透析について考える

このコーナーでは、透析患者さんの治療や暮らしを支える医療従事者の方にご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

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透析サポーター インタビュー Vol.4
薬を安全に、適正に飲んでいただけるよう、
表と裏の両面から患者さんをサポート。

平松 英樹 さん

医薬品全般について幅広い知識を持つ薬のスペシャリスト、薬剤師。医師の処方せんを元に調剤を行う職業、というイメージを持つ人が多いですが、実は見えないところでも薬剤の適正使用や適正管理のためにさまざまな業務を行っています。
薬剤師としてこれまで多くの患者さんと接し、現在は積極的に後進の育成にも努める鎌田直博さんに、薬剤師の具体的な業務内容についてお聞きしました。

特定医療法人 あかね会 土谷総合病院 薬剤部 薬剤師長
鎌田 直博 さん

医薬品全般について幅広い知識を持つ薬のスペシャリスト、薬剤師。医師の処方せんを元に調剤を行う職業、というイメージを持つ人が多いですが、実は見えないところでも薬剤の適正使用や適正管理のためにさまざまな業務を行っています。
薬剤師としてこれまで多くの患者さんと接し、現在は積極的に後進の育成にも努める鎌田直博さんに、薬剤師の具体的な業務内容についてお聞きしました。

薬は正しく服用して初めて効果を発揮する
――
薬剤師を目指したきっかけは何ですか。
中学、高校時代のある日、海外では貧困にあえぐ人びとがいることを知ったのがきっかけでした。栄養不良や病気になっても治療すらままならない状況に、何らかの形で貢献したいと思い、薬剤師を目指しました。ただ、薬剤師の資格を取った後は、日本で仕事をすることを選びました。大学卒業後は企業への勤務を経て、現在の病院に勤めてからは約30年になります。
――
薬剤師の主な業務を教えてください。
薬剤師の業務を一言でいうと「薬の適正使用」です。
病院薬剤師は、入院患者さんの薬の調剤、服薬指導を行うほか、当院では外来患者さんの薬の調剤も行っていますので、外来患者さんへの対応も行います。よく、保険薬局(調剤薬局)の薬剤師との違いを聞かれますが、「薬の適正使用」という観点で捉えるならば、業務内容は同じだと思います。
当たり前ではありますが、薬は指示通りに服用してはじめて効果を発揮します。例えば、リン吸着剤の多くは、食事に含まれるリンを吸着して体外に出す働きがあります。したがって、食事と一緒に服用する、つまり食事と混ざりあうように服用しなければ意味がありません。
――
飲み忘れに気づいて、食後しばらく経ってから飲んでも効果が低いということですね。
透析患者さんは、他の患者さんに比べて飲む薬の数や種類、飲むタイミング、飲み方が複雑です。たくさんある薬をまとめて飲みたくなるかも知れませんが、それぞれの薬の具体的な働きとともに「なぜこの薬をこの時間に飲まなければいけないか」を丁寧に説明することで、誤った服用を防ぐように努めています。
――
患者さんへ説明する際に配慮していることはありますか。
特に言葉選びは意識しています。専門用語をできるだけ使わずに、分かりやすく、患者さんが納得できるような説明を心がけています。また、患者さんによって、状態も状況もさまざまですので、その方に応じた説明や提案を行う必要があります。実際に、不眠のため多くの睡眠剤を服用していた患者さんとの会話の中で「入院中ですし、翌日に検査等特に無く昼に眠気があっても大丈夫ならば、睡眠剤を1つ減らしてみませんか、ただしその夜はあまり寝れないかもしれませんし、昼に眠くなるかもしれません」といろいろと試行錯誤をし、最終的に薬の数を減らすことに成功したケースもあります。
――
服薬指導だからといって一方的に伝えるのではなく、患者さんの反応をみながらふさわしい言葉で説明するということですね。
それ以外にも、薬の飲み忘れを防ぐための工夫として、携帯電話やスマートフォンのアラーム機能を使うことを患者さんにアドバイスしたり、注射剤への変更や、異なる作用を持つ2つの薬剤が合わさった「配合剤」への変更で、飲む薬の数や量を減らすように医師に提案したりすることもあります。
――
患者さんから見えない部分では、どのような仕事を行っていますか。
医師の処方が適正かどうかをチェックしています。特に、腎機能が低下している患者さんは一般の患者さんに比べて、薬の量を減らす必要があります。薬は体内に入ると、時間とともに肝臓や腎臓で無毒化(代謝)され、体から排泄されます。そのため、腎臓病の患者さんでは、薬が体に残ったままとなり、体に害を及ぼす恐れがあるのです。
――
前に飲んだ薬が体内に残ったままで次の薬を服用すると、過剰に摂取することになりますよね。
そこで、腎臓で代謝・排泄される薬が腎臓病患者さんに処方されている場合は、腎臓の状態を表すクレアチニンやeGFRなどの検査値から腎機能を判断し、薬が体内に残る時間と量を計算した上で、必要に応じて「このぐらいの量に減らしてください」と医師に伝えます。投与量を細かく決められるのも、機能を数値化できる腎臓だからできることです。場合によっては、肝臓で代謝される薬への変更を提案することもあります。
さらに、透析患者さんの場合は、腎機能に加えて、透析によって薬がどれだけ除去されるかも考慮しています。
――
医師と薬剤師の連携が取れているのですね。
当院は総合病院なので、いろいろな診療科に腎機能が低下した患者さんが来られますし、透析患者さんが他の診療科にかかることもよくあります。私たち薬剤師がこうしたチェックをすることで、腎臓病が専門でない医師も安心して処方できるようになればと思っています。
栄養と薬には深い関係が。幅広い知識で患者さんをフォロー
――
腎臓病療養指導士の資格を取得されているそうですが、これはどのようなものですか。
腎臓病療養指導士は、日本腎臓病学会をはじめ国内の5学会が共同して立ち上げた資格制度です。この制度は看護師・保健師、管理栄養士、薬剤師が、それぞれの専門分野を超えて、腎臓病患者さんの看護や栄養、薬剤についての幅広い知識を習得し、指導できるようにすることが目的です。当院には現在、この資格を持つ薬剤師は私以外にも複数名います。
――
得た知識は、業務にどのように生かされていますか。
やはり知識が生きるのは、患者さんへの説明の時です。特に、栄養に関する知識は役立っていると感じます。
実は、薬と栄養にはとても密接な関係があります。薬との飲み合わせに注意しなければいけない食品もありますし、リン値やカリウム値が高い患者さんであれば、食生活を変えることで、薬を減らしたり、薬を飲まなくても済むようになったりするケースもあります。私たち薬剤師は、「薬でどうにかする」のではなく、「薬を飲まなくても済む」方法を一緒に考えることも重要だと思っています。
――
薬剤師でありながら、「薬を飲まなくて済む」方法を考えるというのは意外です。薬の面だけではなく、患者さんの全体をみるという発想ですね。
学会事務局でのひとコマ

