透析について考える

このコーナーでは、透析患者さんの治療や暮らしを支える医療従事者の方にご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

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透析サポーター インタビュー Vol.2
透析のために生きるのではなく、生きるために透析をする。
こうした患者さんの望みをどうやったら叶えられるか、一緒に考えていきたい。

伊丹儀友(のりとも)先生 写真

患者さん一人ひとりの体の状態や生活状況を把握し、最適な透析治療のプランを組み立てる透析医。治療の指揮者ともいえる透析医は、どのような考えを持って患者さんに接しているのでしょうか。
医師として40年、透析医として30年のキャリアを持つ伊丹儀友先生に、透析治療に対する想いや普段の診療で心掛けていることについてお聞きしました。

医療法人 友秀会 伊丹腎クリニック(北海道登別市)院長
伊丹 儀友(のりとも) 先生

患者さん一人ひとりの体の状態や生活状況を把握し、最適な透析治療のプランを組み立てる透析医。治療の指揮者ともいえる透析医は、どのような考えを持って患者さんに接しているのでしょうか。
医師として40年、透析医として30年のキャリアを持つ伊丹儀友先生に、透析治療に対する想いや普段の診療で心掛けていることについてお聞きしました。

腎臓病の子供を救いたい。透析医へ進むきっかけとなった一つの出来事
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伊丹先生はもともと小児科医だったそうですが、なぜ透析治療に携わるようになったのですか。
きっかけは、小児科医として携わっていた40数年前のある時、僕が担当していた子供の患者さんが腎臓病で亡くなったことでした。次第に病状が悪化していく中、何か他に治療法はないかと探していたところ、間欠的腹膜透析と血液透析という治療があることを知りました。そこで腹膜透析を試みたものの、結局、助けることができませんでした。1980年頃の当時はまだ透析治療が今のように充実していなくて、持続携行式腹膜透析(CAPD)も治験段階にあるような状況でした。私のいた北海道でも子供の患者さん向けの透析治療は確立されていませんでした。

そのつらい経験で自分の至らなさを痛感し、同時に、一人でも多くの子供の命を救うためには、透析治療を学び、経験を積む必要があると考えました。そして、北海道を離れ、東京女子医科大学で腎代替療法(透析や腎移植)を学ばせてもらいました。
その後、北海道に戻り、地域の基幹病院で勤務を始めた際、透析治療に詳しい医師ということで透析室での勤務となり、以来、透析治療に深く関わるようになりました。
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この30年、透析治療の進歩は目覚ましいものがありました。その歴史の中で、透析治療の劇的な進化を実感した出来事はありましたか。
いろいろありますが、やはり一番印象に残っているのは、小児科医であった自分にとっては1984年に在宅CAPDの保険適用が開始され、臨床へと広まったことですね。CAPDが登場したことで、水分管理の難しい5歳以下の小さな子供でも透析治療ができるようになったのです。これは腎臓病の治療を大きく変える、ものすごい出来事だと思いました。
透析前の80%の生活を。患者さんの生活の質(QOL)を重視した、厳しすぎない患者指導
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その後、2016年に現在のクリニックを開業され、腎臓病患者さんや透析患者さんの治療にあたっておられるそうですね。普段の診療の様子をお聞かせいただけますか。
当院では、透析患者さんだけでなく、透析を要さない一般の腎臓病の患者さんや末期腎不全の患者さんなども診察しています。そのため、腎代替療法の選択や透析導入時期に向けたカウンセリングなども行っています。
普段は、一般の患者さんの外来診察を行うほか、午前と午後に透析室の回診を行っています(写真)。回診では、患者さん一人ひとりと話しながら、体調に異常がないかを確認しています。その際は、「透析患者さんたちが日常生活を問題なく送られているか」を意識するようにしていますね。
伊丹儀友(のりとも)先生 写真
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体の状態だけでなく、患者さんのQOLも重視しているということですね。
僕の目標は、「透析患者さんが透析前の80%の生活を送られるようにすること」です。透析導入になると、患者さんは少なくとも1日4時間・週3回の通院が必要となり、それによって普段の生活にもいろいろな制約が生じてしまいます。
だからこそ、透析以外の部分では、できるだけ透析導入前と変わらない生活を送っていただきたいと思っていて、患者さんへの指導はあまり厳しくしすぎないようにしています。
「しっかり食べて、しっかり透析」を実現するために
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患者さんにはどのような生活を心掛けてもらっていますか。
当院の患者さんの大半は70歳以上の高齢者ということもあり、「食べること」を最優先に重視していただいています。元気で長生きするには、何といっても「しっかり食べて、しっかり透析する」ことが重要ですからね。
最近の研究では、透析患者さんの、特に透析日のカロリー不足が問題視されています。確かに午前に透析をする方であれば、診察時に体重増加を指摘されないよう、つい朝食を控えることもあるでしょうし、4時間の透析を終え、帰宅してから食事を摂ろうと思っても疲れていて食べることができなく、昼食と夕食を兼ねる形となってしまい、結局、1日1食あるいは2食しか食べないことになる。これでは、エネルギーが確保できないのも無理はありません。

