透析について考える

このコーナーでは、透析患者さんの治療や暮らしを支える医療従事者の方にご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

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透析サポーター インタビュー Vol.1
透析看護師は、患者さんに寄り添う「身近な存在」
患者さんが安心できる場所を提供したい。

小手田 紀子さん 写真
透析医療を支えるさまざまな職種の中でも、患者さんと接する時間が長く、最も身近な存在ともいえるのが「透析看護師」です。では、その透析看護師はどのように治療に関わり、患者さんをサポートしているのでしょうか。
長年、透析医療の現場で活躍され、多くの患者さんを支援し続けている小手田紀子さんに、透析看護師の役割や患者さんとの関わり方、そして患者さんへのメッセージを中心にお話しをうかがいました。

三愛記念病院 総看護部長 慢性腎臓病療養指導看護師
小手田 紀子さん

透析医療を支えるさまざまな職種の中でも、患者さんと接する時間が長く、最も身近な存在ともいえるのが「透析看護師」です。では、その透析看護師はどのように治療に関わり、患者さんをサポートしているのでしょうか。
長年、透析医療の現場で活躍され、多くの患者さんを支援し続けている小手田紀子さんに、透析看護師の役割や患者さんとの関わり方、そして患者さんへのメッセージを中心にお話しをうかがいました。
チーム医療の一員として患者さんの透析生活をサポート
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まず、透析看護師のお仕事について教えていただけますか。
透析看護師は、患者さんが血液透析を開始される前から終了後まで、さまざまな場面で治療に関わっています(図1)。まず、透析前には装置を準備します。患者さんがいらしたら、体重や血圧を測定し、聴診器で内シャント音を聴取し異常がないかを確認して穿刺を行います。確認する項目の中でも「体重」は重要です。ドライウェイト(透析で余分な水分を除去した後の適正体重)から体重が何キロ増えているかを確認し、増えすぎていたら医師に相談します。
図1 透析治療の流れと看護師の業務

図1 透析治療の流れと看護師の業務

注)プライミング:透析回路とダイアライザ(透析器)を組み立てて、回路内を生理食塩水で洗浄し、治療が開始できる状態にすること
篠田俊雄, 萩原千鶴子 編「基礎からわかる透析療法パーフェクトガイド 改訂第2版」、学研メディカル秀潤社、2017、p.76

また、治療中はフロアを見回って、血圧が下がっている方はいないか、気分が悪くなっている方はいないかなど、患者さんの状態に常に気を配ります。治療が終わったら、患者さんの様子に気をつけながら返血(きれいになった血液が体内に戻っていくこと)の操作や抜針、止血を行います。腹膜透析の場合も同様に、透析液のバッグ交換や機器の操作から治療全体をサポートします。そのほかにも患者さんの健康管理や生活指導も行っています。
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とても幅広く治療に関わっておられますが、中でも最も気をつけていることはどのようなことですか?
「患者さんが透析治療をきちんと受けられる状態にあるか」ということを注意深く見ています。それを知るには、患者さんのその日の状態を正確に把握することです。私はいつも、患者さんが来院されたときには、「おはようございます」「こんにちは」と積極的に声を掛けています。患者さんの反応から「いつもと様子が違うかな?」と思ったときには、「何かありましたか?」と尋ねるようにしています。そのやりとりの中で、患者さんの不調に気づけることもあります。

その後も、体重や血圧を測定するときには顔色や呼吸状態、表情などを観察したり、透析中も1時間ごとに血圧などのバイタルサインを測定したり、常に患者さんの様子に気を配っています。そうすることで、万一トラブルが生じても、すぐに適切な対応ができるようにしています。

また、看護スタッフには、身体が不自由な患者さんには荷物を持って差し上げたり、スリッパを出すのをお手伝いしたり、自然とこのような心配りができるように指導しています。
小手田 紀子さん 写真1
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患者さんの健康管理や生活指導はどのように行うのでしょうか。
透析療法を続けていくには、体重や食事内容、服薬などを患者さんご自身で管理しなければなりません。日常生活で気をつけなければならないことも多く、透析を始められたばかりの患者さんは検査データの見方から覚える必要があります。私たち看護師は、患者さんの疑問や不安に一つ一つ丁寧にお応えし、きちんと自己管理ができるようにサポートします。疑問があったら何でもお尋ねください。

また、病院にはさまざまな透析医療のサポート職がいます。治療のことであれば医師、薬については薬剤師、食事療法については管理栄養士がしっかりと説明します。適切な専門スタッフをご案内しますので、安心して看護師に声をかけてください。なお、当院では、これらの各サポート職の視点から病気の説明や治療法、日常生活の注意点などをまとめた患者さん向けの冊子(写真)を作成し、お配りしています。
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透析治療はさまざまな職種のサポーターで支えられているのですね。
その通りです。透析患者さんが安心して透析生活を続けていくためには、医師や看護師、薬剤師、臨床工学技士、管理栄養士、医療事務などのさまざまな専門スタッフが協力し合う「チーム医療」が不可欠です(図2)。これら多職種のサポーターが患者さん一人ひとりを取り巻くかたちで診療を行っています。
図2 透析療法は多職種による「チーム医療」

図2 透析療法は多職種による「チーム医療」

透析看護師は、このチーム医療の中で患者さんとご家族をサポートするように心掛けています。患者さんの状態などをチーム全体に伝えて情報を共有し、何かあればチーム全員で迅速に対応できるように調整しています。

