透析について考える

このコーナーでは、透析患者さんの治療や暮らしを支える医療従事者の方にご登場いただき、
透析療法を続けながらも人生を楽しむコツなどについて お話しいただきます。

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透析サポーター インタビュー Vol.6
透析患者さんの運動機能の維持向上を目指して
“続けられる運動プログラム”を一人ひとりに実施

平松 英樹 さん

体力の改善や維持向上、悪化防止を支えるリハビリテーションのプロである、理学療法士。原田愛永さんは、リハビリテーションの中でも腎臓リハビリテーションと呼ばれる分野に深く携わり、日々、透析患者さんの運動をサポートしています。腎臓リハビリテーションとはどのようなものか、そして透析患者さんにおすすめの運動は何か、普段の業務内容とともにお聞きしました。

医療法人社団光生会 さがみ循環器クリニック 理学療法士 
原田 愛永 さん

体力の改善や維持向上、悪化防止を支えるリハビリテーションのプロである、理学療法士。原田愛永さんは、リハビリテーションの中でも腎臓リハビリテーションと呼ばれる分野に深く携わり、日々、透析患者さんの運動をサポートしています。腎臓リハビリテーションとはどのようなものか、そして透析患者さんにおすすめの運動は何か、普段の業務内容とともにお聞きしました。

常勤2名、北里大学に通う大学院生4名が300名以上の透析患者さんをサポート
――
理学療法士の仕事の中でも、腎臓リハビリテーションを中心に行われているとのことですが、どのようなものですか。
腎臓リハビリテーションは、腎臓病の患者さんの身体的、精神的な苦痛を軽減し、生命予後や生活の質(QOL)の改善に向け、食事、運動などの包括的なサポートを行うものです。うち、理学療法士は運動面でのサポートが中心となります。
当院には常勤2名、北里大学に通う大学院生4名の理学療法士がいて、医師の指導のもと、300名あまりの外来透析患者さんおよび入院患者さんの運動療法(指導を含む)を行っています。また、他の合併症がある場合は、各疾患に応じたリハビリテーションも実施します。
――
具体的にはどんなことを行うのでしょうか。
年に1回、あるいは必要に応じて半年に1回、握力や歩行能力、膝の曲げ伸ばしの力などの運動機能、歩数計を用いた一日の歩数や運動習慣などの身体活動量、さらには心理面や精神面を含む身体の状況を包括的に評価し(身体機能評価)、結果に基づいた運動指導を行います。運動指導の際は、合併症などの体の状態や性格、生活環境なども考慮しながら、その人にあったプログラムを組み立てます。
当院の患者さんには、高齢者や身体機能が低下している方が多く、フレイル(注:健康と要介護の中間の虚弱な状態)の患者さんも3〜4割ほどいらっしゃいます。そういった方は、身体機能を向上させるというよりも、現状維持を目指すこともあります。
また、運動療法を行う上では食事の摂取量やバランスも重要になりますので、管理栄養士とも連携しながら効果的な指導を行っています。
――
他の職種との連携も重要になるのですね。運動指導には、どのようなプログラムを盛り込んでいるのですか。