患者さんの病気や症状、治療薬だけでなく、全体を見ることは大変重要だと考えています。そのためには、職種を超えた幅広い知識が必要で、資格の取得以外にも、院内での勉強会や、薬剤師を対象とした学会、研究会での活動も積極的に行っています。自分や当院の薬剤師だけでなく、薬剤師全体のレベルアップを図れるよう、後進の育成にも取り組んでいます。
大切なのは、患者さんの治療のモチベーションを維持すること
――
これまでの業務の中で、心に残る患者さんとのエピソードがあれば教えてください。
私の場合、どちらかというと失敗したエピソードばかりが思い出されます。若い頃は、知識不足や経験不足のために、多くの失敗と後悔をしました。例えば、カリウム値が高い患者さんに強く指導しなかったために症状を悪化させてしまったことや、患者さんの副作用に気づけなかったこと、体のかゆみを訴える患者さんに原因を尋ねられても説明できなかったことなどでしょうか。失敗したことを一つ一つクリアしながら、これまで勉強を重ねてきました。患者さんの力を借りて学ばせてもらっているような気持ちです。これからも、今できることをしっかりと継続し、積み重ねていきたいと思います。
――
最後に、患者さんへのメッセージをお願いいたします。
透析治療は本当に大変だと思います。血液透析は週3回の通院、腹膜透析では毎日の透析液の交換が必要な中で、服薬や日常生活にも気を配らなければいけません。
そうした状況で、私たち医療従事者が果たすべき役割は、患者さんの治療のモチベーションを維持できるようにサポートすることであると考えています。透析治療では、看護師、管理栄養士、臨床工学技士など、多くの職種が関わっています。医師に聞きにくいことがある時も、遠慮なく私たちに相談してください。
そして患者さんへのお願いとしては、処方された薬をしっかりと飲んでいただくことですね。私たち薬剤師もできることは協力しますので、一緒に頑張っていきましょう。
鎌田 直博 さん 写真

取材実施日:2021年7月13日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです(インターネットを利用したリモート取材)

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