そこで当院では、透析日の栄養不足を防ぐために、管理栄養士の監修のもと、透析中の食事を無料で提供しています。今は、新型コロナウイルスの感染リスクもあるので、持ち帰り弁当を用意していますが…。
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食事提供に対する患者さんの反応はいかがですか。
それはもう、大好評ですね。以前は仕出し業者が休みの日は、やむを得ず、近所の飲食店のカレーライスやカツ丼などを、小サイズで提供することもありました。これらは塩分の摂り過ぎなどに注意が必要なメニューではありますが、普段の食生活ではなかなか食べられないということもあって、患者さんからは大いに喜ばれますね。患者さんの食欲増進や体重増加につながるのであれば良いだろうと、前向きに捉えています。
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栄養制限を気にしすぎるばかりに食事量自体を減らすのは、本末転倒といえますからね。他に患者さんへの指導で心掛けていることはありますか。
患者さんに対しては、できるだけ注意するのではなく、褒めるようにしています。例えば、カリウム値やカルシウム値などの検査値が良かった人には、「たいへんよくできました」と書かれたオリジナルスタンプ(写真)を押したり、体重管理が良好な人には回診中に拍手をしたりしています。
たいへんよくできました 写真
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何歳になっても、褒めてもらえるのは嬉しいですよね。
ただ、たまに拍手の数が人によって多くなったりして、他の患者さんから「私の方が少なかった」と苦情を言われることもあります(笑)。オープンな透析室でのことですし、皆さん、しっかりと聞いているんですね(笑)。
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それだけ、先生の評価を心待ちにしている患者さんがたくさんいらっしゃるということですよね。
他にも、頭痛や腹痛などを訴える患者さんには、その症状がいつから起こっているのかは意識して聞くようにしています。1日おきに会っていても、よくよく聞くと3〜4日前から症状が現れていたという方もいるので、注意が必要です。症状を確認した上で、精査が必要な患者さんには、積極的に専門医を紹介しています。
「生きるために透析をしている」。希望をできるだけ叶えてあげたい
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長年にわたり透析医療を見つめてきた先生は、今の透析治療をどのように捉えていますか。
この30年で治療技術がすごく進歩したものの、まだまだ透析は「未熟」な医療だと思いますね。例えば、穿刺についても、麻酔薬などの開発により痛みが軽減されているとはいえ、やはり透析のたびに針を2本刺すのは患者さんにとってつらく残酷なことです。また、合併症も未だに完全に抑えられているわけではありません。
ただ、透析治療はこれからもさらに進化すると期待しています。僕としては、新しい技術や治療法が登場すれば、積極的に取り入れたいですし、良いと思う治療をいち早く患者さんに届けられるよう、怠らずに勉強を続けていきたいですね。
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最後に、患者さんへの応援メッセージをお願いいたします。
皆さんは、透析するために生きているのではありません、生きるために透析をしているのです。ですから、どうか、やりたいことを実現してください。「透析をしていなければ、やっていたであろうこと」が思い当たるようでしたら、遠慮なく主治医に相談してみてください。
どんなことでもいいのです。例えば、透析日にコンサートの予定があるのならば、翌日に透析日をずらすことができるかもしれません。僕たち透析医や医療スタッフは、常に、患者さんの願いを実現できる方法を何とか探したいと思っています。
伊丹儀友(のりとも)先生 写真

取材実施日:2021年1月28日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです(インターネットを利用したリモート取材)

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