身の血管が細い場合や(糖尿病患者さんや高齢の患者さんでは血管が細い場合が少なくありません)、長期にわたる透析で手術を繰り返し、内シャントをつくる血管がなくなった場合など、自分の血管で内シャントがつくれない場合は人工血管が用いられることもあります。
手術には1~2時間ほどかかります。また、穿刺を開始するには、内シャントをつくってから2週間ほどの期間を要します。
シャントは、血液透析患者さんの“命”です。
シャントの種類は患者さんの将来にも影響を及ぼすという研究報告もあります。
シャントには、閉塞や感染症などの合併症が生じる可能性もありますので、シャント側の腕で重い物を長時間もたない、シャントを圧迫しない、シャント部位を清潔に保つといった注意を払い、自分の血管の内シャントを少しでも長く使えるように心がけることが必要です。
腹膜透析(PD)のしくみ
腹膜透析は、患者さん自身の腹膜を使って、体内で血液をきれいにする治療法です。
お腹の中に透析液を一定時間入れておくと、腹膜を介して血液中の余分な水分や老廃物が透析液側に移動します。その透析液をからだの外に出すことで血液をきれいにします。
透析液の交換は、1日4回程度、患者さん自身や介護者の方がご自宅や職場で行います。機械を用いて睡眠中に自動的に透析液を交換する方法もあります。
通院は通常、月に1~2回で済みます。
腹膜透析では、透析液を出し入れするため、お腹に直径5~6ミリほどの専用のチューブ(カテーテルと呼びます)を埋め込みます。
この手術には1時間ほどかかり、おへその下あたりからカテーテルを埋め込みます。また、カテーテルの端はからだの外に出しておく必要があります。
このカテーテルの出口部は細菌による感染症を起こしやすいため、患者さん自身の自己管理が大切です。
出口部とその周辺を1日1回以上確認し、感染予防のために消毒や洗浄によるケアを行います。
腹膜透析は、患者さんご自身の腹膜を使って行う治療法のため、続けられる期間は血液透析に比べ限定されますが、カリウムの制限は血液透析よりも緩やかです。
血液透析と腹膜透析にはそれぞれメリット・デメリットがあります。
患者さんご自身やご家族の生活を考慮したうえで、主治医や看護師などのスタッフと十分に話し合いながら、それぞれの特徴を最大限に生かした選択を行いましょう。
〔参考文献〕
日本腎臓学会編「CKD診療ガイド2012」、東京医学社、2012年
秋澤忠男編「やさしい透析患者の自己管理 改訂4版」、医薬ジャーナル社、2013年
秋澤忠男著「腎臓病と最新透析療法-より快適な透析ライフを送るために-」、ゆまに書房、2008年