また、患者さんの側で長い時間、寄り添うことも看護師の役割です。常に患者さんとご家族の心に寄り添い、その声に耳を傾け、安心して透析生活を続けていただけるようお手伝いしていきたいと思っています。
透析看護は患者さんとの「信頼関係」が鍵
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透析看護に携わるきっかけについて教えていただけますか。
透析看護に携わったのは、結婚、出産を経てから当院に就職したことがきっかけでした。透析看護はそれまでの看護の職場と違って、患者さんと週に3回、毎週会えます。すると、患者さんの様子がいつもと違えば、「何かあったのかな?」とすぐに気づけるようになってくるんです。

それに、透析患者さんは糖尿病や高血圧があったり、がんになられたり、転倒して骨折した方などいろいろな患者さんがいらっしゃいます。上司や先輩の指導を受けながら、さまざまな事情を抱えた患者さんの看護を続けていくうちに、やり甲斐も感じ始めました。こうした経験を重ねるうちに、患者さんと出会って、患者さんの人生と共に歩んでいくことで、私自身も成長できることが醍醐味になっていきました。
小手田 紀子さん 写真2

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とてもやり甲斐のあるお仕事なのですね。
そうですね。危険な状態にあった患者さんを透析療法で助けることができたときや、患者さんから親子関係のことなどプライベートな相談を受けて私のアドバイスが役立ったとき、そして患者さんに「ここに来るだけで安心する」と言われたときなど、「透析看護師を続けていてよかった」と思います。そうしたことが励みになって、透析看護師を30年以上続けられてきたと思っています。
――
透析看護を続けていくうえで大切なことは何ですか?
患者さんと長くお付き合いしていくには、「信頼関係」を築くことが欠かせません。何十年とお付き合いしている患者さんの中には、私の性格まで把握されている方もいらっしゃるのではないでしょうか(笑)。

ただ、患者さんとの信頼関係を築くには、私たち医療者側が専門性の高い知識や技術を発揮して、患者さんに安全かつ最適な治療を提供することが大前提です。私たち透析看護師は、治療に関する知識だけでなく、メンタル面のサポートも含め、透析生活全般についてアドバイスできるよう日々研鑽に努めています。透析看護では「慢性腎臓病療養指導看護師(DLN)」と呼ばれる資格制度があり、現在1,000人以上の専門看護師が全国で活躍しています。
家族や周囲への感謝も忘れずに
小手田 紀子さん 写真3

――
患者さんからはどのような相談が寄せられますか。
「針を刺すのが痛い」とおっしゃる患者さんが多いですね。その際にはできる限り穿刺する時間を短くしたり、穿刺部分を保温して失敗しないようにしたり工夫しています。痛み止めのテープや局所麻酔など痛みを軽減する方法もありますので、どうしても我慢できないときには看護師に伝えてください。

また、透析後に疲労感を訴えられる患者さんも少なくありません。ほとんどの倦怠感は翌日にはなくなりますが、身体が重くて起き上がれない、休んでからでないと帰宅できないといった場合は、ドライウェイトが適正でなかったり、除水速度が速すぎたりしていることも考えられます。そのような場合は透析設定を見直すことなどで改善することもありますので、看護師に教えてください。
――
「足が不自由で通院に不安がある」など、治療以外の相談でもよいのでしょうか。
もちろんです。私たちで対応できないことがあっても、例えば、他に抱えている病気がある場合には医師に相談したり、送迎バスや介護サービス、福祉のことなどについては医療ソーシャルワーカーが相談にのったりします。治療に限らず、日常生活の不安や困った事があれば気軽に相談してください。

私たちのちょっとしたアドバイスで解決できることもあるかもしれません。また、少しでも不安を解消することが治療の継続にもつながります。
――
最後に、治療を続けている透析患者さんや、これから透析導入を始められる患者さんにメッセージをいただけますか。
ご自分に合った透析療法を選択し、治療を続けていくためには、患者さんご自身の努力だけではなく、ご家族の理解と協力が欠かせません。透析治療は「家族と一緒に受けるもの」と考え、治療について、ご家族と十分に話し合っていただきたいです。

お子さんがまだ小さければお子さんの成長を、ご夫婦二人の生活であればこれからのお二人の人生を考えながら、透析生活を続けていただければと思います。私たち医療者は、患者さんとご家族がお決めになった方法で、透析生活を全力でサポートしていきます。安心して透析生活を送ってください。

長い透析生活の中では、大変なこともあるかもしれません。そんなとき、患者さんご本人だけでなく、ご家族の方もきっと辛い思いをされているでしょう。困難に直面したときは、これまで患者さんを支えてくれたご家族のことを思い浮かべてください。「透析療法を頑張って続けてきてよかった」と思えるときが、きっとあると思います。そして、透析生活を支えてくださっているご家族や周りの方々への感謝の気持ちを忘れないでいただければと思っています。
注)慢性腎臓病療養指導看護師(DLN)
慢性腎臓病(CKD)の看護領域(CKD、血液透析、腹膜透析、腎移植)の看護を実践するにあたり、熟練した看護技術と知識を用いて高い水準の看護を実践すると認められた専門看護師を指す。
2003年度に設立され、現在は6学会合同(日本腎不全看護学会・日本透析医学会・日本腎臓学会・日本移植学会・日本泌尿器科学会・日本腹膜透析医学会)による認定資格となっている。

取材実施日:2019年8月26日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです

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