家での運動としては、屈伸(スクワット)や椅子を使っての立ち座りなどの筋力トレーニングや、バランストレーニングといったトレーニングをしていただいています。他にも、散歩や徒歩での買い物など、活動量が少しでも増えるような日常生活の指導をしています。
当院では全ての透析患者さんに歩数計を配布していて、一人ひとりの状態に応じて「これまでより500歩増やしてみましょう」、「4,000歩を目指しましょう」といったアドバイスもしています。
透析中の運動のほか、自宅での運動についてもアドバイス
――
運動指導を行う上で、患者さんからよく聞かれる質問は何ですか。
一番多いのは、「いつ、何をやればいいのか」ですね。「最近、筋力が落ちてきたんだけど、何をすればいいの?」といったことはよく聞かれます。
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運動をするタイミングは、いつがよいのでしょうか。
タイミングについては、患者さん個々の身体機能評価の結果と合併症、体の状態をみて決める必要がありますが、例えば、月・水・金曜日に透析を行っている方であれば、中2日(2日空き)の土・日曜で体内に水がたまりますので、月曜日の透析前に運動するのは避けた方がよいことが多いです。また、透析後に疲れが出る方は、透析後の運動は避けていただければと思います。
逆に、合併症がなく、透析後の状態にも問題がなく、血圧も安定している方であれば、透析後でも大丈夫ですし、いつ運動していただいても構いません。
――
内容についてはいかがでしょうか。おすすめの運動はありますか。
患者さんの状態によって内容は異なりますが、自宅でもできる簡単な運動がおすすめです。先ほどお話しした、スクワットや椅子の立ち座り、散歩のほか、足を前後にずらして立つバランス練習もいいですし、足の指に傷がなければかかと上げなどもおすすめです。ただ、バランス練習は転倒の恐れがありますので、周囲にすぐに掴める手すりなどがある環境で行ってください。
足以外では、握力のトレーニングもおすすめしています。握力を鍛える「ハンドグリップ」というトレーニング器具を使って、痛みが出ない程度に行っていただければと思います。また、上肢の運動をする際には、シャントの圧迫に気をつける必要があります。
――
こちらの施設では透析中の運動も行っていますか。

透析中の運動の様子

はい。当院では外来透析患者さんで、身体機能評価の結果に基づき移動能力の低下を認める方や興味のある方を対象に、透析中に重りやゴム、ボールを用いた下肢の筋力トレーニングを集団で行っています。90日間の期間限定ですが、お声がけをした患者さんのおよそ3割が実施してくださっています。
20年前から運動指導をしている患者さんが今も歩いている
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原田さんご自身は、運動指導を行う上で心がけていることはありますか。
最も大切にしているのは、運動を継続できるような指導をすることです。
患者さんは、積極的に運動に取り組める方ばかりではありません。透析歴が長いと、透析後の倦怠感が強かったり、合併症が多かったりして、なかなか運動ができない方もいますし、透析導入期では、透析後の体調が把握できない上に、透析自体への不安があって、運動に対するモチベーションが持てない方もいます。そういった患者さんには、無理に運動をする必要はなく、できる範囲でいいですよ、とお伝えしていますし、できる範囲での指導を行うようにしています。
あとは、普段から外来透析室に顔を出して、患者さんに声がけするようにしています。そうしたコミュニケーションもモチベーションの維持に繋がればと思っています。
――
運動指導の手応えはありますか。
当院では20年前から身体機能評価と運動指導を行っていますが、当時から指導を受けている患者さんが、現在もしっかりと歩いているのを見ると、効果があるのかなと感じます。
身体機能評価の内容は患者さんにわかりやすくお伝えしています。患者さんも、身体機能評価で自分の状態が客観的に示されることで、実感が湧き、運動に対して前向きな気持ちになってくれるようです。年1回の測定に向けて頑張っている方も多いです。
「いまこうやって歩けているのはリハビリのおかげ」、「透析は嫌だけど、リハビリが楽しみで通院しているよ」と声をかけていただくこともあります。そんな時は、指導の大きな励みになります。
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今後の抱負を教えてください。
透析患者さんが治療を進めながらも生活が維持できるように、身体機能評価、目標設定、指導のサイクルを続けながら、引き続き、患者さんが無理なく運動に取り組めるような、実践的な指導を行っていきたいと思います。
また、当院では研究にも力を入れていて、身体機能評価のデータを活用した論文なども発表しています。全ての透析患者さんの健康寿命や生命予後を伸ばせるよう、こうした研究にも引き続き積極的に取り組んでいきたいです。
――
最後に患者さんへのメッセージをお願いします。
昔と違い、今は透析患者さんも運動をする時代になりました。筋力や体力をつけることにより、歩いてトイレに行ける、自力で通院できるといった状態も維持できますし、生活の質も維持、向上できます。無理のない範囲で結構ですので、専門家に相談の上、まずは日常生活での運動量アップや簡単な運動などを試してみてください。
中には、通っている透析施設に理学療法士や健康運動指導士がいない場合もあると思いますが、その時はぜひ、医師や看護師などの医療スタッフに相談していただければと思います。
原田 愛永 さん 写真

取材実施日:2023年3月8日 ※取材させて頂いた方の所属、役職等は取材当時のものです

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